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多頭飼育崩壊で一軒家に238匹という衝撃! 繁殖学から考えるネコ算の仕組みとは?

石井万寿美まねき猫ホスピタル院長 獣医師
(写真:ロイター/アフロ)

札幌の一軒家で猫が238匹、保護されるという衝撃的なニュースが飛び込んできました。その家には、猫の骨(共食いで骨があったのでしょう)まであったということです。このような例はもちろん、特別なことです。でも、たったひとつのことを怠ると、猫を飼っている人なら誰の身に起こっても不思議ではないのです。そのことを猫の繁殖学を通して考えていきましょう。

 札幌市北区の一軒家で3月末に猫238匹が保護されていたことが20日、市などへの取材で分かった。大量に繁殖し、十分に飼育ができない「多頭飼育崩壊」の状態に陥っていたとみられる。動物愛護法を所管する環境省は「1カ所で200匹を超える猫が保護されるのは非常に珍しい」としている。

出典:一軒家で猫238匹保護、札幌 多頭飼育崩壊か

なぜ、238匹まで猫が増えたか?

答えはシンプルで避妊・去勢手術をしていなかったからです。「猫の手避妊術をするのがかわいそうだから、どうしようかな」と考えているうちに、あっというまに、20匹ぐらいになります。この飼い主は家賃を滞納していたそうで、その時点で、多額の避妊・去勢手術の費用を払えなかったのでしょう。地域によって手術代は違いますが、20匹だと20万円以上は必要になります。

ネコ算

ネズミ算ならぬネコ算があることを説明します。

たとえば、生後2カ月の猫をオスとメスつがいで飼い始めます。可愛いと思っている間に、いまでは生後6カ月で発情がきます。妊娠期間が約2カ月で、平均で4匹ぐらい産みます。ここまで飼い始めてから、半年ぐらいです。これで合計2匹+4匹で、合計6匹ですね。

この6匹の中で3匹(母猫1匹+子猫2匹)がメスだとします。するとまた、母猫は、妊娠しまた、子猫を産みます。子猫は、生後6カ月ぐらいで発情が来ますので、その後、2カ月の妊娠期間をへて、またそれぞれ4匹子猫を産み、全部で8匹、母猫も産むので、それに4匹が加わります。2年もしないうちに、一気に18匹です。

こんな風に、避妊・去勢手術をしないでおいておくと、ネズミ算ならぬネコ算方式で増えていくのです。

猫の繁殖学

・猫の発情開始は生後6カ月からあります(早い子は生後4カ月から)。

・犬のように、半年に1度ではなく、日照時間によって変わってきます。照明が長い時間ある環境だと、年に2回から3回ぐらい出産します。

・猫の発情は人間にはわかりにくい。犬のように陰部から血のような分泌物が出ないからです。

・猫の交配時間は、数秒なのでいつ交配したか、わかりにくいです。

・猫は交尾排卵動物なので、交尾の刺激で排卵するため、交配したらかなりの高い確率で妊娠します。

・猫の妊娠期間は、約2カ月です。

・密封した空間で猫を飼うと近親交配をします(親子、兄妹、姉弟で交配を繰り返します)。

まとめ

もちろん、1軒家で283匹も猫を多頭飼育するというのは、まれなケースでしょう。

一方、避妊・去勢手術をしないで、ただ「可愛い」でつがいの猫を飼ってしまうと、このようなことが起きてもなんの不思議でもないのです。増えすぎて、避妊・去勢手術をしようと思ったら、多額の手術代になり、考えているうちに、また、子猫が増えるという状態に陥ってしまいます。

「可愛い」で飼い始めた猫が、やがて食事が足りずに共食いするまでの環境になってしまいます。猫を飼うことは、楽しいことですが、ひとりの人が飼える、世話を出来る数は、せいぜい3匹ぐらいまでです。一回、猫に出産させると、あっという間に数匹になります。そのことを覚えておいてくださいね。

猫の繁殖学について勉強することは、大切ですが、まずは、避妊・去勢手術をして飼いましょうね。

まねき猫ホスピタル院長 獣医師

大阪市生まれ。まねき猫ホスピタル院長、獣医師・作家。酪農学園大学大学院獣医研究科修了。大阪府守口市で開業。専門は栄養療法をしながらがんの治療。その一方、新聞、雑誌で作家として活動。「動物のお医師さんになりたい(コスモヒルズ)」シリーズ「ますみ先生のにゃるほどジャーナル 動物のお医者さんの365日(青土社)」など著書多数。シニア犬と暮らしていた。

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