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新型コロナ感染症:「3密」と同時に「エアコン対流」にも要注意

石田雅彦サイエンスライター、編集者
(写真:ロイター/アフロ)

 新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)感染症(COVID-19、以下、新型コロナ感染症)の流行が止まらないが、感染しないさせないためには、いわゆる「3密」が重なる環境を避けることが重要とされる。最新の研究報告では、エアコンの対流によるエアロゾル感染が報告され、新たなリスクになりそうだ(この記事は2020/04/20の情報に基づいて書いています)。

広州市に広がった新型コロナ感染症

 新型コロナ感染症の感染拡大を防ぐためには、多くの人が密閉、密集、密接のいわゆる「3密」を回避することで感染しにくくなり、感染者が感染を広げない効果があるとされる。

 ただ、この3つが重ならないようにすべきというが、それぞれ1つだけでも感染する危険性があるのは当然だ。そのため、室内環境では空気中のウイルスの濃度を下げ、エアロゾル感染を防ぐため、定期的な換気も重要とされる。

 ところで、新型コロナ感染症は中国の武漢を中心に世界中に感染が広がったが、中国第三の都市である広州市を含み、中国各省で最大のGDPを誇る広東省でも感染者(1581人、死亡者8人、2020年4月20日現在:香港政庁)が出ている。

 その広東省広州市のレストランで発生したクラスターについて、エアコンの気流の対流によって飛沫感染が広がり、クラスターが形成されたのではないかという研究報告(※)が米国のCDC(疾病予防管理センター)が発行するオープンアクセスの査読付きジャーナル「Emerging Infectious Diseases」(EID)に出た。

 これは広州市と隣接する越秀区の疾病管理予防センターの研究グループによるもので、1人の感染者から9人へ感染した事例を紹介している。

 2020年1月23日に湖北省武漢への旅行から広州市に戻った家族Aに属する1人が感染源となったと考えられ、研究報告によるとその経緯は、家族Aの1人の感染者(A1)が家族A(A2〜A5)と翌24日に市内のレストランで昼食を食べたという。

 このレストランは、窓のない5階建ての建物内の3階にあり、客席面積は145平方メートルだった。当日の昼食時、レストランには合計91人(客83人、スタッフ8人)がいて、3階では83人の客がいたという。

エアコンの対流が影響か

 レストランのテーブル配置をみると、家族Aが座ったのは西の端に約1メートル間隔で3つ並ぶ円卓の真ん中だったが、南側に家族B(B1〜B3)、北側に家族C(C1、C2)が座っていたようだ。家族Aと家族Bは、53分間、家族Aと家族Cは73分間、レストラン内に一緒にいたという。

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中国、広州市のレストランで発生したと考えられる新型コロナ感染症のクラスターでは、テーブルとエアコンの位置関係が影響したのではないかと考えられる。Via:Jianyun Lu, et al., "COVID-19 Outbreak Associated with Air Conditioning in Restaurant, Guangzhou, China, 2020." Emerging Infectious Diseases, 2020

 その24日の遅い時間にA1が発症し、広州市の疾病予防管理センターはA1が濃厚接触したと考えられる人に連絡し、2週間の隔離を実施した。その後、1月27日にA2とC2、1月29日にA3とA4、1月31日にC1、2月1日にB1、2月2日はA5、2月5日にB2とB3が発症していった。

 1月24日にレストランの3階で昼食を取った他の客もいたが、この3家族以外に発症者は出ていないという。

 同研究グループが調査したところ、このクラスターの発生源はA1であり、A1からの飛沫感染と結論付けるべきとしている。だが、エアロゾルの飛沫感染では、家族Aの円卓から両隣の家族B、家族Cの円卓への感染が説明できない。

 そこで家族C側にあったエアコンを調べたところ、その強い気流によって各円卓にエアロゾルが運ばれたのではないかと推測された。ただし、エアコンから採取された標本から新型コロナウイルスは見いだせなかったという。

 同研究グループは、早急に結論は出せないとしつつ、新型コロナ感染症の感染拡大防止では、エアコンなどの空調設備によるエアロゾル感染にも注意したほうがいいとしている。これから暑い季節を迎えるが、飲食店に限らず、窓を開けて定期的に換気し、テーブル間隔を取るとともに、空調設備の使用にも注意すべきかもしれない。

※:Jianyun Lu, et al., "COVID-19 Outbreak Associated with Air Conditioning in Restaurant, Guangzhou, China, 2020." Emerging Infectious Diseases, Vol.26, No.7, July, 2020

サイエンスライター、編集者

いしだまさひこ:北海道出身。法政大学経済学部卒業、横浜市立大学大学院医学研究科修士課程修了、医科学修士。近代映画社から独立後、醍醐味エンタープライズ(出版企画制作)設立。紙媒体の商業誌編集長などを経験。日本医学ジャーナリスト協会会員。水中遺物探索学会主宰。サイエンス系の単著に『恐竜大接近』(監修:小畠郁生)『遺伝子・ゲノム最前線』(監修:和田昭允)『ロボット・テクノロジーよ、日本を救え』など、人文系単著に『季節の実用語』『沈船「お宝」伝説』『おんな城主 井伊直虎』など、出版プロデュースに『料理の鉄人』『お化け屋敷で科学する!』『新型タバコの本当のリスク』(著者:田淵貴大)などがある。

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