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冬本番、猫に「ミネラルウォーター」はいいの? 「猫舌」だけれど食べ物を人肌に温めて

石井万寿美まねき猫ホスピタル院長 獣医師
(写真:GYRO PHOTOGRAPHY/アフロイメージマート)

冬本番、1月になりました。今年は比較的過ごしやすいですが、寒い時期です。猫のミーちゃん(猫の名前)は、エアコンをつけた部屋で留守番しているので温活は大丈夫。でも最近、帰宅したら、水の減りが少ないけれど、寒さのせいで飲んでないのかな、と思って、ちょっと贅沢して「ミネラルウォーター」をあげていませんか。それって、もしかしたら、猫が「結石症」になるかもしれません。冬の時期の猫の水と食べ物の与え方を今回は、考えていきましょう。

下部尿路疾患とは

暑い時期に熱中症になるのは、理解していただけると思います。一方、寒い時期になると、この下部尿路疾患になる猫が増えます。

下部尿路疾患とは、膀胱から尿道までの下部尿路に起こるさまざまな病気や症状の総称です。

具体的に説明しますと、以下です。

・尿道結石(尿石症)

・膀胱炎

・尿道炎

・膀胱周辺の腫瘍

・尿道閉塞

・尿路感染症

などです。これらが単独、または複数の病気が合わさって起こります。

特に多いのが膀胱炎と尿道結石(尿石症)です。膀胱炎は、大腸菌などの細菌によって起こりますが、尿道結石は、結石が溜まる疾患です。

撮影筆者の知人 トイレをしている様子
撮影筆者の知人 トイレをしている様子

下部尿路疾患の臨床症状

・トイレに何度も入る。

・トイレから出て来ない。

・尿量が少ない。

・尿に血が混じる。

・嘔吐

・食欲不振

など

尿道結石

尿道結石は、食べ物と飲水量が少ないとなりやすい疾患です(オスに多く、ペニスの先が細いのと、尿管が曲がっているからです)。フードなどがその大きな原因なのですが、硬水などミネラルウォーターをあげてもなりやすくなるので、この病気を説明します。尿道結石は、ストルバイト結晶とシュウ酸カルシウム結晶のふたつにわかれます。

(ストルバイト結晶)

アルカリ性尿で、成分は、マグネシウム、リン酸など

(シュウ酸カルシウム結晶)

酸性尿で、成分は、カルシウムなど

なぜ、猫は尿道結石になりやすいか

猫の祖先は、アフリカの砂漠地帯で暮らしていたリビアヤマネコです。猫科の中で、例外的におとなしく、人懐っこい性格でした。そのため、人の傍にいて、イエネコになったといわれています。乾燥した地帯に住んでいるため、猫の体は、環境に応じて水分をむだなく利用できる仕組みになっています。つまり貴重な水を再吸水する仕組みが腎臓でしっかりできているので、オシッコが濃縮させれているのです(猫のオシッコが濃くてクサイのはそのためです)。犬のオシッコより、ずいぶんニオイもきついです。犬は猫に比べて下部尿路疾患は少ないです。

なぜ、ミネラルウォーターはNGか

撮影筆者の知人 水を飲んでいる様子
撮影筆者の知人 水を飲んでいる様子

ミネラルウォーターは、文字通りミネラルが含まれている水のことです。水に含まれるカルシウムとマグネシウムの量を指標に、一定水準より多い場合を硬水、少ない場合を軟水と決めています。

この猫のオシッコを濃縮する仕組みがあるので、水の成分が大切になってくるのです。結石の原因になることもあるからです。もちろん、絶対にミネラルウォーターを与えていると尿石症になるというものではありませんが、人に比べて体の仕組みが違うので、注意してもらった方がいいです。

ミネラルウォーターは、硬水と軟水

硬水(マグネシウムやカルシウムなどのミネラルが多く含まれている)

・クールマイヨール

・コントレックス

・ゲロルシュタイナー

など

ヨーロッパのものは比較的硬水です。

軟水(マグネシウムやカルシウムなどのミネラルが硬水より少ない)

・サントリー天然水

・い・ろ・は・す

・森の水だより

など

日本のものは比較的軟水のものが多いです。

もしミネラルウォーターを飲ます場合は、成分を見てください。猫には、軟水でミネラル成分が少ないものにしてくださいね。

猫は「猫舌」なのに、なぜ人肌にするの

猫は、猫後天性免疫不全症候群(FIV いわゆる猫エイズ)猫白血病ウイルス感染症(FeLV)猫カリシウイルス感染症(FCV)などを持っている子が多いので、これらがあると口内炎を起こしやすいのです。みなさんも口内炎になったときに、冷たい水を飲むと痛みを伴いますね。猫は、これらの感染症を持っている子は、24時間、365日間、口腔内にトラブルがあるので、寒い時期、飲水量が減る子が多くいます。猫は、痛いけれど、体のために飲んでおこうとは思わないためです。

そこで、飼い主は、この猫の性質を知って、寒い時期は、人肌に温めた飲水を用意してあげると、痛みも軽減されて飲水量が増えて、下部尿路疾患が減るというものなのです。食べ物も少し、温めてあげると匂いがよくなり、猫の食欲も上がります。

飼い主さんにできること

・与えるのは水道水、お白湯。

・冷水より人肌ぐらいの温度の水が好き(飲みに行くと思ったら、お湯を足してあげてください)。

 猫さまは、口内炎などのトラブルを持っている子が多いので、体温に近い温度だと沁みないので、飲水量が増えます。

・ミネラル分の多い湧き水やミネラルウォーターは避ける。

・複数の水飲みボウルを置く。

・飲む機会を増やす。

・よく水は取り替え、新鮮なものを。

・ドライフードに水や鶏肉のゆで汁やカツオの出し汁をかけて、食事と一緒に水分補給

・缶詰の場合は、少しお湯を足してあげる。

まとめ

猫には猫の体の仕組みがあります。飼い主は、猫も人間と同じだと考えがちです。人間にいいものだと、猫にもいいと。でもイエネコの先祖は何かを知っていただくと、なぜ、ミネラルウォーターを安易に与えてはいけないか理解できると思います。そして、猫は犬よりFIV、FeLV、FCVなどを持っている子が多く、口腔内にトラブルを持っているので、口に入るものは、人肌に温めていただくといいですね。飼い主が、科学的に正しい知識を持っていることで、この寒い時期を猫たちは、快適に過ごすことができるのです。寒い時期をすんなり過ごすことで、病気になるリスクを減らすことができるのです。

まねき猫ホスピタル院長 獣医師

大阪市生まれ。まねき猫ホスピタル院長、獣医師・作家。酪農学園大学大学院獣医研究科修了。大阪府守口市で開業。専門は食事療法をしながらがんの治療。その一方、新聞、雑誌で作家として活動。「動物のお医者さんになりたい(コスモヒルズ)」シリーズ「ますみ先生のにゃるほどジャーナル 動物のお医者さんの365日(青土社)」など著書多数。シニア犬と暮らしていた。

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