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猫の寿命が30年に? 夢のような薬はどのようなものか...

石井万寿美まねき猫ホスピタル院長 獣医師
(写真:Paylessimages/イメージマート)

猫の死因の上位にあるのが、慢性腎不全です。

愛猫家なら飼い猫が慢性腎不全にならなかったら「うちの子はもっと長生きできたのに」と思っている人も多いはずです。そんな願いを叶えてくれる薬を東京大学大学院医学系研究科疾患生命工学センターの宮崎徹教授(59)が開発しました。この研究に関心を持った人から2日余りで寄付3千万円があったので、みなさん関心が高いのですね。

今日は、その薬とそれが実用になったときの課題を考えていきましょう。

猫に多い慢性腎不全を防ぐ薬とは?

写真:IngramPublishing/イメージマート

猫は犬に比べて慢性腎不全がとても多い動物です。

シニア期(7歳を過ぎた頃)になると、血液検査をして腎臓の数値を測定しています。慢性腎不全の初期は、症状が出ないからです。

腎臓は、人も猫も同じなので一度壊死してしまうと再生しない臓器です。たとえば、皮膚ならけがをしてもまた皮膚はできますが、腎臓はそうならないのです。だから、腎臓の組織が壊死するとオシッコをろ過することが適切にできなくなるのです。

なぜ猫がこんなに慢性腎不全になりやすいのか、よくわかっていませんでした。宮崎先生が、AIMという物質を発見しました。このAIMが猫では、他の動物のように機能していないことを突き止めたのです。

夢の薬 AIMとは?

AIMはタンパク質のひとつです。宮崎先生は「マクロファージを死ににくくする・元気にする」という意味の英語の頭文字を取りAIMと略語にしたとおっしゃっています。

ここに出てくるマクロファージは免疫細胞のひとつで、その働きは「体内の死んだ細胞や不要なたんぱく質といったゴミを取り込み分解して不要物を除去すること」です。不要物が除去できずに腎臓にたまることなどが慢性腎不全の原因のひとつです。

マクロファージがどれを除去するべきゴミかどうかを見分けるときに標識として働くのがたんぱく質AIMなのです。

体内のゴミにAIMが結合しているのを目印にマクロファージが食べています。腎臓内のゴミを食べてもらうことは、たとえば「トイレの排水管のゴミを詰まらないように」することです。

実際にAIMをどのように使うの?

東京大学のサイトなどによりますと、若い時期から予防的に注射として投与するとなっています。具体的には書いてないのですが、3、4歳ぐらいから定期的に注射をうつため動物病院に通うことになるのでしょう。この研究は、コロナ禍で資金不足だそうなので関心がる人は、東京大学基金から支持することができます。

AIMが実用化されたときの課題とは?

腎機能の低下した猫にAIMの効果が見込めれば、猫の寿命が15歳から30歳に延びることも不可能ではないことになります。それが近い未来に起きるといろいろな課題があります。そのことを考えてみましょう。

長生きすると、終身飼育はどうなるの?

写真:CarteBlanche/イメージマート

いまでも猫が長生きするので、飼い主がシニアになり老老介護が問題になっています。

飼い主が30代で猫を飼い始めると、60代になった頃に猫の寿命が来ることになります。それより以降で猫を飼い始めるとその猫を終身飼育できるかどうか問題になります。

AIMは、注射をするようなので、猫を動物病院に連れて行く体力、そして経済力を70代以降になっても持ち続けていないと飼うことは難しいですね。

飼い主が元気でないと猫の面倒を見ることに課題が残ります。いまは猫の保護施設では60代以降の人には、譲渡しないところもあります。AIMが一般的になると、このような年齢ももっと若くしないといけなくなります。

AIMの料金の課題

だれでも若いとき猫が飼えるので、AIMの料金はどれぐらいになるか問題ですね。あまり高価な薬になると、一般的な飼い主が注射しにくいなどになります。飼い主の経済的状況で猫の寿命が左右されるのも問題ですね。

医学が進歩するといままで病気で苦しんでいた猫が、吐く、食欲不振、貧血などを起こしてやがて亡くなってしまう慢性腎不全を予防できることはすてきなことです。

そうなったときに、飼い主は猫にどうしてあげることが一番いいかを考えて飼うことは大切ですね。30年生きる子が最後まで幸せに暮らせる世の中になることを切に願います。

まねき猫ホスピタル院長 獣医師

大阪市生まれ。まねき猫ホスピタル院長、獣医師・作家。酪農学園大学大学院獣医研究科修了。大阪府守口市で開業。専門は食事療法をしながらがんの治療。その一方、新聞、雑誌で作家として活動。「動物のお医者さんになりたい(コスモヒルズ)」シリーズ「ますみ先生のにゃるほどジャーナル 動物のお医者さんの365日(青土社)」など著書多数。シニア犬と暮らしていた。

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