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加熱式タバコにも「糖尿病」リスクが? 日本の最新研究

石田雅彦科学ジャーナリスト、編集者
(写真:イメージマート)

 喫煙は、喫煙者や受動喫煙者に多くの病気をもたらし、社会へ経済的な負担をおよぼす。タバコ製品に含まれるニコチンは二型糖尿病を発症させやすくするが、加熱式タバコ(新型タバコ)にも紙巻きタバコと同様のリスクがあるようだ。

なぜタバコは糖尿病リスクを高めるのか

 ヒトの内分泌系(多種多様な身体の調節や制御を司るホルモンを作り出している臓器と機構)の中には、脳の視床下部、脳下垂体、副腎をつなぐ指令系統(HPA)がある(※1)。この指令系統は、身体がなんらかのストレスにさらされたとき、反応してホルモンを放出する。

 HPA系は、ストレスホルモンと呼ばれるコルチゾール、エストラジオールやテストステロンなどの性刺激ホルモン、甲状腺刺激ホルモンなどを放出させるが、タバコ製品に含まれるニコチンはHPA系に悪影響をおよぼし、この機能を阻害したり破壊したりする。その結果、ヘビースモーカーでは肥満になりやすくなり、インスリンの抵抗性を悪化させて二型糖尿病の発症リスクを高める(※2)。

 紙巻きタバコの喫煙者と二型糖尿病の発症リスクに関する複数の研究を比べた論文によると、喫煙者は約1.4倍のリスクがあり、喫煙本数が増えるほどリスクが高くなることがわかっている(※3)。さらに、タバコは血管を傷つけるが、糖尿病でもろくなった血管に対して強い悪影響をおよぼし、糖尿病と同時に心血管疾患のリスクも上げる(※4)。

加熱式タバコにも糖尿病リスクが?

 では、加熱式タバコの喫煙者と二型糖尿病の関係ではどうなのだろうか。

 日本の国立国際医療研究センターらの研究グループが最近発表した研究によれば、加熱式タバコのみを吸う喫煙者は非喫煙者に比べ、前糖尿病(いわゆる糖尿病予備軍、境界型糖尿病、正常値より血糖値が高いが糖尿病ではない状態)になるリスクが1.36倍(オッズ比)、二型糖尿病を発症するリスクが1.68倍(同)、紙巻きタバコとの二重喫煙(デュアル喫煙者)で前糖尿病リスクが1.26倍(同)、二型糖尿病リスクが1.93倍(同)となったという(※5)。

 また、非喫煙者に比べ、加熱式タバコ、二重喫煙ともHbA1c値(赤血球中のヘモグロビンとブドウ糖の結合の値)と空腹時の血糖値が高かった。

 この研究は、日本の企業に勤める従業員を対象にした調査(J-ECOH)を使ったもので、前糖尿病は空腹時血糖値が100-125mg/dLでHbA1c値が5.7-6.4%、糖尿病は空腹時血糖値が126mg/dL以上でHbA1c値が6.5%以上か糖尿病の治療を受けている人とした。

 アンケートと健康診断の提供に合意した喫煙者と過去喫煙者4万291人(平均46.6歳、男性84.3%)が研究に参加し、二重喫煙を含み、約半数の喫煙者が加熱式タバコを吸っていると回答したという。

 この研究は、加熱式タバコの喫煙と糖尿病発症の因果関係を明らかにしたものではないが、過去の紙巻きタバコでの研究ではその因果関係は明らかになっている。ニコチンは加熱式タバコにも紙巻きタバコと同じくらい入っているが、前述したようにニコチンはHPA系に悪影響をおよぼす。

 タバコ会社は、加熱式タバコの有害物質の低減を唱えるが、ニコチンを少なくすることはできない。加熱式タバコも紙巻きタバコと同様、糖尿病のリスクを高めることは明らかだろう。

※1:Papadimitriou A, Priftis K N, "Regulation of the Hypothalamic-Pituitary-Adrenal Axis" Neuroimmunomodulation, Vol.16, 265-271, 2009

※2-1:Edson X. Aluquerque, et al., "Mammalian Nicotinic Acetylcholine Receptors: From Structure to Function" PHYSIOLOGICAL REVIEW, Vol.89, Issue1, 73-120, January, 2009

※2-2:Jesse Oliver Tweed, et al., "The endocrine effects of nicotine and cigarette smoke" Trends in Endocrinology & Metabolism, Vol.23, Issue7, 334-342, July, 2012

※3-1:Carole Willi, et al., "Active Smoking and the Risk of Type 2 Diabetes" JAMA, Vol.298(22), 2654-2664, 12, December, 2007

※3-2:An Pan, et al., "Relation of active, passive, and quitting smoking with incident type 2 diabetes: a systematic review and meta-analysis" THE LANCET Diabetes & Endocrinology, Vol.3, Issue12, 958-967, December, 2015

※4:Rui Qin, et al., "Excess risk of mortality and cardiovascular events associated with smoking among patients with diabetes: Meta-analysis of observational prospective studies" International Journal of Cardiology, Vol.167, Issue2, 342-350, 31, July, 2013

※5:Huan Hu, et al., "Heated tobacco product use and abnormal glucose metabolism: a working population-based study" Acta Diabetologica, doi.org/10.1007/s00592-022-02009-4, 17, December, 2022

科学ジャーナリスト、編集者

いしだまさひこ:北海道出身。法政大学経済学部卒業、横浜市立大学大学院医学研究科修士課程修了、医科学修士。近代映画社から独立後、醍醐味エンタープライズ(出版企画制作)設立。紙媒体の商業誌編集長などを経験。日本医学ジャーナリスト協会会員。水中遺物探索学会主宰。サイエンス系の単著に『恐竜大接近』(監修:小畠郁生)『遺伝子・ゲノム最前線』(監修:和田昭允)『ロボット・テクノロジーよ、日本を救え』など、人文系単著に『季節の実用語』『沈船「お宝」伝説』『おんな城主 井伊直虎』など、出版プロデュースに『料理の鉄人』『お化け屋敷で科学する!』『新型タバコの本当のリスク』(著者:田淵貴大)などがある。

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