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利他的な行動が感染を防ぐ〜新型コロナ「第3波」で改めて考える自らの「行動変容」

石田雅彦科学ジャーナリスト、編集者
(写真:西村尚己/アフロ)

 第3波ともいわれる新型コロナウイルス感染症(以下、新型コロナ)の感染拡大が全国で続いている。このウイルスはどう感染するのか。なぜマスクの着用や手指衛生、3密の回避、換気などが必要なのか。新型コロナの感染経路や症状から、行動変容の重要性について改めて考えたい(この記事は2020年11月20日の段階の情報に基づいて書いています)。

感染力が強い発症前からの1週間

 新型コロナは、ウイルスに感染後、発症まで5〜6日間(幅は2〜21日間)の潜伏期間があり、発症の2日前から感染力が強くなって10日間前後、他者へ感染させる状態が続くようだ。発症前2日からの1週間が特に感染力の強い期間とされるが(※1)、この期間はまだ症状が軽度である場合も多く(重症化は発症後5日後くらいからが多い)、感染したことをあまり自覚できないまま、他者へ感染させる危険性がある。

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新型コロナの感染から発症、感染リスクの高い状態の期間を表したグラフ。Muge Cevik, et al., "Severe Acute Respiratory Syndrome Coronavirus 2(SARS-CoV-2) Transmission Dynamics Should Inform Policy" Clinical Infectious Diseases VIEWPOINT, 22, September, 2020

 ところで最近、米国マサチューセッツ州の病院(Tufts Medical Center)で、外科手術を受ける前の新型コロナに感染していないと思われる患者84人を調べたところ、新型コロナウイルスの陽性の患者が3人(3.6%)いたという(※2)。

 このように、新型コロナの患者には一定数の無症状の人がいるとされるが(1.2%〜87.9%、※3)、こうした無症状患者の感染力は弱いとも、感染力を持つとも考えられている(※4)。もちろん、無症状や軽症になる可能性があるからといって新型コロナを恐れなくてもいいということではない。

 また、軽度の症状を示す患者や発症前の患者では感染力が強いとされ、無症状の患者と検査時に発症前で無症状であった患者との区別はなかなか難しい(※5)。

 つまり、症状がないことは、必ずしも新型コロナに感染していないことにはならない。無症状の患者かもしれないし、今はたまたま発症前かもしれない。

 あなたも私も無症状の患者かもしれないし、発症前で1日後か2日後に発症するかもしれない。あるいは、単に症状が軽いので新型コロナと思っていないだけかもしれない。

「利他的」行動としてのマスク

 新型コロナは、唾液、飛沫、分泌物が混じった呼気、糞尿、触れた物体などに含まれたり残されたウイルスに直接、間接的にさらされるという飛沫感染や接触感染で感染する。

 これまでにも指摘されてきたが、マスクの着用が強く推奨されるのは、無症状や発症前の自覚していない感染者が知らないうちに他者へ感染させない「利他的」な効果が期待できるからだ(※6)。

 さらに、まだエビデンスは少ないようだが、マスクの着用は新型コロナにかかった場合の重症化リスクを下げ、マスクの着用者を守る役割もするという(※7)。これはマスクによって体内へ入るウイルス量が減るからとも、マスクを通して入った少量のウイルスにさらされるために一種の免疫ができるからとも考えられている。

 このように効果的なマスクだが、着け方もなるべく顔面に密着させるべきだし、表面や耳ヒモに触るなどして頻繁に着脱しないほうがいい(※8)。つまり、しっかり手指衛生をしなかったり食事ごとに清潔なマスクへの交換などを怠ったりすれば、いわゆる「マスク会食」の効果も期待できないということだ。

 また、市販のマスクは、製品によって飛沫やエアロゾルの放出量に違いがある(※9)。顔との隙間から漏れ出る量は同じだとしても、マスクの不織布が飛沫を通してしまえば感染させないという効果が薄くなる。購入時には製品説明をよく読むようにしたい。

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市販の不織布マスクが、製品によってどれだけ飛沫を通すのかを実験した様子。製品「A」と製品「B」に大きな違いがあることがわかる。Via:Siddhartha Verma, et al., "Visualizing droplet dispersal for face shields and masks with exhalation valves" Physics of Fluids, 2020

 最近、新型コロナの感染経路に、細かな粒子(エアロゾル)となって空中に飛散した唾液や呼気による一種の空気感染が加えられた(※10)。空気感染のリスクは、閉鎖された空間での3密を避け、換気の必要性を強くうながす理由にもなっている。外気温が下がって窓を開けるなどの換気の頻度が少なくなると、空気感染のリスクも上がる。

「5つの場面」で注意を

 第3波といわれる現在の感染拡大では、第2波と比べて陽性者の世代が広がっているのが特徴だ。また、感染源(感染の経路)が不明なケースが多く、感染場所としては家庭で感染する割合も増えてきている。

 家庭では、同居している配偶者と高齢者への感染に注意したいが、これまでの研究では無症状や軽症の患者よりも発熱症状のある感染者のほうがより多く家庭で感染させている(※11)。

 発熱は新型コロナの特徴的な症状の一つだが、発症直後にウイルスを持ち込んだ患者を隔離することで二次感染のリスクを下げることができる。もし発熱症状の家族が出たら、医療機関での診療やウイルス検査の結果が出るまで部屋や食事などを別々にしたほうがいいだろう。

 家庭内での感染では、症状が出にくかったり軽症の子どもがウイルスを家庭内に運んできたりする危険性もありそうだ。これまでの研究では、家庭での感染が子どもによるというエビデンスはまだ少ないようだが(※12)、保護者は子どもの健康状態を注意深く観察し、トイレでの糞尿などでの感染にも注意が必要だろう。

 新型コロナの感染が一定の収束状態になっている中国や台湾、韓国と違い、日本は強制的にロックダウンや行動制限などの施策や個人情報の追跡をせず、経済活動を再開しつつ感染対策をとるという方法を選択した。

 国民の生命や健康に関する施策は、最も危機的状況を見すえて保守的にたてるべきだ。感染者・陽性者がこのまま増えていけば、重症化する患者が増加し、医療体制が機能しなくなる危険性もある。

 感染拡大を抑えるためにも、医療体制を維持するためにも、我々は自分が感染しているのではないかという想像力を常に持つべきだろう。政府が「感染リスクが高まる5つの場面」に対する注意喚起をしているように、飲食の場や3密空間などを避け、手指衛生に留意し、他者と接する際にはマスクを着用して飛沫感染をさせない「利他的」行動を意識することが重要だ。

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新型コロナウイルス感染症対策分科会の提言によってまとめられた「感染リスクが高まる5つの場面」。出典:内閣官房 画像制作:Yahoo! JAPAN(内閣官房『感染リスクが高まる「5つの場面」』を元に作成)

※1:Muge Cevik, et al., "Virology, transmission, and pathogenesis of SARS-CoV-2" BMJ, doi.org/10.1136/bmj.m3862, 23, October, 2020

※2:Joshua A. Bloom, et al., "The prevalence of asymptomatic carriers of COVID-19 as determine by routine preoperative testing" Journal of Infection Prevention, doi.org/10.1177/1757177420967096, 6, November, 2020

※3:Duaa W. Al-Sadeq, et al., "The incidence of the novel coronavirus SARS-CoV-2 among asymptomatic patients: A systematic review" International Journal of Infectious Diseases, Vol.98, 372-380, September, 2020

※4-1:Roman Wolfel, et al., "Virological assessment of hospitalized patients with COVID-2019" nature, Vol.581, 465-469, 1, April, 2020

※4-2:M M. Arons, et al., "Presymptomatic SARS-CoV-2 Infections and Transmission in a Skilled Nursing Facility" The New England JOURNAL of MEDICINE, 28, May, 2020

※4-3:Nathan W. Furukawa, et al., "Evidence Supporting Transmission of Severe Acute Respiratory Syndrome Coronavirus 2 While Presymptomatic or Asymptomatic" EMERGING INFECTIOUS DISEASES, Vol.26(7), e201595, July, 2020

※5-1:Xingxia Yu, Rongrong Yang, "COVID-19 transmission through asymptomatic carriers is a challenge to containment" Influenza and other respiratory viruses, Vol.14, Issue4, 474-475, July, 2020

※5-2:Diana Buitrago-Garcia, et al., "Occurrence and transmission potential of asymptomatic and presymptomatic SARS-CoV-2 infections: A living systematic review and meta-analysis" PLOS MEDICINE, doi.org/10.1371/journal.pmed.1003346, 22, September, 2020

※6:Derek K. Chu, et al., "Physical distancing, face masks, and eye protection to prevent person--to-person transmission of SARS-CoV-2 and COVID-19: a systematic review and meta-analysis" THE LANCET, Vol.395, Issue10242, 1973-1987, 27, June-3, July, 2020

※7:Monicha Gandhi, et al., "Masks Do More Than Protect Others During COVID-19: Reducing the Inoculum of SARS-CoV-2 to Protect the Wearer" Journal of General Internal Medicine, Vol.35, 3063-3066, 31, July, 2020

※8:Karina Escandon, et al., "Appropriate Usage of Face Masks to Prevent SARS-CoV-2: Sharpening the Messaging Amid the COVID-19 Pandemic" Disaster Medicine and Public Health Preparedness, doi: 10.1017/dmp.2020.336, 10, September, 2020

※9:Siddhartha Verma, et al., "Visualizing droplet dispersal for face shields and masks with exhalation valves" Physics of Fluids, Vol.32, July, 2020

※10-1:WHO, "Transmission of SARS-CoV-2: implications for infection prevention precautions" 9, July, 2020

※10-2:CDC, "Scientific Brief: SARS-CoV-2 and Potential Airborne Transmission" 5, October, 2020

※11:K Shah, et al., "Secondary attack rate of COVID-19 in household contacts: a systematic review" QJM: An International Journal of Medicine, doi.org/10.1093/qjmed/hcaa232, 29, July, 2020

※12-1:Xue Li, et al., "The role of children in transmission of SARS-CoV-2:A rapid review" Journal of global health, Vol.10(1), doi: 10.7189/jogh.10.011101, June, 2020

※12-2:Roberta L. DeBiasi, Meghan Delaney, "Symptomatic and Asymptomatic Viral Shedding in Pediatric Patients Infected With Severe Acute Respiratory Syndrome Coronavirus 2 (SARS-CoV-2) Under the Surface" JAMA Pediatrics, doi:10.1001/jamapediatrics.2020.3996, 28, August, 2020

【この記事は、Yahoo!ニュース個人編集部とオーサーが内容に関して共同で企画し、オーサーが執筆したものです】

科学ジャーナリスト、編集者

いしだまさひこ:北海道出身。法政大学経済学部卒業、横浜市立大学大学院医学研究科修士課程修了、医科学修士。近代映画社から独立後、醍醐味エンタープライズ(出版企画制作)設立。紙媒体の商業誌編集長などを経験。日本医学ジャーナリスト協会会員。水中遺物探索学会主宰。サイエンス系の単著に『恐竜大接近』(監修:小畠郁生)『遺伝子・ゲノム最前線』(監修:和田昭允)『ロボット・テクノロジーよ、日本を救え』など、人文系単著に『季節の実用語』『沈船「お宝」伝説』『おんな城主 井伊直虎』など、出版プロデュースに『料理の鉄人』『お化け屋敷で科学する!』『新型タバコの本当のリスク』(著者:田淵貴大)などがある。

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