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子どもの「スマホ依存」と肥満や高血圧との関係とは

石田雅彦科学ジャーナリスト、編集者
(写真:アフロ)

 スマホ(Smartphone)の使い過ぎが取り沙汰されるようになり、ゲーム依存やネット依存、SNS依存、そしてスマホ自体への依存などが問題になりつつある。子どもに対する影響も大きいスマホ依存だが、健康への弊害にはどんなものがあるのだろうか。

WHOがゲーム障害をガイドラインに

 何かに対して執着する状態になり、自分をコントロールできなくなるような状態を依存という。その中でも極度に強い依存状態は依存症という病気かもしれない(※1)。

 ところで、WebブラウジングやSNS、オンラインゲームができる携帯端末、いわゆるスマホはインターネットに接続することで小さなパソコンといってもいい機能を持つようになっている。

 WHOはゲーム障害(Gaming Disorder)を病気のガイドラインに入れたが、インターネットやスマホの依存状態まで病気といえるかどうかには議論がある。ゲームの多くは、オンラインゲームとしてインターネット経由でスマホを使ってプレイされるが、WHOのガイドラインで病気として考えられている依存の範囲はまだそれほど広くない。

 一方、米国の精神医学会の最新ガイドラインには、インターネットでプレイされるゲームをゲーム障害(Addiction to Gaming)に組み入れるべきという意見も出てきている。こうしたゲームの多くがインターネット上でプレイされていることからインターネット・ゲーム障害(Internet Gaming Disorder)と用語を使い分けているが(※2)、趨勢としてインターネットやスマホへの依存も病的な障害や依存症という病気として考えられていくことになりそうだ。

スマホ依存で高血圧に

 ところで最近、中国の中学生を対象にした研究で、スマホ依存の生徒が高血圧になりやすいのではないかという論文が出た(※3)。12〜15歳の2639人(少女1421人)の身長、体重、収縮期と拡張期の血圧、BMI(ボディマス指数)から肥満、高血圧の生徒を評価し、スマホ依存スケール(短縮版、SAS-SV、※4)というチェック調査や睡眠の質(PSQI、※5)と比較したという。

 この短縮版スマホ依存スケールは、スマホ使用などに関する10項目(※6)に6段階(まったく違う〜まったくその通り)でチェックして評価する。そして、この点数が31点以上になると、スマホ依存(Smartphone Addiction)の危険性があると診断される。

 研究結果は、高血圧の割合が16.2%(少年18.9%、少女13.1%)、スマホ依存の割合が22.8%(少年23.2%、少女22.3%)となり、スマホ依存と肥満、睡眠の質はそれぞれ高血圧と独立した関係が示唆されたという。研究者は小中学校という若い世代のスマホ依存が高血圧のリスクを高めると警告している。

因果関係はまだ不十分

 もともと睡眠時間が短くなると小児肥満のリスクが高くなることは知られていた(※7)。また、肥満になると子どもも血圧が上がることもよくわかる(※8)。

 一方、スマホを使い過ぎると運動不足になり、食生活も乱れがちになることもわかってきた(※9)。そして、夜間のスマホ使用によって睡眠不足になることで肥満になるという調査もあり(※10)、睡眠不足は高血圧のリスクを高めることもよく知られている(※11)。

 これらのことを考えれば、スマホ依存の子どもが睡眠不足になりやすく、そのせいで肥満や高血圧のリスクも高くなるというのは理解しやすいことだろう。

 だが、強い因果関係まであるかといえば、まだ研究は少ない(※12)。特にスマホの使い過ぎと睡眠不足の関係ははっきりしていないから、その後の肥満や高血圧のリスクまで説明できるかどうか疑問だろう。

 いずれにせよ、睡眠は必要十分にとる必要があるのは言うまでもないが、思春期を含めた若い時期の脳は育ち盛りで外界からの影響を受けやすい。人類は今のようなスマホのある生活を始めたばかりだ。子どものスマホ使用に関しては、用心するに越したことはないだろう。

※1-1:世界保健機関(WHO)では従来のICD-10に修正を加えたICD-11という2018年に発表(ICD=International Statistical Classification of Diseases and Related Health Problems、疾病および関連保健問題の国際統計分類)、ICD-11では依存症の診断ガイドラインが示され、プロセス障害としての依存症として新たに「Gambling Disorder(病的ギャンブリング)」と「Gaming Disorder(ゲーム障害)」が追加、また米国精神医学会(American Psychiatric Association、APA)によって作成されたDMS-5も精神疾患のガイドラインとして使用(DMS=Diagnostic and Statistical Manual of Mental Disorders)

※1-2:Jon E. Grant, et al., "impulse control disorders and “behavioural addictions” in the ICD-11." World Psychiatry, Vol.13, Issue2, 125-127, 2014

※2:American Psychiatric Association, "Internet Gaming."

※3:Yunfei Zou, et al., "Smartphone addiction may be associated with adolescent hypertension: a cross-sectional study among junior school students in China." BMC Pediatrics, Vol.19, 2019

※4:Min Kwon, et al., "The Smartphone Addiction Scale: Development and Validation of a Short Version for Adolescents." PLOS ONE, doi.org/10.1371/journal.pone.0083558, 2013

※5:睡眠の質:PSQI=the Pittsburgh Sleep Quality Index

※6:「スマホ使用のため、予定していた仕事や勉強ができない」「スマホ使用のため、(クラスで)課題に取り組んだり、仕事や勉強をしているときに集中できない」「スマホを使っていると、手首や首の後ろに痛みを感じる」「スマホがないと我慢できなくなると思う」「スマホを手にしていないと、イライラしたり怒りっぽくなる」「スマホを使っていないときでも、スマホのことを考える」「スマホが毎日の生活にひどく悪影響を及ぼしても、スマホを使い続けると思う」「TwitterやFacebookで他の人とのやりとりを見逃さないためにスマホを絶えずチェックする」「(使う前に)意図していたよりもスマホを長時間使ってしまう」「まわりの人が、自分に対してスマホを使いすぎていると言う」

※7-1:Michikazu Sekine, et al., "A dose-response relationship between short sleeping hours and childhood obesity: results of the Toyama Birth Cohort Study." Child: care, health and development, Vol.28, Issue2, 163-170, 2002

※7-2:Xiaoli Chen, et al., "Is Sleep Duration Associate with Childhood Obesity? A Systematic Review and Meta-Analysis." Obesity, Vol.16, Issue2, 265-274, 2008

※7-3:Y Fatima, et al., "Sleep quality and obesity in young subjects: a meta-analysis." obesity reviews, Vol.17, Issue11, 1154-1166, 2016

※8:Jonathan Sorof, Stephen Daniels, "Obesity Hypertension in Childhood." Hypertension, Vol.40, Issue4, 2002

※9-1:Jacob E. Barkley, Andrew Lepp, "Mobile phone use among college students is a sedentary leisure behavior which may interfere with exercise." Computers in Human Behavior, Vol.56, 29-33, 2016

※9-2:S J. Cho, et al., "Smartphone Usage Influences the Eating Habits of Middle School Students." Journal of the Korean dietetic association, Vol.24(3), 199-211, 2018

※9-3:Mallory S. Kobak, et al., "The Effect of the Presence of an Internet-Connected Mobile Tablet Computer on Physical Activity Behavior in Children." Pediatric Exercise Science, Vol.31, Issue1, 2018

※9-4:Andrew Lepp, Jacob E. Berkley, "Cell phone use predicts being an "active couch potato": results from a cross-sectional survey of sufficiently active college students." Digital Health, doi.org/10.1177/2055207619844870, 2019

※9-5:Maria Luisa Zagalaz-Sanchez, et al., "Mini Review of the Use of the Mobile Phone and Its Repercussion in the Deficit of Physical Activity." frontiers in Psychology, doi.org/10.3389/fpsyg.2019.01307, 2019

※10-1:H Chahal, et al., "Availability and night-time use of electronic entertainment and communication devices are associated with short sleep duration and obesity among Canadian children." pediatric obesity, Vol.8, Issue1, 42-51, 2013

※10-2:Sakari Lemola, et al., "Adolescents' Electronic Media Use at Night, Sleep Disturbance, and Depressive Symptoms in the Smartphone Age." Journal of Youth and Adolescence, Vol.44, Issue2, 405-418, 2015

※11:James E. Gangwish, "A Review of Evidence for the Link Between Sleep Duration and Hypertension." American Journal of Hypertension, Vol.27, Issue10, 2014

※12:Lauren Hale, Stanford Guan, "Screen time and sleep among school-aged children and adolescents: A systematic literature review." Sleep Medicine Reviews, Vol.21, 50-58, 2015

科学ジャーナリスト、編集者

いしだまさひこ:北海道出身。法政大学経済学部卒業、横浜市立大学大学院医学研究科修士課程修了、医科学修士。近代映画社から独立後、醍醐味エンタープライズ(出版企画制作)設立。紙媒体の商業誌編集長などを経験。日本医学ジャーナリスト協会会員。水中遺物探索学会主宰。サイエンス系の単著に『恐竜大接近』(監修:小畠郁生)『遺伝子・ゲノム最前線』(監修:和田昭允)『ロボット・テクノロジーよ、日本を救え』など、人文系単著に『季節の実用語』『沈船「お宝」伝説』『おんな城主 井伊直虎』など、出版プロデュースに『料理の鉄人』『お化け屋敷で科学する!』『新型タバコの本当のリスク』(著者:田淵貴大)などがある。

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