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野良猫は「ほとんど生き残れない」乳飲み子が“落ちている”危うさと獣医師の願い

石井万寿美まねき猫ホスピタル院長 獣医師
(写真:PantherMedia/イメージマート)

天気のよい昼間は、半袖のTシャツでもいい気候になりました。

コロナウイルスは、変異株が出てきたため、人混みを避けて公園に散歩に行くことも多くなりました。そんなとき、野良猫を見かけると「彼らは自由でのんびりしていていいなぁ」と思っていませんか。

しかし、実際は、野良猫は過酷な環境にいるのです。「生き残れる子は、ほんのわずか」という実態があります。特に、乳飲み子の野良猫には過酷な現状があるのです。今日は、生後間もない野良猫を見ていきましょう。

3月から公園や道に乳飲み子の猫が落ちている?

写真の上部に、白、茶、黒の子猫がいます。公園に捨てられていました。撮影はMさん
写真の上部に、白、茶、黒の子猫がいます。公園に捨てられていました。撮影はMさん

筆者の動物病院には、猫の動物愛護活動をしている人たちが、多く来院します。

猫は、季節繁殖動物なので3月から11月に出産します(人工的に光を当てるなどをしないとこの時期だけに出産します)。

そのため、3月が過ぎると動物愛護活動をしている人は、生後間もない子猫を複数匹保護することになるのです。

写真のように、公園の目のつくところで乳飲み子の野良猫が保護されました。この子らは、野良猫の赤ちゃんだと思われるかもしれません。

猫の動物愛護活動をしているMさんは、「野良猫は、あんなに人目につくところに、猫を放置しないですよ。そして、この間は、月齢の違う子猫が捨てられていました」と疲労が積もった顔で言い切りました。

当然、野良猫が自分の産んだ子をもう育てられないと放棄することもあるでしょう。その場合は、人目につきにくいところに放置されるのですが、公園の発見されやすいところに、へその緒がついた子猫がいることもあります。

なぜ、乳飲み子の野良猫が公園にいると危険か?

保護されたまだへその緒がついた子猫 撮影はMさん
保護されたまだへその緒がついた子猫 撮影はMさん

もし、人の赤ちゃんが公園に放置されていると考えると、命の危険と隣合わせであることが理解していただけると思います。猫といえども産まれてすぐは、一匹では生きていけないのです。それは以下のような理由です。

□子猫、特に乳飲み子は、体温調節が下手

体温が低下するので、産まれたときは、母猫のお腹の辺りやきょうだい猫と一緒にいます。そして、お互いの体温で温めあっています。

□1時間、2時間ごとに哺乳が必要

人がいまは忙しいからと、子猫に多量のミルクを飲ませることはできないのです。多量のミルクをあげると、子猫は吐いて誤嚥性肺炎になることもあります。

□乳飲み子(生後2週齢までの子猫)は、自分で排泄ができない

自然界では、母猫が舐めてウンチやオシッコを出します。一方、人がお世話をする場合は、ぬれたテッシュなどで、排泄を促します。

つまり上記のような理由で、母猫がいない状態で、乳飲み子を放置することは、死と隣り合わせなのです。

ミルクボランティアとは?

乳飲み子に哺乳しているようす 撮影はMさん
乳飲み子に哺乳しているようす 撮影はMさん

このような乳飲み子の野良猫のために、動物愛護団体の中には「ミルクボランティア」といった制度があります。子猫が自分の力でフードを食られるようになるまで、子猫の面倒をみます。勤め人には「ミルクボランティア」は難しいです。

子猫の離乳は生後1カ月前後が目安ですが、以下のようにこまめに哺乳しないといけないのです。

□生後10日くらいまでは1日8~12回に分けて哺乳

寝る時間も2時間ごとに子猫に哺乳します。この時期の乳飲み子を預かると、ミルクボランティアはゆっくり寝ることもできません。

□生後10日以降は、1日4~8回に分けて哺乳

この時期になると、3時間から6時間ごとに哺乳します。

生後2週間までは、排泄も自分できないので、そのサポートも必要です。

だれでもミルクボランティアができるのか?

慣れている人じゃないと、ミルクボランティアは難しいです。乳飲み子が弱くなっていることが多いので、ミルクを飲ませにくいし、あまり積極的の飲まない子がほとんどです。

そのうえ、ミルクボランティアは一日中家にいる人じゃないとなかなかできないです。働いていると2時間ごとに子猫に哺乳しにくいですね。

哺乳中の子のよくない傾向

子猫の体重測定 撮影はMさん
子猫の体重測定 撮影はMさん

このように、ミルクボランティアが懸命に哺乳してもなかなかうまく育たないことが多いです。それは、以下のようなことが起こると注意が必要だからです。

□体重が増えない

上記の写真のように毎日、体重測定をしてください。体重が増えない子、減る子は命が危ないです。

□口や舌の色が赤くない

□触ると冷たい

上記のような子猫は治療してもあまりよくならないことが多いです。

動物愛護団体の人手不足

月齢が違う子猫が同じ場所に遺棄されていた 撮影はMさん
月齢が違う子猫が同じ場所に遺棄されていた 撮影はMさん

筆者の回りの動物愛護活動をしている人は、乳飲み子を保護した途端に睡眠不足に陥っています。

それは、動物愛護団体は、人手も経済的にも潤っているところは、ほとんどないからです。そのうえ、乳飲み子を保護すると、2時間おき、3時間おきにミルクを与えないといけないので、オーバーワークになるのです。

哺乳する間は1カ月ぐらいですが、同腹全部を保護することも多いです。その場合は、複数匹になるので、つまり一度に数匹の世話をすることになります。

動物愛護活動をする人は、自分の睡眠を顧みず、せっせとミルクを与えています。そのために、以前からいる保護猫の慢性腎不全やがんの子の世話がどうしてもこの時期に疎かになってしまうこともあります。乳飲み子の野良猫を保護することは、そういうことも意味するのです。自分の家で産まれた猫を遺棄することは、動物愛護法で違反行為です。

乳飲み子が道に落ちていない日本にするには?

2匹の乳飲み子 撮影はMさん
2匹の乳飲み子 撮影はMさん

何度も書きましたが、猫には不妊去勢手術をすることです。そして、望まない命を産み出さないことが大切ですね。

それ以外に、この記事を読まれた方で、時間の余裕のある人は、ミルクボランティアになってください。

動物病院や動物愛護団体に問い合わせすると、子猫のミルクの与え方などを教えてくれます。また、ネットで「ミルクボランティア」と検索をすると、沢山のサイトが出てきますので、それで探すのもいいかもしれません。

そして、乳飲み子の野良猫を救ってあげてください。筆者は、乳飲み子の野良猫を落ちている現実をひとりでも多くの人に知っていただきたくて記事にしました。

まねき猫ホスピタル院長 獣医師

大阪市生まれ。まねき猫ホスピタル院長、獣医師・作家。酪農学園大学大学院獣医研究科修了。大阪府守口市で開業。専門は食事療法をしながらがんの治療。その一方、新聞、雑誌で作家として活動。「動物のお医者さんになりたい(コスモヒルズ)」シリーズ「ますみ先生のにゃるほどジャーナル 動物のお医者さんの365日(青土社)」など著書多数。シニア犬と暮らしていた。

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