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新しい「タバコのパッケージ」デザインしてみませんか

石田雅彦サイエンスライター、編集者
「病気になるぞ」という警告が表示されているタバコのパッケージ:写真撮影筆者

 タバコのパッケージは、タバコ会社にとってタバコを売り込むための重要な要素になっている。だが、世界にはブランド・ロゴさえ規制され、パッケージ全面に健康への警告表示を義務づけている国もある。日本のタバコのパッケージ・デザインはどのようになっているのだろうか。

「病気になるぞ」という不思議な商品

 タバコのパッケージのデザインなど、タバコを吸わない人にはあまり関係ないかもしれない。だが、日本で売られているタバコのパッケージに「喫煙は、あなたにとって肺がんの原因の一つとなります」といった文章が書かれていることを知っている人は多いだろう。

 これは加熱式タバコでも同じで、同様の文言が印刷されている。パッケージの警告表示を読んで興味深いのは、JT(日本たばこ産業)のものが共通して妊娠中の喫煙とニコチンの依存性についての言及が多かったことだ。

 筆者が買ったロットだけがそうだったのかもしれないが、海外のタバコ会社のほうは一般的な喫煙者に向けて肺がんや心筋梗塞という具体的な病名で警告し、JTのパッケージはあいまいな表現という印象を受けた。警告表示のパターンは、偏らないようにローテーションになっているが、本当にそうなっているかどうかはわからない。

 このようにパッケージに「病気になるぞ」と警告表示が書かれている商品はおそらくタバコだけだ。病気になるような商品を、わざわざ買わざるを得ないところにタバコの恐ろしさの一端がみえる。

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日本で売られている加熱式タバコのタバコ部分のパッケージの警告表示例(2019年8月現在)。写真撮影筆者

 タバコの健康への害が世界的に広く知られるようになり、WHO(世界保健機関)を中心にして各国はタバコ規制の国際条約を締結した。これがFCTC(WHO Framework Convention on Tobacco Control、たばこの規制に関する世界保健機関枠組条約)だ。日本もこの条約を締結し、2005年2月27日に効力が発生している。

 FCTCには第11条「たばこ製品の包装及びラベル(Packaging and labelling of tobacco products)」という項目があり、タバコ製品のパッケージについて規制するよう締約国に求めている。主な内容は、喫煙によって生じた患部などの写真や絵の画像をパッケージに使うことの推奨、警告表示はパッケージ面積の30%以下を禁じ、50%以上であるべきという推奨、警告表示の位置や文字の大きさ、「マイルド(Mild)」や「ライト(Light)」といった虚偽、喫煙者に誤解を抱かせる表現の禁止といったものだ。

生ぬるい日本の規制

 条約の発行後、FCTC締約各国はすぐにパッケージ表示の規制に動いた。だが、日本の動きは生ぬるく、2005年の警告表示の面積も下限ギリギリの30%以上だった。

 しかし、さすがに各国との規制に差が出てきたからか、2020年の東京オリンピック・パラリンピックが近づいてきたからか、2018年12月28日になって重い腰を上げて規制強化に動く。

 それが財政制度等審議会たばこ事業等分科会による報告(注意文言表示規制・広告規制の見直し等について)だ。主な内容は、警告表示面積を主要面の50%以上とし、受動喫煙と未成年者の喫煙防止を表示し、警告表示を1mm以上の枠線で囲むなどとなっている。

 だが、効果的とされている画像表示(※1)は見送られ、「マイルド(Mild)」「ライト(Light)」といった表現はディスクレーマー表示を付ければ可能のままだ。また、タバコ病の患部などの画像表示についても審議会は、消費者に過度に不快感を与えないようにすることが必要ということで見送られた。

 この財政制度等審議会たばこ事業等分科会の議事録を読むとわかるが、すでに多くの国で画像警告表示が行われ、それが効果を上げているのにもかかわらず、委員にはそうした知識がなかったようだ。

 ちなみにディスクレーマー表示というのは「マイルドの表現は、本製品の健康に及ぼす悪影響が他製品と比べて小さいことを意味するものではありません」といった文言のことだ。これは一種の言い訳であり、タバコ会社が喫煙で病気になったなどと裁判で訴えられた際の対策でもある。

 逆に考えると、健康を気にしてマイルドやライト、クールといった表現に誘われる喫煙者が多いということだろう。

 こうしてFCTC締約各国の対応に比べればかなり生ぬるい内容にとどまったが、ディスクレーマー表示を認めたり喫煙者を気にして画像表示をしないなど、政府の審議会が国民の健康よりタバコ会社のマーケティングに理解を示し、寛容な規制しかできないということ自体が大きな問題でもある。

 そもそも財政制度等審議会たばこ事業等分科会では、参考人として日本たばこ協会からしか意見や資料提供を受けていない。2018年12月28日の報告書が出される直前の分科会には、同協会のシェリー・ゴー会長が参考人として出席している。ゴー会長はアイコスを日本で販売しているフィリップ・モリス・ジャパンの社長だ。この分科会がどういった性格のものかよくわかるだろう。

タバコのパッケージをデザインしてみよう

 いずれにせよ、審議会の報告にもとづき、新しいタバコのパッケージは、2020年の東京オリンピック・パラリンピックの前、2020年7月1日にタバコ会社から出荷される製造タバコから全面適用されることになった。

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提示された新たなパッケージのイメージ(紙巻きタバコの例)。Via:財政制度等審議会たばこ事業等分科会「注意文言表示規制・広告規制の見直し等について」

 国際条約というのは、国内法よりも上位にくる場合も多い。FCTCも国際条約だが、締約各国の国内法に基づいて適用されるという条件が挿入されているので、日本でもこうした生ぬるい規制が横行することになる。

 タバコ産業は、商取引や表現の自由などをタテに、タバコのパッケージ規制を妨害しようとしてきた(※2)。だが、いうまでもなく生命や健康に関しては表現の自由が制限される。タバコのパッケージの表現が喫煙率を引き下げるというのは、各国の規制の効果を検証した研究で明らかだ(※3)。

 残念ながら日本では、タバコ産業の影響が政府行政に深く浸透し、審議会でも生ぬるい規制しかできない。そこで日本公衆衛生学会や30学会で構成される禁煙推進学術ネットワークは2019年3月に、麻生太郎財務大臣と財政制度等審議会長に対し、タバコのパッケージの警告表示をより実効性の高い画像を含んだ内容にし、「マイルド」などの表現の禁止を求める要望書を提出している。

 また、新しいタバコのパッケージの表示についてタバコ会社や政府行政にまかせてはいけないという主旨で、禁煙推進学術ネットワークは日本公衆衛生学会の協力のもと、タバコのパッケージの警告表示を一般から募集している。大テーマは「喫煙者の禁煙促進」で「未成年者の喫煙防止」「妊産婦・母子」「受動喫煙の健康影響(他者被害)」「加熱式たばこの使用防止」の4部門もある。

 一応、タバコのパッケージのデザイン公募という体裁をとっていて、報酬は各テーマ5万円、最優秀賞は別に5万円、最高で合計10万円となる。〆切間際だが、吾こそはという方はぜひふるって応募してほしい。

※1-1:David Hammond, "Health warning messages on tobacco products: a review." Tobacco Control, Vol.20, Issue5, 2015

※1-2:Seth M. Noar, et al., "Pictorial cigarette pack warnings: a meta-analysis of experimental studies." Tobacco Control, Vol.25, Issue3, 2016

※2:Eric Crosbie, et al., "Containing diffusion: the tobacco industry's multipronged trade strategy to block tobacco standardised packaging." Tobacco Control, Vol.28, 195-205, 2019

※3:Suzanne Zhou, Melanie Wakfield, "A Global Public Health Victory for Tobacco Plain-Packaging Laws in Australia." JAMA, Vol.179, No.2, 2018

サイエンスライター、編集者

いしだまさひこ:北海道出身。法政大学経済学部卒業、横浜市立大学大学院医学研究科修士課程修了、医科学修士。近代映画社から独立後、醍醐味エンタープライズ(出版企画制作)設立。紙媒体の商業誌編集長などを経験。日本医学ジャーナリスト協会会員。水中遺物探索学会主宰。サイエンス系の単著に『恐竜大接近』(監修:小畠郁生)『遺伝子・ゲノム最前線』(監修:和田昭允)『ロボット・テクノロジーよ、日本を救え』など、人文系単著に『季節の実用語』『沈船「お宝」伝説』『おんな城主 井伊直虎』など、出版プロデュースに『料理の鉄人』『お化け屋敷で科学する!』『新型タバコの本当のリスク』(著者:田淵貴大)などがある。

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