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マスクでニキビができる「マスクネ」とは? 皮膚科医に聞く新型コロナ時代のスキンケア

石田雅彦科学ジャーナリスト、編集者
(写真:ロイター/アフロ)

 外出時などでマスクが必須の状況が続くことに苛立ちを隠せない人も出てきているが、マスクをすることで皮膚にダメージがおよぶ事態にもなっているようだ。「マスクネ」という新しい言葉も出現しているが、マスク着用で気をつけたいスキンケアについて皮膚科医に聞いた(この記事は2021/03/22時点の情報に基づいて書いています)。

造語「マスクネ」とは

 新型コロナウイルス感染症(以下、新型コロナ)の感染防止対策としてのマスクの効果については、新型コロナが流行する前から議論があった。効果があるという研究もあれば、過信は禁物という研究もあった。マスクの素材によって効果に違いは出るが、現在では総じて不織布のマスク着用は感染防止の効果ありとされている(※1)。

 ただ、新型コロナが蔓延し始めてから1年以上もマスク生活が続くと、感染防止以外の様々な弊害が出てくるのも事実だ(※2)。例えば、マスクをしていることで顔の表情が読み取りにくくなったり、マスク自体に恐怖や嫌悪感を抱いたりすることでコミュニケーションがとりにくくなったりする。あるいはマスクの着用によって、正常な呼吸ができなくなることもあるようだ。

 その一つがマスクによる皮膚への悪影響だ。2020年の初夏ごろからマスク着用による痒みやニキビなどが報告され始めた(※3)。顔の前面にマスクの縁を密着させる必要があり、多くは伸縮性のあるヒモを耳にかけて着用するので皮膚に触れることで不快感や頭痛、皮膚への刺激による皮膚疾患が生じることも大きい。

 こうしたマスク着用によるニキビの発症は「マスクネ(Maskne)」という造語まで生み出した。マスクネは、長時間のマスク着用による皮膚への刺激、皮膚表面の体温が上昇することによる発汗、あるいは皮膚表面の環境が変化して細菌叢に影響がおよぶなどして起きると考えられている(※4)。

 しかし、現状でマスクは着用し続けなければならない。マスクネになりにくい対策、日常的に気をつけるスキンケアについて、肌荒れに悩む多くの患者を治療してきた皮膚科医の菅原由香子さんに聞いてみた。

──マスク着用はどのような影響があるのでしょうか。

菅原「通常、刺激が加わらない部位にマスクの繊維による刺激が加わります。特に会話することで皮膚が動き、マスクがずれて摩擦の刺激が増すこともあります。また、マスクの内部が閉鎖空間となり、湿度、温度、pHなどが通常と異なる状況になるんです。そもそも、人によってマスクの素材が皮膚に合わない場合もあります」

健康な肌にしておくことが重要

──マスクでニキビができるのはなぜなんでしょうか。

菅原「マスクによって皮膚に刺激が加わると、皮膚を守ろうとして角質が厚くなります。そうすると、角質がめくれた状態になり、毛穴が詰まりやすくなります。先程のべたように、マスクによる閉鎖空間で湿度、温度が高くなり、汗によってpHが高くアルカリ性になるとニキビ菌が繁殖しやすい状況となるんです。また、洗って再使用できる使い捨てではない布マスクなどでは、洗剤や柔軟剤がマスクに残っている場合、皮膚に合成界面活性剤が付着して皮膚のバリア機能を壊し、上記のようなニキビが発生しやすい環境変化に拍車がかかります。マスクを洗う場合は、無添加石鹸で洗ってよくすすぐことが必要です」

──では、マスク必須時代にはどのようなスキンケアが必要でしょうか。

菅原「もともとの肌が健康であれば、マスクによる刺激には負けませんし、マスクネも出ないでしょう。肌が健康であるというのは、皮膚の構造が壊されていなくて、水分量が十分保たれている状態のことです。マスクでニキビができる人は、もともと皮膚が健康ではなかったか、合わないマスクの素材や洗剤で皮膚構造が壊れてしまったのだと考えられます」

──なにか特別な対策が必要ですか。

菅原「年齢問わず、女性が肌を健康にするには、普段から合成界面活性剤入りのクレンジング剤や洗顔料、乳化剤が入っている乳液、クリームなどを『使わず』にスキンケアすることだと思っています。男性の場合、洗髪する時にシャンプーを顔につけないようにすることが基本です。余計なスキンケアは、むしろしないほうがお肌は健康になります。お子さんにも余計な保湿剤はつけないほうがいいでしょう。どうしても乾燥するなら、純度の高いワセリンで皮膚を保護することをおススメしますが、もともとニキビがある人はワセリンを塗るとニキビが悪化することもあるので注意が必要です」

 新型コロナでウイズ・マスク時代が続く。いつまでマスクをつけなければならないか、まだ誰にもわからない。健康な皮膚を保ち、マスクにも負けない状態にしておきたいものだ。

菅原由香子(すがわら・ゆかこ)

1970年、北海道旭川市生まれ。弘前大学医学部を卒業後、札幌医科大学皮膚科、大手美容外科美容皮膚科部門勤務を経て、岩手県一関市に「菜の花皮膚科クリニック」を夫とともに開業。自身、大学時代から20年以上肌荒れに悩み、肌荒れの原因は化粧品の使い方や化粧品に含まれる添加物や、化粧品の使い方にあることを突き止める。その後、肌荒れに悩む患者に長年、寄り添ってきた。

※1:Derek K. Chu, et al., "Physical distancing, face masks, and eye protection to prevent person-to-person transmission of SARS-CoV-2 and COVID-19: a systematic review and meta-analysis" THE LANCET, Vol.395, Issue10242, 1973-1987, 327 June - 3 July, 2020

※2:Mina Bakhit, et al., "Downsides of face masks and possible mitigation strategies: a systematic review and meta-analysis" BMJ Open, Vol.11, Issue2, doi.org/10.1136/bmjopen-2020-044364, 4, January, 2021

※3-1:Jacek C. Szepietowski, et al., "Face Mask-induced Itch: A Self-questionnaire Study of 2,315 Responders During the COVID-19 Pandemic" Acta Dermat Venerologica, Vol.100(10), DOI: 10.2340/00015555-3536, 28, May 2020

※3-2:Changxu Han, et al., "Increased flare of acne caused by long-time mask wearing during COVID-19 pandemic among general population" Dermatologic Therapy, Vol.33, Issue4, 29, May, 2020

※4:Wan-Lin Teo, "The "Maskne" microbiome - pathophysiology and therapeutics" international Journal of Dermatology, doi.org/10.1111/ijd.15425, 12, February, 2021

科学ジャーナリスト、編集者

いしだまさひこ:北海道出身。法政大学経済学部卒業、横浜市立大学大学院医学研究科修士課程修了、医科学修士。近代映画社から独立後、醍醐味エンタープライズ(出版企画制作)設立。紙媒体の商業誌編集長などを経験。日本医学ジャーナリスト協会会員。水中遺物探索学会主宰。サイエンス系の単著に『恐竜大接近』(監修:小畠郁生)『遺伝子・ゲノム最前線』(監修:和田昭允)『ロボット・テクノロジーよ、日本を救え』など、人文系単著に『季節の実用語』『沈船「お宝」伝説』『おんな城主 井伊直虎』など、出版プロデュースに『料理の鉄人』『お化け屋敷で科学する!』『新型タバコの本当のリスク』(著者:田淵貴大)などがある。

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