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【獣医師の告白】野良猫は「ほとんど生き残れない」横隔膜が破裂、犬歯の折れた猫の相次ぐ保護について

石井万寿美まねき猫ホスピタル院長 獣医師
(写真:GYRO_PHOTOGRAPHY/イメージマート)

YouTubeでは、猫が人気で「猫が初めて土手を散歩したらこうなった」などの動画を見れば、ほっこりしますね。猫ってこんなにかわいいのだと再認識をする人も多いでしょう。

そして、外を歩いているときに風通しのよいところでのんびりしている野良猫を見ると、野良猫って自由でいいな、と思われるかもしれません。

しかし、まいどなニュースによりますと、千葉県で虐待が疑われる野良猫が相次いでいるといいます。この野良猫の虐待について、見ていきましょう。

千葉県北西部で横隔膜破裂の子猫や犬歯が折れた子猫が発見

写真:アフロ

千葉県北西部で意識不明の子猫を動物病院に連れていくと、横隔膜が破裂しており間もなく死亡しました。猫のボランティアの人や獣医師によりますと、誰かに腹部を蹴られた可能性が高いといいます。

その数日後、犬歯が折れた子猫が発見されました。そして同じ現場で、尻尾にけがを負った猫と脇腹に切り傷を負った子猫も見つかっているそうです。

これだけ、猫が負傷していても決定的な証拠がないので、人による虐待だと断定することはできないと思います。ただ、現実に野良猫のなかには、このような危険な目に遭っている子がいるのです。

完全室内飼いの猫で、犬歯が折れた子や横隔膜が破裂した子や尻尾にけがを負った子を診察することは、ほとんどありません。YouTubeやTwitterで見かけるように、愛されて大切にされている子が多いのです。その一方で、このような悲惨な境遇の猫がいるのです。

悲惨な境遇の猫を作らないために

写真:アフロ

千葉県で起きた野良猫のけがや虐待の疑いのニュースを読み進めていくうちに、なんともいえない気持ちになります。世の中には、猫に対して心よく思っていない人がいることも事実です。ウンチやオシッコを庭にされてよく思っていない人、そして猫アレルギーの人もいることを飼い主はいつも念頭においておく必要があると思います。

猫の飼い主の努力で、このような猫の虐待を防ぐことができるのです。

不妊去勢手術をする

猫は、飼い主が思っている以上に繫殖力が旺盛な動物です。人と違って、交尾排卵動物です。人の場合はおおよそ28日周期で排卵されます。猫の場合は、元来、単独行動の動物なので、排卵したときに雄がいないとそのエネルギーが無駄になるので、交配することで排卵するので、妊娠する確率があがります。猫はコミュニケーションのために交配はしません。子孫を作るために、交配するので、その点が、人と違うところです。

多くの飼い主は不妊手術をしていない雌の猫が「たまたま1回だけ、家出をしたけれど、遊びに行っただけだ」と主張します。筆者は交尾排卵動物であることを説明して、妊娠している可能性が高いことを伝えています。

飼い主は、猫の種としての性行動を理解せず、人と同じだと考えがちなので、このように増えた猫の多頭飼育が問題になるのです。

猫の雄と雌を不妊去勢手術しないで飼うと1年間で20匹に増えるといわれています。

猫を外に出さない

もともと野良猫だった猫を室内にいれた場合は、外に出たがります。それでも根気よく外に出さないでおくとやがて落ち着きます。そのときに安定剤などの薬が必要な場合がありますが、時間をかけてじっくり取り組むと猫の方もわかってくれます。

それと臨床をしていると「この子、外でしかウンチやオシッコをしないの」と言う飼い主もいます。その家の敷地内なら、問題はないですが、他のところでしている場合は、問題になりますね。

この場合も完全室内飼いにしていると、家の中でウンチやオシッコをするようになります。

外に出すと、猫のことをよく思っていない人がいることは事実です。もし、そのような人に危害を与えられたら猫は悲惨です。

日本は、野良猫に対して全面的に優しい国か?

日本では、野良猫に対して全面的に優しい国ではないのです。

筆者の病院でも尻尾にけがを負って、尻尾を切断した猫が来ます。誰かに虐待されたのか、どこかで尻尾を挟んだのかわかりません。でも、室内飼いの猫でこのような状態になることは稀です。

千葉の猫の虐待を疑うニュースを読んで、筆者としては千葉だけのことで、全国で起きていないと思いたいです。しかし、実際問題、外にいる猫のうち危険な目に遭っている子もいることは事実です。

このようなことは、不妊去勢手術をすること、そして猫を外に出さないことで防げるのです。

まねき猫ホスピタル院長 獣医師

大阪市生まれ。まねき猫ホスピタル院長、獣医師・作家。酪農学園大学大学院獣医研究科修了。大阪府守口市で開業。専門は食事療法をしながらがんの治療。その一方、新聞、雑誌で作家として活動。「動物のお医者さんになりたい(コスモヒルズ)」シリーズ「ますみ先生のにゃるほどジャーナル 動物のお医者さんの365日(青土社)」など著書多数。シニア犬と暮らしていた。

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