新型コロナ感染症:「第2波の備え」になぜ「川崎病」と「マイコプラズマ感染症」が重要か

(写真:ロイター/アフロ)

 新型コロナウイルス感染症(COVID-19、以下、新型コロナ感染症)は、世界的に収束の目処がまだたっていないが、日本では少しずつ感染者が減ってきている。だが、多くの専門家は感染が広がる「第2波」がやってくると警鐘を鳴らす。では、そのために何を準備しておいたらいいのだろうか(この記事は2020/05/30の情報に基づいて書いています)。

ワクチン開発には時間がかかりそうだ

 今年4月の初め、米国の科学雑誌『Science』に米国ハーバード公衆衛生大学院の研究グループが、新型コロナ感染症の今後の感染予想と対策についての論考を出した(※1)。

 それによれば、毎年、風邪の症状を引き起こすほかのコロナウイルス(HCoV-OC43、HCoV-HKU1)の感染状況を参考にして新型コロナ感染症の今後の流行を予測したところ、最悪2024年までは大規模集会の規制やソーシャルディスタンスによる防護などが必要になるかもしれないと述べている。

 このシミュレーションモデルでは、新型コロナウイルスも他のコロナウイルスと同じように夏季に収束し、寒くなってきてから流行が拡大することを前提で考えている。こうした新型コロナウイルス以外のコロナウイルスによる風邪はパンデミック化し、毎年のように流行している。

 また、日本でも秋から冬にかけて年間1000万人がかかると考えられているインフルエンザが毎年、流行している。新型コロナ感染症の第2波がいつ来るか、まだわからないが、もしも従来のコロナウイルスを含めた風邪やインフルエンザと同時期、つまり空気が乾燥し低温化するという伝播条件の揃ってしまう秋から冬に流行する場合、ワクチンや有効な治療薬がまだない状況では医療インフラの許容量を超え、いわゆる医療崩壊を引き起こす危険性がある。

 また、米国シカゴ大学の遺伝学の研究グループは、新型コロナ感染症の流行拡大を抑え込むためにはワクチンの開発が最も効果的だが、ワクチンの開発は楽観的にみても12ヶ月から18ヶ月かかり、ワクチン効果の持続期間についても生涯にわたる免疫が獲得できるか不明であり、ワクチンに期待できるかどうか不明としている。

 そして、ワクチンがない場合、長期間の流行が断続的に続くことで世界的に自然免疫を獲得することになるが、この場合は多くの感染者が亡くなるという深刻で悲惨な影響を及ぼすことになる。だから現状では、高齢者や重症化リスクの高い疾患を持つ最も脆弱な集団に対し、感染伝播を防御する公衆衛生的な政策を続けるしかないとする(※2)。

よく似た症状との区分けを

 こうした状況下で、新型コロナ感染症の第2波に備えるためにはどうすればいいのだろうか。

 実は、すでに感染した人でも長期間ウイルスが陽性の場合がある。また、感染しても軽症であったり無症状の患者(サイレントキャリアー)から、感染を連鎖させるクラスターや想定外のクラスターが発生して感染が拡大する。それを防いでいくために、発熱などの風邪のような症状に注意しながら感染者を発見することが必須の対応策だ。そして、個人だけでなく集団の感染状態を把握することも必要となるが、そのためには感染状況を把握するモニタリング、つまりPCR検査や抗原・抗体検査を徹底することが極めて重要となる。

 また、もし仮に第2波がきた場合、別の病気にかかった新型コロナ感染症と似た症状の患者さんや重複して別の感染症にかかって重症化する患者さんを区分けし、適切な治療を施して可能な限り医療への負担を軽減し、医療崩壊を防ぐような仕組みを作っておくことも必要だろう。

 すでに国内の医療体制は、第1波で疲弊しきっている。この体制を増強するのは一朝一夕にできるものではない。新型コロナ感染症の第2波の来襲に備え、医療体制が崩壊しないよう、できる限り患者さんの重症化を防ぐようにしておくべきだ。

 この問題について、臨床現場で診療や治療にも携わったことのある感染症研究の専門家、松田和洋医師に話を聞いた。松田氏は、発熱、咳、倦怠感といった風邪症状などを引き起こすマイコプラズマ感染症の研究者で、新型コロナ感染症の第2波の対策のためには未だにはっきり診断できない新型コロナ感染症と他の疾患、重複疾患をしっかり区分けすることが重要と訴えている。

──新型コロナ感染症の第2波、第3波は来るのでしょうか。

松田「新型コロナ感染症の患者さんや陽性の方は確かに減ってきていますが、いろいろなデータから感染しても発症しない患者さんが一定の数いらっしゃると考えられます。そのため、手指衛生などを徹底しても、自粛を緩めていわゆる3密の状況に長くいることが増え、ソーシャルディスタンスがとれなくなっていけば、おそらく感染は再び広がり、第2波が来ることになるでしょう」

──新型コロナ感染症の診察や治療で何が問題なのでしょうか。

松田「まだよくわかっていないウイルスなので多くの問題がありますが、新型コロナ感染症とよく似た症状を起こす他の病気、例えば単なる風邪、インフルエンザ、そしてマイコプラズマ肺炎との区分けがしっかり診察できず、胸部X線写真やCT像からでも判断できないケースがあることが問題の一つだと思います」

──こうした病気の区分けはどのようにすべきですか。

松田「例えば、新型コロナウイルスは間質性肺炎という肺炎を引き起こしますが、間質性肺炎は他にも普通の風邪症状を引き起こすコロナやインフルエンザなどのウイルス、またマイコプラズマという細菌による間質性肺炎、そして喫煙や受動喫煙が原因になって引き起こされることがよくあります。間質性肺炎が新型コロナウイルスによるものか、それとも他の原因によるものか、しっかりと見極めていく仕組みが必要です。特に、新型コロナ感染症の診断を困難にする原因と重症化させているのは、インフルエンザウイルスとマイコプラズマ、そしてタバコですから、新型コロナ感染症ばかりを見ていると他の大きな波に足元をすくわれてしまいかねません」

医療崩壊をどう防ぐか

──間質性肺炎がキーワードになるのですね。

松田「大きな問題の一つは、先ほど述べたように多くの間質性肺炎の患者さんが重症化することで医療崩壊、さらに経済的な崩壊につながる危険性があることです。第2の波をできるだけ低くするためには、早期の確定的な診断、不顕性(症状が出ていない)感染者、軽症の患者さんのホテルなど宿泊施設への隔離、指定医療機関など重症化した患者さんのための高度医療施設への患者の振り分けといった医療体制システムが精緻に連動することが必要でしょう」

──早期の確定的な診断とはどのようなものでしょうか。

松田「第2波を察知するためには、理想的には100%信頼がおける診断薬が必要ですが、新型コロナ感染症に関しては、今のところPCR検査も抗原・抗体検査も一長一短があり、早期に確定的な診断をするためにはまだ限界があります。検査について言えば、PCR検査と各社から出ている抗体検査キットの組み合わせにより、個人の感染した状態の経過と感染症の集団としての感染状況の把握の確度をより確かめていく必要があるでしょう。少なくとも症状が出ている患者さんを把握しておかなければなりませんが、しっかりした症状把握システムを構築すべきです」

──医療崩壊を防ぐためにはどうすればいいでしょうか。

松田「重症化した患者さんが病院に押し寄せて来ることを防がなくてはなりません。秋から冬にかけ、インフルエンザや他のコロナウイルによる風邪、マイコプラズマ感染症などにかかった患者さんがクリニックに押し寄せると大変なことになります。発熱、長引く咳、倦怠感といった風邪症状の患者さんの検査をする専門の外来のような決められた場所を準備し効率的に検査できる仕組みが必須と思います。患者さんや医療従事者の二次感染のリスクをできるだけ防ぎ、防護服などの資材が不足しないようにしていくべきです。また、確定的な診断により原因を特定し、新型コロナウイルスであっても重複感染があれば、それに対してだけでもより早く治療できる患者は治療していく仕組みが必要です」

──「風邪症状の患者さんの検査をする専門の外来」というのはどのようなものですか。

松田「発熱などの風邪症状が出れば、通常は近くのクリニックですぐ受診できるでしょう。しかし、今回の新型コロナ感染症の経験からわかったのは、受診が思った以上に困難になったということです。新型コロナ感染症にかかっているかもしれないという不安から、患者さんへの医療が対応できなくなってしまっているのです。それにより、患者さんが重症したり、クラスターが大きくなったりという、負の連鎖が生じる可能性があります。そのような問題を取り除き、医療崩壊を避けるため、オンライン診療やPCR検査センターを含めた臨床の診断により、新型コロナ感染症、インフルエンザ感染症、マイコプラズマ感染症をはっきりと区分けすることのできる外来診療、それが専門外来です。インフルエンザの診断も確度が高くなっていますし、マイコプラズマ感染症に関しては後述するような100%診断可能なシステムがあります。また、これらの病気と新型コロナ感染症との重複感染もあり、それぞれの病気の治療法も異なりますから、院内感染を防ぐための医療従事者の防護や患者さんの隔離の問題がからんで対応をさらに複雑にしています」

川崎病との共通点とは

──重複感染といえば、欧米では新型コロナ感染症の小さなお子さんの患者さんに、川崎病のような症状が出ているようです(※3)。

松田「川崎病は、国内で年間1万7000例も出ている小さなお子さんの病気です。米国の報告によれば、新型コロナ感染症に感染した後、2日以上続く発熱や湿疹、手足の腫れや目が充血するなどの川崎病によく似た炎症症状が出たそうです。同様の症例は英国やイタリアなどでも確認され、世界保健機関(WHO)も警戒を呼びかけています」

──新型コロナ感染症と川崎病の共通点は何ですか。

松田「最近になって新型コロナ感染症は、血管炎、血液の固まりが血管をつまらせる血栓症を引き起こし、重症化させることがわかってきました。川崎病も血管炎が特徴の一つで、動脈瘤や皮膚に血管炎ができたりし、脳血栓や肺血栓によって重症化もしやすいのです。川崎病はお子さんに多い病気ですが、新型コロナ感染症と川崎病をつなぐ要因としてマイコプラズマ感染症も考えられます。マイコプラズマ感染症の患者もお子さんに多いですし、マイコプラズマによる川崎病の関与や重症化も疑われると考えています。論文の報告にもある通り、マイコプラズマ感染症で川崎病によく似た皮膚血管炎が起きることが知られています(※4)。新型コロナウイルス感染とマイコプラズマ感染の重複することを示す論文が複数出て来ていますが、私はマイコプラズマ感染症の患者さんが新型コロナウイルスによって重症化している、あるは、重複感染している可能性があるのではないかと考えています。こうした重複感染と川崎病にも何らかの関係があるのではないでしょうか。マイコプラズマは細菌の一種ですが、ウイルスと細菌による重複感染によって病気が重症化することはよく知られているのです」

──新型コロナ感染症と他の病気との重複感染で重症化するリスクがあるということでしょうか。

松田「その通りです。今はインフルエンザの流行の季節ではありませんが、秋冬になるとインフルエンザとの重複リスクが出てきます。同時に、マイコプラズマ肺炎の流行時期にも重なってくるのです。ウイルス性の感染症であるヘルペスや帯状疱疹も新型コロナ感染症と重複感染して重症化したという報告がありますし、私の専門であるマイコプラズマ感染症も重症化因子になっていると考えられます。こうした重症化する患者さんをいかに少なくするかが、医療崩壊を防ぐ意味でも第2波対策では重要になってくると考えています」

──川崎病の症状と類似した新型コロナ感染症は日本ではどうでしょうか。

松田「最近、日本で臨床の先生方に新型コロナ感染症と川崎病の重複症例があるかアンケート調査が行われ、日本での症例報告はないようですが、まだ多くのお子さんにPCR検査が行われてはいないと思います。また、従来のマイコプラズマの診断薬でも新型コロナウイルス感染の診断薬と同様の感度や特異性の問題があります。川崎病でも新型コロナ感染症との重複感染の関連性を示していくことは従来法では困難と思います。間質性肺炎もですが、全身の血管炎を特徴とするマイコプラズ感染症でも川崎病とよく似た症状が報告されています。新型コロナ感染症が疑われても、半数はPCR陰性と報告されています。マイコプラズ感染症単独や重症化についても検討していくことが今後に向けて有効な対策になる可能性があります」

まずはマイコプラズマ感染症をつかまえる

──日本では患者さんや感染者が減りつつありますが、改めて第2波の感染を防ぐためにはどうすればいいでしょうか。

松田「PCR検査や抗体検査などの検査法で新型コロナ感染症を100%判別することができれば、たとえ第2波がきても恐れることはありません。しかし、時間が経つとウイルスが出なくなるという研究もありますし、現状ではまだそれは難しいでしょう。より精緻な血清中抗体測定による新型コロナ感染症の診断法の確立を急ぐとともに、少なくとも類似の症状が出ている人を可能な限り原因を特定して特定できた場合はそれぞれの感染症に対する治療早期をほどこしていくことが重要です。例えば、マイコプラズマ感染症の確定診断はこれまで確度が低かったのですが、我々が開発したMID Prismという抗体診断薬を使えば、かなりの確度でマイコプラズマ感染症だけを区分けすることが可能になります。発熱時からIgM抗体の上昇がわかり、IgGの変化も高感度に知ることができるMID Prismで検討していく必要があると思っています。マイコプラズマ感染症は、診断さえつけば早期の抗菌剤治療が外来からでも可能ですし、副作用もほとんどありません。こうした方法をとることで医療の負担を大幅に軽減し、医療崩壊を防ぐことができるでしょう」

 風邪は万病の元などというが、風邪症状の裏側には新型コロナ感染症に限らず、多くの病気が隠れているかもしれない。そして、そうした病気が新型コロナ感染症を重症化させる原因になっている危険性も高いと松田氏はいう。

 マイコプラズマ感染症もその一つだ。また、現場での診療経験から、喫煙や受動喫煙が長引く咳や間質性肺炎の原因でもあり、感染症の増悪因子でもあると感じ、タバコもこの重要な初期の鑑別診断の大きな障害になっていると松田氏は主張する。

 これまで日本の医療システムの中で、感染症の対策は予算も少ないまま、長くおざなりにされてきた。新型コロナ感染症の教訓としても、また第2波、第3波への備えとしても感染症には強い危機感と準備が必要だろう。

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松田 和洋(まつだ かずひろ)

山口大学医学部卒業、医学博士。東京医科歯科大学医学部微生物学教室助手、国立がんセンター研究所主任研究官などを経て、2005年にエムバイオテック株式会社を設立。代表取締役。マイコプラズマ感染症研究センター長。専門は、マイコプラズマ感染症、微生物学、臨床免疫学、生化学、臨床血液学、内科学。

※1:Stephen M. Kissler, et al., "Projecting the transmission dynamics of SARS-CoV-2 through the postpandemic period." Science, Vol.368, Issue6493, 860-868, May, 22, 2020

※2:Haley E. Randolph, Luis B. Barreiro, "Herd Immunity: Understanding COVID-19." Immunity, Vol.52, Issue5, 737-741, May, 19, 2020

※3-1:Venna G. Jones, et al., "COVID-19 and Kawasaki Disease: Novel Virus and Novel Case." Hospital Pediatrics, Vol.10, Issue5, May, 1, 2020

※3-2:Shelley Riphagen, et al., "Hyperinflammatory shock in children during COVID-19 pandemic." THE LANCET, doi.org/10.1016/S0140-6736(20)31094-1, May, 7, 2020

※4:Mi Na Lee, et al., “Mycoplasma Pneumoniae Infection in Patients With Kawasaki Disease.” Korean Journal of Pediatrics, Vol.54(3), 123-127, 2001