新型コロナ感染症:NHKはなぜ「PCR」を報じなくなったのか

(写真:ロイター/アフロ)

 新型コロナウイルス感染症(以下、新型コロナ)では、当初からPCRという検査法について議論が起きてきた。いわゆる「PCR抑制論」とそれへの反発や批判などもネット上で話題になった。このPCRについて、大手マスメディアはどう報じてきたのだろうか(この記事は2020/09/04の情報に基づいて書いています)。

PCRに関して出遅れた全国紙

 今年2020年の1月から世界中で感染拡大が続いている新型コロナだが、感染の有無を調べるため、RT(リアルタイム)PCR検査が広く行われてきた。PCRについては、最近でも東京都が都内の特別養護老人ホームや障害者施設などの職員と入所者に無料でPCR検査を実施することが話題になったり、自己負担による検査費用について取り沙汰されたりしている。

 一方、日本の検査数の少なさは2月あたりから問題視され、政府が検査数を増やすと表明した後もなかなか増えなかった。

 PCRがなぜ増えないのかについては、日本では検査者が医師と歯科医師でなければならないこと、検査者に感染リスクが高く、検体の扱いも注意が必要なこと、検査の受入機関である保健所の物理的な問題、偽陽性と偽陰性の問題などが指摘されてきた。また、世界中でPCRによる検査が行われた結果、試薬の供給が追いつかず、試薬を海外からの輸入に頼っていた日本で検査できない状況が続いていたという指摘もある。

 大手マスメディア(※)は、こうしたPCRについてどのように報じてきたのだろうか。記事検索を用い、今年2020年1月から8月までに「新型」と「PCR」という言葉が掲載された記事数(タイトルと本分中)をG-Searchによる新聞・雑誌記事横断検索で調べてみた。

 大手メディアに初めて「PCR」という言葉が出てくるのは、1月29日のNHKニュースだ。「新型コロナウイルス 感染の有無 確定診断は遺伝子レベルの検査で」というタイトルのこの報道では、検体に含まれる遺伝子をPCRで増幅し、感染を確定させることができると解説している。

 この時点では「PCR(ぴーしーあーる)と呼ばれる方法」という表現を用い、まだPCRが人口に膾炙していなかったことがうかがわれる。

 一方、厚生労働省の発表を受け、ブロック紙や地方紙も独自の記事でPCRを報じ始める。

 1月30日、秋田魁新報は武漢から帰国した邦人についての共同通信の記事に加え、厚生労働省が1月29日に「新型コロナウイルスに感染しているかどうかを短時間で確認できる新たな検査法を全国83カ所の地方衛生研究所や、空港や港の検疫所に導入する方針を決めた」と報じている。国立感染症研究所だけでしか行われなかったリアルタイムPCR法による迅速検査を、全国どこでも素早くできるよう態勢を拡充するという内容だ。

 また、1月30日の信濃毎日新聞も同様の内容でPCRについて報じ、厚生労働省が「国内のどこで感染が疑われる例が出ても、迅速に対応できる態勢が来週中には整う見通し」としている。これにより「最大48時間かかっていた検査が、4~6時間に短縮される」という厚生労働省の方針を紹介している。

 1月29日に武漢から帰国した3人の日本人が新型コロナに感染していることがわかったが、3人のうち2人は発熱などがなく、厚生労働省は国内で初の無症状の感染者と発表している。帰国者は国立国際医療研究センターで検査を受けたが、この検査がPCRであり、この頃から大手メディアも次第にPCRについて報じ始めるようになった。

 ただ、PCRについて朝日・毎日・読売・産経といった全国紙の動きは鈍い。1月の時点で、PCRという言葉を含む記事は全国紙に1つもないからだ。むしろ、中日新聞、神戸新聞、中国新聞といったブロック紙、秋田魁新報、信濃毎日新聞、北国・富山新聞、静岡新聞、熊本に父新聞、京都新聞、山陽新聞といった地方紙のほうが早い。

増減が激しいテレビ番組

 下のグラフは「新型」と「PCR」という2つの言葉がタイトルと本文中に入った主要各メディアの記事の月ごとの推移だ。

 朝日・毎日・読売の全国3大紙はほぼ同列で記事を配信しているが、産経は一貫してPCRの記事は少ない。新型コロナが緊急事態宣言の解除後、いったん収束した5月と6月に記事数は落ちるが、テレビ番組放送データだけは異なった挙動をみせている。

 PCRに関するテレビ番組放送データの記事数は、5月に極端な落ち込みをみせるが、他のメディアとは別に6月になって再び急増する。なぜ、5月に記事が少なくなったのか、よくわからないが、国会では検察庁法改正が議論され、緊急事態宣言の解除もあってテレビで多く報じられなくなった可能性もある。

 6月になってから増えたテレビ番組の内容は、唾液でPCR検査、プロ野球選手がPCR陽性、いわゆる「夜の街」でのPCR検査、第二波へ備えてのPCR拡充といったものだが、同じ番組でPCRに関する内容が重複したり、同じ内容のNHKの総合と大阪版などがあることも記事数を増やした。ただ、5月と6月についてNHKの記事はそれほどの増減がないので、やはり民放のワイドショーなどで取り上げられる記事が増えたことが影響したと考えられる。

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大手マスメディア(※)の記事のタイトルと本文に検索ワード「新型」と「PCR」が入っているかどうかG-Searchによる新聞・雑誌記事横断検索で調べたグラフ。テレビ番組放送データの上下動が激しいことがわかる。グラフ作成筆者

 一方、NHKに関しては、7月にPCRに関する記事が最も多かったのに、なぜか8月になって激減する。陽性者数が減ったことに連動しているのかもしれないが、他の大手マスメディアが7月と8月とで記事数が大きく変わっていないことに比べると不自然な動きにもみえる。

 8月をほぼ週ごとに4つに分け、NHKとテレビ番組放送データ(NHK含む)と比べてみる。すると、奇妙なことに8月中にタイトルと本文に「PCR」が含まれる記事がぱったりなくなってしまう時期があるのだ。

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G-Searchによる新聞・雑誌記事横断検索と念のためNHKの記事に関してはホームページ(NHK NEWS WEB)からも記事検索してみた。グラフ作成筆者

 8月中旬はお盆もあり、確かにNHKを含む民放のテレビ番組放送データの記事数も落ち込んだ。しかし、8月下旬に民放の記事は増えている。

 一方、NHKは8月第2週あたりからPCRに関する記事を減らし、第3週には全く記事がなく最終週で8本(NHKホームページ検索)とやや増やしたことがわかる。つまり、上のグラフでNHKが8月に記事数を減らしていたのは、中旬以降の記事数が原因だったということになる。

PCRの議論は終了か

 ちなみに、下のグラフはPCRで陽性となった全国のデータと大手マスメディアの記事数(「新型」と「PCR」検索)の推移だ。これをみると、特に7月、8月以降、陽性者数の増減は必ずしも記事の数と関係がないことがわかる。

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全国の陽性者数と大手マスメディアの記事数の月ごとの推移。陽性者数は厚生労働省のオープンデータを用いた。グラフ作成筆者

 NHKの記事数の推移でみるように、PCRに関しては「増加か抑制か」という議論はすでに決着がつき、これからはいかに検査数を増やすかという、甲乙の意見がぶつかりあうようなものではないテーマになっていったと考えることができる。

 以上をまとめると、PCRという言葉が大手マスメディアに登場したのは2020年1月末であり、全国紙よりブロック紙や地方紙のほうが先に報じていた。テレビ番組の内容をまとめた記事では、緊急事態宣言の解除前後に増減があり、特にNHKは8月中、PCRに関するニュースをほとんど報じていない時期があった。

 これまでの大手マスメディアの報道姿勢から言えば、対立するような議論があるテーマに関して多く取り上げられる傾向がある。その点で言えば、PCRの検査数を増やすか抑制するかという議論を取り上げる大手マスメディアは減ってきていると考えることができるだろう。

※:通信社(共同、時事)、テレビ(NHK、テレビ番組放送データ:NHK総合、日本テレビ、テレビ朝日、TBS、テレビ東京、フジテレビ、毎日放送、朝日放送テレビ、関西テレビ、読売テレビ、テレビ大阪)、全国紙(朝日、毎日、読売、産経)、ブロック紙(北海道新聞、河北新報、東京新聞、新潟日報、中日新聞、神戸新聞、中国新聞、西日本新聞)、地方紙(東奥日報、岩手日報、秋田魁新報、山形新聞、福島民報、茨城新聞、下野新聞、上毛新聞、埼玉新聞、千葉日報、神奈川新聞、北日本新聞、北國・富山新聞、福井新聞、山梨日日新聞、信濃毎日新聞、岐阜新聞、静岡新聞、伊豆新聞、京都新聞、大阪日日新聞、日本海新聞、山陰中央新報、山陽新聞、徳島新聞、四国新聞、愛媛新聞、高知新聞、佐賀新聞、長崎新聞、熊本日日新聞、大分合同新聞、宮崎日日新聞、南日本新聞、琉球新報、沖縄タイムス)