Yahoo!ニュース

新型コロナでないもうひとつのコロナウイルスから【ペットバブルの闇】が暴露される?

石井万寿美まねき猫ホスピタル院長 獣医師
(写真:GYRO_PHOTOGRAPHY/イメージマート)

「コロナ需要」といわれて、いまペットバブルが起きています。

大阪の下町のペットショップでもポメラニアンが65万円(以前は、20万円弱)で売られていたりします。さらに、子犬や子猫の需要に間に合わないようで、品薄で入荷待ち状態が続いています。ペットの値段が高騰しています。まさにペットバブルですね。

獣医師の筆者からすれば、健康で愛情深く育てられた子犬や子猫が市場に並んでいるとまだいいのですが、どうもそうでもないことが、暴露されました。

臨床現場でいると、ペットショップで購入した子犬が新型コロナ(SARS-CoV-2)ではない、もうひとつの犬腸管コロナウイルス(CECoV)を持っていて下痢をしているケースがありました。

新しいテクノロジーであるPCR検査を獣医現場でも使い治療をしています。そこからわかるいまのペット市場の闇について解説していきましょう。

下痢で食欲がないのは、環境が変わったせい?

写真:GYRO_PHOTOGRAPHY/イメージマート

ペットショップで購入したというミニチュア・ダックスフントが来院しました。

飼い主によりますと「一週間前に家に来たけれど、だんだんと食べなくなり、下痢をして吐き出したのです」ということでした。

そのミニチュア・ダックスフントは、1キロしかない子犬でした。飼い主は心配になり購入したペットショップに問い合わせところ「飼い主さんのところに行き環境が変化してそのストレスせい」と言われたそうです。それでも飼い主にすれば、だんだんと弱ってくる子犬を見ていられなくなったので、連れて来たのです。

筆者が、初めて診たときは、動きも鈍く、体から下痢の嫌なニオイがしていました。下痢止めの注射だけにしようかな、と迷いましたが、あまりにも元気がないので、ウンチを下痢パネルというPCR検査をしてくれるところに出しました。PCR検査は、新型コロナウイルスですっかりお馴染みになっていますが、遺伝子を検査してくれます。

顕微鏡下でウンチを調べることもできますが、ウイルスなどは顕微鏡ではわからないので、最近の獣医療では、このような新しいテクノロジーも使います。

ペットショップが言う「環境が変わったストレス」だけで、食べないで下痢をしているだけなら、PCR検査は全て陰性で返ってくるはずです。

血液検査をして、抗生剤や下痢止めを注射しました。血液検査の結果では、炎症反応をしめすCRPが、7mg/dL以上(正常値は、0.7mg/dL以下)で高値でした。

この子犬が、喋ることはできませんが「ウンチを証拠として提出するので、僕がいた環境をあばいてくれ」と言っているように、筆者には思えました。

下痢のPCR検査結果は?

犬の下痢パネル(PCR検査) 撮影は筆者
犬の下痢パネル(PCR検査) 撮影は筆者

数日して返ってきた結果は以下です。

□犬腸管コロナウイルス(CECoV)陽性

□カンピロバクター・ジェジュニ 陽性

このふたつの原因で、この子犬が下痢をしていたのです。

下痢パネルの結果からいえることは?

ペットショップで外から見えるところは、ピカピカして輝いていたかもしれません。しかし、ブリーダー、運送時、オークション会場など不衛生な環境にいたという可能性が高くなります。

犬腸管コロナウイルスの感染経路は、経口感染です。母子感染ではありません。つまり子犬は、犬腸管コロナウイルスが含まれているウンチや嘔吐物を舐めたなどして、口から入ったということなのです。

カンピロバクター・ジェジュニは、犬の腸内にいる悪玉菌で、下痢などのときは増えるので、そう問題ではないです。

なぜ、このようなことが起こるか?

写真にある犬パルボウイルス、犬ジステンパーウイルスなら、ワクチンもあるので予防できます。そして、このふたつのウイルスを持っていると、命にかかわるので、すぐに亡くなる可能性が高いので懸命に予防します。宝石のような子犬が亡くなると困るからです。

その一方、下痢を起こす犬腸管コロナウイルスは、成犬が持っていても不顕性感染のことが多いのです。つまり下痢などの症状がでないのです。ワクチンがありますが、100%効果があるともいいにくいのです。

しかし、子犬は免疫力が弱いため、下痢などの症状が出て今回のケースのように、食べなくなると命にかかわることもあるのです。全部の子犬が、犬腸管コロナウイルスを持っていても、症状が出るとは限らないから、予防が手薄になるのですね。

まとめ

写真:アフロ

コロナ禍で、会いたい人も会えず、自宅でいる時間が長くなっています。そんなとき、自分のさみしさなどを癒やしてくれる犬や猫を飼いたい人が、急増しています。需要が間に合わず、ペットバブルが起きているのです。

衛生的な環境で飼育され運搬されていたらこのような犬腸管コロナウイルスは持っていません。多量に子犬がいて、そのときの排泄物や嘔吐物の処理が適切にされていないので、このようなことが起きるのでしょう。

いままでペットを飼ったことがない人が、犬腸管コロナウイルスを持った子犬を飼ってしまうと、ウンチをよくし、そして下痢なので家の中を汚します。そんな理由から飼育放棄につながるのではないか、と筆者は危惧します。

環境が変わったストレスのせいとペットショップはいうかもしれません。でも、PCR検査という新しいテクノロジーを使うと、このような事実が浮き彫りにされるのです。

ペットを飼いたい人が急増するということは、こんな闇もあるのです。飼い主は、60万円とか80万円で購入した子犬なので、優秀なブリーダーやペットショップだと思うかもしれません。でも、臨床獣医師は、PCR検査という武器を通して、このようなことを推測できます。

生後2カ月は、まだ成犬ではなく体が弱いので、急に容体が変化することもあります。子犬が、下痢が続くようならPCR検査をして、手遅れにならないように。この下痢の子犬は、治療の効果があり元気にしています。

まねき猫ホスピタル院長 獣医師

大阪市生まれ。まねき猫ホスピタル院長、獣医師・作家。酪農学園大学大学院獣医研究科修了。大阪府守口市で開業。専門は食事療法をしながらがんの治療。その一方、新聞、雑誌で作家として活動。「動物のお医者さんになりたい(コスモヒルズ)」シリーズ「ますみ先生のにゃるほどジャーナル 動物のお医者さんの365日(青土社)」など著書多数。シニア犬と暮らしていた。

石井万寿美の最近の記事