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「新型コロナ」で大打撃の経済 テレビ批判に熱心な安倍政権に景気浮上は望めるか?

石戸諭記者 / ノンフィクションライター
(写真:つのだよしお/アフロ)

経済にも打撃は確実

 新型コロナウイルスは科学だけの問題ではない。「経済」に波及する問題である。内閣府の発表(2020年3月9日)によると、昨年10~12月期の国内総生産(GDP、季節調整値)改定値は、前期比1.8%減、このペースが1年続くと仮定した年率換算は7.1%減となる。安倍政権が頼みとしてきた株価は9日、ついに2万円を割った(日経平均)。

 重要なのは、この数字が、新型コロナウイルスショックが直撃する「前」の数字であるということだ。大きな原因は消費税増税で、この時点で個人消費も前年比マイナス2.8%、民間企業の設備投資もマイナス4.6%にまで落ち込んでいる。

 これにコロナショックが加わる。東京都内も普段なら観光客で混んでいる銀座のショップも閑散としており、郊外のショッピングモールも空いている。およそ景気が上向く要素がない。2020年1ー3月期の数字はさらに悪化することは容易に予想できる。

 知人の個人事業主は契約が大幅に短縮され、予定していた数十万円の収益がなくなり、小規模とはいえフォトグラファーを抱えている会社の社長はこの3月だけで60万以上の仕事が飛んだ。

 首都圏の都市部で不動産業を営む社長は、私に「政府の休校要請から冷え込みはより強まった」という。コロナショックの中で、企業も含めて取引は低調で、中国からの資材調達も一部で滞る。これが原因で契約が履行できない物件もでてきたと嘆く。

 観光産業は言うまでもない。対策は後手後手ではいけない。

 だが、ろくにエビデンスを用意できないまま休校を「要請」したがために、経済も社会も機能不全になりつつある。

これで支援策?

 非正規や個人事業主が企業の「調整弁」となるのは毎度のことだが、安倍政権が打ち出す支援策では「支援」になりそうにない。日経新聞などによると、安倍政権は「低所得者の生活を支援する『生活福祉資金貸付制度』の対象を拡大する方針」だという。それにより、フリーランスや非正規職員などが感染症の影響で収入が減った際に、無利子で最大10万円を借りられるようになる。

 仕事がなくなった場合、借金を重ねてほしいというのが政府の方針だ。これで、経済が上向くとはおよそ考えられない。

 加えて、一定の要件を満たすフリーランスや自営業者には、1日4100円の給付を予定しているというが、これも「新型コロナウイルスの影響で一斉休校した措置」であり、仕事を失った人々に行き渡る対策ではない。

 安倍政権に批判的な一部のリベラル派は、よく「経済優先」だと批判する。だが、この批判は間違いだというのが私の見方だ。経済を優先しているようなら、まだいいのだ。現状は経済政策ですら後手後手に回っている。

 今思い返すべきは2008年のリーマンショック期にまともな経済対策を取れなかった麻生太郎政権だ。あの当時の反省を当の本人ができていないことは、2月27日の派閥例会で「リーマン・ショックと比較するのはいかがなものか」と発言していることからも明らかである。

熱心なテレビ批判

 安倍政権肝いりの、アベノミクスは第1の矢に大規模な金融緩和を掲げたまでは良かったが、歩調を合わせるような財政政策は取られず、2度にわたる消費増税で本来得られるべき効果を得られないままになっている。なぜ金融緩和を進めながら、増税するのか。アクセルとブレーキを同時に踏み込むような政策への、論理的な説明はここでもついていないまま、さらにコロナショックだ。

 

 現代アメリカを代表するノンフィクション作家である、レベッカ・ソルニットの新刊『それを、真の名で呼ぶならば−危機の時代と言葉の力』(岩波書店)に、「ドナルド・トランプの孤独」というエッセイが収録されている。

 そこで彼女は明らかにトランプーあるいはトランプ的な気質を持つ人々―を念頭に置いて、こんなことを書いている。

「自分の権力を使って対話を沈黙させ、軌道から外れて次第に劣化していく自我や意義の虚空のなかで生きる人もいる。それは、太鼓持ちとルームサービスだけが存在する孤島で正気を失っていくようなものであり、その人がそう言えばどの方向でも北をさす従順な羅針盤を持つようなものだ」

ツイッターの空気を読む政権

 自民党も内閣も熱心なのは、ツイッターを使った「羽鳥慎一モーニングショー」(テレビ朝日)をツイッターで批判することのようだ(立場を明確にしておくと、私もこの番組に限らずメディア出演を重ねる一部感染症「専門家」の発言には批判的ではある)。

 内閣官房国際感染症対策調整室の公式ツイッターは、3月6日に連続で番組批判を繰り広げた後は、8日に1回ツイートしただけだ(9日15時時点)。大事な情報は繰り返し伝えるというのが、ツイッターの情報発信では極めて大事になるのだが、彼らは他に伝えたいことはないのだろうか。

 彼らが番組批判に熱心な理由も推測できる。厚労省の公式ツイッターが同番組の内容を名指しして反論した際―その内容についてテレ朝は再反論しているー、メディア業界の関係者も含めて、多くの人が熱心に厚労省のやり方を賞賛し、それがツイッター上で大きく拡散したことだ。

 自民党も安倍政権もSNSの空気を読み取り、そこに便乗したのだ。劣化しているのはトランプ政権だけではない。政権交代という緊張感も失い、長期政権が続く中で彼らのコミュニケーションも劣化していると言えないか。

新型コロナは社会を壊す

 その一方で、経済はまだまだ対策が足りていない。株価も低迷し、足元にはすでに打撃が出ているという人が日増しに増えていく。安倍政権は「(3月)10日を目途に第2弾の緊急対応策をまとめる。中小企業などへの強力な資金繰り支援」を打ち出すというが、市場が良い意味で驚くような経済政策が発表できるのか。

 期待はできないというのが筆者の見解である。小学校休校の影響の有無、正社員か否かで分断線を引くような政策になり、効果がとどまった場合は頼みの支持率も低下に向かう一方だろう。

 新型コロナウイルスが害するのは人の健康だけではない。この社会だ。

記者 / ノンフィクションライター

1984年、東京都生まれ。2006年に立命館大学法学部を卒業し、同年に毎日新聞社に入社。岡山支局、大阪社会部。デジタル報道センターを経て、2016年1月にBuzzFeed Japanに移籍。2018年4月に独立し、フリーランスの記者、ノンフィクションライターとして活躍している。2011年3月11日からの歴史を生きる「個人」を記した著書『リスクと生きる、死者と生きる』(亜紀書房)を出版する。デビュー作でありながら読売新聞「2017年の3冊」に選出されるなど各メディアで高い評価を得る。

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