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幼すぎるペットの販売を法令で禁止に...その意外な理由とは?

石井万寿美まねき猫ホスピタル院長 獣医師
(写真:アフロ)

コロナ禍でペットを飼いたい人が増えています。にわかペットブームが到来。ペットショップに並んでいる子犬や子猫は、かわいいですね。でも6月から幼すぎる子犬・子猫が並ばなくなるはずです。

つまり生後56日以下の子犬や子猫の販売を原則禁止する「8週齢規制」を定めた改正動物愛護法が6月1日に施行されるからです。

今日は「8週齢規制」には、どのような背景が潜んでいるのか、そして今後どうあるべきかを考えてみましょう。

「8週齢規制」とは?

8週齢規制とは、簡単に説明しますと生後56日以下の子犬や子猫を母親から引き離して、販売や展示をしてはいけないということです。6月1日までは、7週齢規制で49日以下の子犬や子猫はダメというものです。この法律によって、母親と一緒にいられる時期が1週間延びたということです。

なぜ、いままで「7週齢規制」だったか?

ペットショップで、並んでいる子犬や子猫を求める人は、「かわいい」「元気」というキーワードで買い求めるのでしょう。子猫や子犬は、生まれてまもない子ほどかわいいです。つまり幼いほうがペットショップでの売れ行きはよかったのです。

そのうえ、ブリーダーやペットショップが生まれて早く販売した方がコスト面で優位であったからです。

「7週齢規制」の問題点とは?

写真:PantherMedia/イメージマート

早い段階で母親やきょうだいと引き離されてしまった犬や猫は以下のような問題点があります。

□噛みぐせがある

□吠える

□他の犬や猫と仲良くできない

□猫の場合は、なんでも噛んで飲み込んでしまう(ウールサッキング)

子猫に毛布をかけてあげたら命の危険に 知られざる「ウールサッキング」の恐怖とは?

に書いています。

□病気に罹りやすい

□餌をしっかり食べない

などがあります。犬や猫の性格は、親から受け継いだ遺伝と、生後の環境のふたつの要素から作りあげられます。生活環境がよくないと、念願のペットをいざ飼ってみたいけれど思っていたのとは違い凶暴だったりして、「飼育放棄」をする人がいるので問題になります。

「8週齢規制」のメリットとは?

子犬や子猫には、「社会化」する時期が必要なのです。幼い時期に親元で十分な学びができると、飼い主の元で問題行動が減るといわれています。

□母親と一緒にいるメリット

写真:PantherMedia/イメージマート

生まれて間もないころは、母親が世界の中心です。母親はぬくもりと栄養を子犬や子猫に提供します。母乳をしっかりもらうと栄養が体に回り強い体になりますね。さらに子犬や子猫は、生後1カ月で乳歯が生えてきます。その乳歯で乳房を噛むと母親に怒られます。自分より強い母親に注意されてやめることを覚えます。そして、母親が子犬や子猫の体を懸命にグルーミングをしてくれます。子犬や子猫は新しいトラブルなどに遭遇すると、すぐに母親を探します。子犬や子猫は母親と一緒にいることで安らぎを覚えて、落ち着いた性格に育つのです。

□きょうだいと一緒にいるメリット

写真:アフロ

きょうだいと触れ合うことで、子犬や子猫は、動物同士、仲間同士の関係を築くことを覚えます。つまりコミニケーション能力ができるのです。

きょうだいでいると遊びの一環として噛み合ったり、取っ組み合いをしたりします。そのときに、嚙まれたときの痛みを知って、相手に手加減することも覚えていきます。

□1匹でショーケースに入れられるデメリット

1匹でペットショップのショーケースなどでいると、きょうだいなどと接種する機会がなくなります。他の動物や人もガラス越しに見るだけです。外の世界に少しでも慣れていないと、実際に飼い主のところに行ったときに、臆病になったり不必要に怖がったりすることもあるのです。

一般的には、犬は3~12週、猫は2~7週の時期に「社会化」するといわれています。健康で性格も安定させるためには、母親やきょうだいと長い間いた方がいいことが、動物行動学からもわかっています。

8週齢規制の懸念

しかし、「8週齢規制」には以下のような懸念があります。

生後すぐの子犬や子猫は、一週間で見た目が変わってしまいます。ペットを求めている人たちは、かわいい子がほしいのです。幼すぎる子をほしがる傾向があります。

そのためブリーダーなどが、子犬や子猫の生年月日を調整してしまう懸念が残ります。子犬や子猫の生まれた日は、ブリーダーの申告制だからです。獣医師なら、生後1カ月か2カ月の区別はできますが、一週間程度だと難しいですね。このようなことを防ぐためには、ブリーダーの申告制ではなく、第三者のチェック機能が必要ですね。

まとめ

写真:アフロ

本当は、母親やきょうだいから引き離すのは9週や10週などもっと遅くてもいいですが、消費者の「かわいい」子がほしいというニーズとブリーダーやペットショップの手間などの問題から、「8週齢規制」つまり(56日)までは母親やきょうだいと一緒に過ごすように、法改正されました。

子犬や子猫を幼い時期に、しっかり「社会性」を身につけさせておかないと成長しても問題をかかえることが多くなります。

犬や猫など、ペットを求める飼い主は、幼すぎる子犬や子猫のデメリットをよく理解して意識を変化してもらいたいです。飼い主の考えが変わると、いまのような生体販売ビジネスは見直されて、アニマルウェルフェア(動物の福祉)は向上するようになるでしょう。

まねき猫ホスピタル院長 獣医師

大阪市生まれ。まねき猫ホスピタル院長、獣医師・作家。酪農学園大学大学院獣医研究科修了。大阪府守口市で開業。専門は食事療法をしながらがんの治療。その一方、新聞、雑誌で作家として活動。「動物のお医者さんになりたい(コスモヒルズ)」シリーズ「ますみ先生のにゃるほどジャーナル 動物のお医者さんの365日(青土社)」など著書多数。シニア犬と暮らしていた。

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