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「ナメクジ」は食べられるのか──生食は絶対に避けるべき

石田雅彦科学ジャーナリスト、編集者
(提供:イメージマート)

 先日、外食チェーン店でナメクジが大量に発生したという投稿がSNSにあげられ、ちょっとした騒ぎになった。保健所が当該店を調査したところ、そうした事実は確認できなかったようだが、もし仮に知らずにナメクジを食べるとどうなるのだろうか。

ナメクジで死亡

 まず強調しておきたいのは、ナメクジをはじめカタツムリ、貝類、カエル、トカゲ、昆虫など、一部の貝類など生食が可能と提供や販売されるもの以外、生で食べるのはとても危険ということだ。

 例えば、オーストラリアではナメクジを生食し、広東住血線虫症という寄生虫感染症にかかって亡くなった人がいるし、沖縄県でもナメクジから感染したと考えられる広東住血線虫症の患者が発生し、米軍基地内の女児1人が亡くなっている。

 広東住血線虫という寄生虫は主にネズミ類を宿主とするが、中間宿主と考えられる貝類やカタツムリ、ナメクジ、カエルなどを食べることで幼虫が消化器官から体内へ侵入し、血流に乗って髄腔内へ入り込み、好酸球性髄膜炎などの神経疾患や消化器疾患などを発症する(※1)。また、この寄生虫は皮膚感染することもあるので、ナメクジなどをむやみに触るのも危険だ。

 非衛生的な飲食店にはネズミが出入りすることも多く、ネズミの糞から寄生虫が排出され、その糞を食べたナメクジなどが汚染される危険性がある。また、野菜に付着したナメクジなどから、広東住血線虫症の幼虫が排出されて野菜表面に残ることも考えられる。

野菜などはよく洗って

 神奈川県横浜市の市街地のドブネズミから、広東住血線虫の検出が報告されているように(※2)、この寄生虫はかなり一般的にいると考えたほうがいい。飲食店はもちろん家庭でも野菜などはよく洗って調理し、特に野菜の生食ではナメクジや昆虫、ナメクジなどがはった後に残った幼虫を完全に除去してから食べるべきだ。

 サバ、サケ、ニシン、イカ、イワシなどに寄生するアニサキスはよく知られているが、ナメクジ以外の生食では、サワガニの生食、酢漬け、加熱不十分な調理で宮崎肺吸虫症やウェステルマン肺吸虫症、マムシなどヘビの生き血やカエル、ニワトリの生食や傷口にヘビやカエルを貼る民間療法、中間宿主のミジンコが存在する水の飲料でマンソン裂頭条虫によるマンソン孤虫症といった例がある。

 また、サケやマスの生食で日本海裂頭条虫による消化器疾患が、シラウオやアユの生食で横川吸虫による腹痛や下痢があり、特に生食可能と明らかな場合以外は十分に気をつけたほうがいい。

※1-1:Joel Barratt, et al., "Angiostrongylus cantonensis: a review of its distribution, molecular biology and clinical significance as a human pathogen" Parasitology, Vol.143, Issue9, 26, May, 2016

※1-2:戸高貴文ら、「広東住血線虫症(髄液検査で好酸球増多が?)」、医学のあゆみ、Vol.277, Issue12, 1066-1073, 2021

※2:矢部辰男ら、「横浜市街に生息するドブネズミから検出された広東住血線虫」、ペストロジー、32巻、2号、2017

科学ジャーナリスト、編集者

いしだまさひこ:北海道出身。法政大学経済学部卒業、横浜市立大学大学院医学研究科修士課程修了、医科学修士。近代映画社から独立後、醍醐味エンタープライズ(出版企画制作)設立。紙媒体の商業誌編集長などを経験。日本医学ジャーナリスト協会会員。水中遺物探索学会主宰。サイエンス系の単著に『恐竜大接近』(監修:小畠郁生)『遺伝子・ゲノム最前線』(監修:和田昭允)『ロボット・テクノロジーよ、日本を救え』など、人文系単著に『季節の実用語』『沈船「お宝」伝説』『おんな城主 井伊直虎』など、出版プロデュースに『料理の鉄人』『お化け屋敷で科学する!』『新型タバコの本当のリスク』(著者:田淵貴大)などがある。

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