Yahoo!ニュース

「愛犬」が原因で 子どもがいないおしどり夫婦が離婚? その謎に獣医師が迫る!

石井万寿美まねき猫ホスピタル院長 獣医師
(写真:GYRO PHOTOGRAPHY/アフロイメージマート)

仲のよい夫婦が「愛犬」が原因で、離婚になったそうです。毎日、ペットから「愛」をもらっている私としては、本当に「犬」のせいなのか。なぜ、この悲劇は起きたのか。不思議に思ったので、犬と一緒に暮らすことは、どういうことかも解説します。

愛犬が来て、夫婦仲が良くなると思っていた友子さん。ところが、仲が深まるどころかギスギスし出してしまったといいます。その理由は、驚くべきものでした。

(略)

「獣医さんから『ダックスフントはこういう体形をしているから、肥満は絶対にダメだって以前言いましたよね? 肥満気味になっていますが、犬を病気にさせたいんですか?』って言われて。でも、自分自身を反省するよりも前に『夫が勝手なことをするからだ!』って……なぜか、怒りが先に沸いてきちゃったんですよ。それは夫も同じだったようで、病院を出た途端に罵声を浴びせられました。『ちゃんとした食事をあげてるのか? 散歩が短いんじゃない? 犬の面倒は俺が全部見るから、愛情がないお前は、もう何も手を出さないでくれ!』って」

この日以来、2人の間の亀裂は決定的なものとなり、数か月後、ほぼ同時に離婚届をもらってきたという友子さん夫婦。

出典:子なし仲良し夫婦が離婚 原因は意外にも「愛犬」 破局後も互いの両親まで入り乱れての“場外乱闘”状態に

この夫婦の問題点は、犬を支配しようとしたことではないでしょうか。恐らく、自分だけのものにしようとしたことです。もちろん、散歩のときに、他の人に迷惑をかけるとよくないので、以下のことは大切です。

・無駄吠えしない。

・人や犬などを噛まない。

・ひっぱらない。

それ以外は、人でいうところの人権のような犬権をしっかり守ってあげないといけません。

家族間が険悪になると犬が取る行動

犬は、猫と違って、群れ社会の動物です。

猫はツンデレとかいいますが、犬は群れで生活している意識が強いのです。家族間で、罵声を浴びせ合うような険悪なムードがあれば、ものをいうことはできませんが、敏感に感じとっています。犬は平和主義者なので、以下の行動を取ります。

・瞬時にもめごとが起こったと察知して、夫婦の間に割って入る。

(お互い冷静になって欲しいのでしょうね。)

・よく喧嘩をしている夫婦間では、目や耳を伏せて早く嵐が終わるのをじっと待っている。

・喧嘩をする場面を見たくないので、他の場所に逃げる。

ひとつ屋根の下で暮らしているので、喧嘩が続くような家では、犬は、病気がちになります。以下の症状が出る場合も。

・食欲がない。

・下痢が続く。

・元気がない。

・ひどい場合は、免疫力が下がって、がんになることも。

穏やかな家庭の犬

穏やかな家庭内の犬は、比較的健康ですし、長生きしてくれます。犬が家のどこにいるかで、様子がわかります。

・リビングの真ん中で寝ている。

・家族の動線のところにいる。

・決して、隠れない(猫は単独生活の動物なので、隠れる)。

寝るときは、籠るなどは大丈夫です。

私の家にも17歳のミニチュアダックスフンドがいますが、リビングの中心に寝ているので、用事をしているときに、誤って踏みそうになります。きっと飼い主に気を許し、安心しきっているからなのでしょう。こんな邪魔なところに、と思って見ています。

犬に好かれるとは

犬に好かれるために、離婚した夫婦は、食べ物が重要だと思っていたようです。確かに、食べ物でも、効果があるのでしょう。

でも、犬はそんな単純ではありません。もっとよく飼い主や人間のことをわかっています。私は仕事柄、犬にとって、注射をしたり、患部を触ったりと痛いことをします。それでも長い間、治療をさせてもらうと、懐いてくれるのです。

メラノーマ(黒色肉腫)というがんが口腔内にできた犬がいました。2年近く治療をしていました。はじめは私を見ると、噛むので、診察の前に飼い主に口輪をしてもらって、持ってもらいながら、治療しました。 しかし、月日が流れるにつれて、飼い主から口輪などもしなくて抱っこができるまでになりました。もちろん、私のことが好きというわけではないのでしょうが、飼い主と仲良くしているので、私に心を開いてくれたのでしょう。

犬の食事管理について

家族がそれぞれに食事やオヤツを与えると、犬のカロリー量を把握できません。偏った食事になる可能性が高くなります。そのため、家族で食事をあげる人は、ひとりにするのが、理想です。無理な場合は、責任者を決めて、その人が把握して欲しいです。この元夫婦だけではなく、家族の多い場合は、オヤツをそれぞれが与えて、肥満傾向になるのは、臨床現場ではよく見ることです。

犬と一緒に暮らすことは

彼らは、本当に飼い主たちの様子をよく見ています。いま、機嫌が悪いか否かを。それを見て、なんとかしないととさえ思っています。長い間、人間の社会で暮らしているので、場の空気を読める犬が多いからでしょう。

もちろん、生きていると、気にいらないこと、厭なこともあるでしょう。それを全部、パートナー間で全開にして、罵り合いをしてしまうと、一緒に暮らしている犬に悪影響を及ぼしてしまうのです。「愛犬」と言うのでしたら、その辺りのことまで考えましょう。

まとめ

犬は、たくさんのことを私たちに教えてくれます。犬はオヤツなどをあげなくても、自分のことを本当に「愛してくれている」か、「考えてくれている」か、ちゃんとわかっています。犬は人間の気持ちの機微までわかるので、だから古くからずっと人間とパートナーとして寄り添いながら一緒にいるのでしょう。自分以外のものを「思いやる」ことができるだけで、人生をより豊かにしてくれます。

たとえば、犬は診察を始める前は、すぐに入り口に向かいますが、終わった途端に、診察室に私の様子を見にくるのですから。この二人の離婚の原因は、「愛犬」になっていますが、罪のない犬の汚名を返上するために、この記事を書きました。

まねき猫ホスピタル院長 獣医師

大阪市生まれ。まねき猫ホスピタル院長、獣医師・作家。酪農学園大学大学院獣医研究科修了。大阪府守口市で開業。専門は食事療法をしながらがんの治療。その一方、新聞、雑誌で作家として活動。「動物のお医者さんになりたい(コスモヒルズ)」シリーズ「ますみ先生のにゃるほどジャーナル 動物のお医者さんの365日(青土社)」など著書多数。シニア犬と暮らしていた。

石井万寿美の最近の記事