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ホスピスで肺がん患者に起きた奇跡の実話 モルヒネ猫(ペット)の不思議な力とは?

石井万寿美まねき猫ホスピタル院長 獣医師
(写真:アフロ)

全国の特別養護老人ホームで、利用者が愛犬や愛猫と一緒に入居できるところは、神奈川県横須賀市にある特別養護老人ホーム「さくらの里山科」だけです。民間の施設にはありますが、それでも数が少なくその上、料金が高価だったりします。しかし、飼い主が、最期を迎えるときもペットの役割は大きいです。今日は、人の緩和ケアとペットの力について考えていきましょう。あるホスピスで起こったモルヒネ猫の話を紹介します。

ホスピスでのペットの役割

10年以上前に、近畿地方のとあるホスピスに取材に行きました。

ホスピスとは、がんなどの死期の近い人が入院する病院で、緩和ケアを中心に治療をしています。簡単に言えば、痛みや不安のコントロールなどを主にしてくれます。

一般の病院はペットが入ることは禁止されています。私が、取材に行ったホスピスは、患者が望めば、積極的にペットと暮らしたり、会ったりできるところでした。そこにはモルヒネ猫がいました。

・モルヒネ猫とは?

ペットの果たす役割は大きく、飼い主の緩和ケアをしてくれるのです。

たとえば、私が取材したホスピス(緩和ケア病棟)で肺がんの骨転移があった患者さんは、痛みがひどく、かさなりモルヒネを投与されていました。それでも痛みは完全に取りきれませんでした。しかし、不思議なことに愛猫が来ているあいだは痛みから解放されていたのです。それで、この猫を「モルヒネ猫」と名づけたそうです。

このようにがんなどの末期患者さんには、愛犬や愛猫に接するだけで、どんな痛み止めより効果があることもあるのです。

・ペットの力とは?

小動物の臨床現場にいると、末期のがんの飼い主にとって愛犬や愛猫の重要性を認識します。

飼い主によっては、家族以上の位置を占める場合もあります。家族と別れがつらいように、ペットと別れるのもつらいのです。私の病院では、ある飼い主のAさんはがんで入退院を繰り返していました。Aさんは、もう自分の人生は、そう長くないと自覚されていたらしくて杖をつきながら、動物病院に訪れて「ミーちゃん(仮名)をよろしく頼みます」と私に伝えてきました。その後、Aさんは、亡くなられましたが、ミーちゃんは残った家族に大切にされて18歳ですが、元気にしています。ミーちゃんは、いま、慢性腎不全なのですが、治療をするたびにAさんのことを思い出します。

犬猫は、いまやペットの域を超え、パートナー、あるいは「息子」や「娘」になっています。SNS上では、ペットの誕生会の動画や写真は数多くアップされています。ペットと泊まれるホテルもあります。旅行に犬を連れていく人は、そう珍しくない時代になっています。そんな社会なので、老人施設やホスピスもペットに理解があるようになってほしいです。

・ホスピスとペットとは?

全部のホスピスが、ペットに理解があるわけはでないです。動物アレルギーのある人も一定数います。

ただ、ホスピスによっては、ペットは部屋のなかで飼ってもかまわないところもあります。大型のペットは昼間だけというところもあります。一般の病院よりは、ペットに対して理解がありますが、ホスピスによって違うので、調べてくださいね。ペットの飼育は不可でも、犬猫を庭に連れてくるのは可、となっているところもあります。

アニマルセラピー

ホスピスだけではなく、他の施設でも動物の力としてアニマルセラピー(Animal Assisted Therapy AAT)というものがあります。

動物との関わりを通して、ストレスが軽減したり、精神的に和らげだりと健康を回復させることができると考えられています。たとえば、不登校や引きこもりの子の気持ちがポジティブに変化したり、乗馬やイルカなどに触れ合うことで情緒が安定する場合もあります。

よく知られているのは、長期間の入院を余儀なくされている患者さんが、訓練されたセラピードッグに触れ合うことで、情緒面が安定したりします。また、難治性の病気で生きることへの意欲が低下している人が、ペットの世話をすることで、意識がプラスに変わることもあります。

このように、動物によって生活が向上する人がいることがわかってきています。

まとめ

「人は死を背負って生きている」とも言えますね。人が生きてきた「生きざま」が「死にざま」に凝縮されているのです。できれば「最期のことば」が「ありがとう」と言えて迎えられるといいです。そのとき、仕事柄、傍らに愛犬や愛猫がいるのは、すてきな風景だと思います。

がんの緩和ケアに「モルヒネ猫」のようなペットに奇跡の力があることを認識していただき、老人施設などもペットと入居できるところも増えていくように望んでいます。もちろん、ペットの世話や残されたペットの問題などもありますが、社会が知恵を出し合って解決する方向に行けるといいですね。高齢化が急速にするわが国において、ペットと触れ合う意味が大きく変わってきたと思います。ペットはまさに、家族なのですから。

まねき猫ホスピタル院長 獣医師

大阪市生まれ。まねき猫ホスピタル院長、獣医師・作家。酪農学園大学大学院獣医研究科修了。大阪府守口市で開業。専門は食事療法をしながらがんの治療。その一方、新聞、雑誌で作家として活動。「動物のお医者さんになりたい(コスモヒルズ)」シリーズ「ますみ先生のにゃるほどジャーナル 動物のお医者さんの365日(青土社)」など著書多数。シニア犬と暮らしていた。

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