「ニコチン」が真犯人か~「加熱式タバコ」にも「肺がん」リスク

(写真:アフロ)

 タバコを吸うと肺がんにかかりやすくなるというのは今や常識だが、有害物質の低減をタバコ会社がPRしているアイコス(IQOS)やプルーム・テック(Ploom TECH)などの加熱式タバコはどうだろう。最新の研究によれば、加熱式タバコにも入っているニコチンが、肺がんやCOPD(慢性閉塞性肺疾患)を引き起こす犯人かもしれないことがわかってきた。

なぜ喫煙者は、がんになりやすいのか

 ヒトゲノム計画が終わって以降、その成果から行われているゲノム解析研究(※1)により、遺伝子と疾患の様々な関係がわかってきた。特に、SNPs(※2)が解明されてきたことにより個々人の病気にかかりやすさ(感受性遺伝子)を評価する指標が示される可能性が高まり、また遺伝子自体を変えずにその発現が後天的に変化するメカニズム(※3)も次第に理解されつつある。

 タバコに関連した病気は多いが、タバコは肺がんやCOPD(慢性閉塞性肺疾患)の発症にも強い影響を与える。前述したゲノム解析研究により、肺がんとCOPDの感受性遺伝子とSNPsが、ニコチン性アセチルコリン受容体に関連した領域の遺伝子群にあることがわかってきた(※4)。

 この受容体の遺伝子にタバコがどう作用するのかも次第に明らかになってきている。当初はニコチンの強い依存性によって、タバコに含まれる発がん物質に曝露され、その結果として肺がんなどにかかりやすくなると考えられてきた。だが、タバコ製品に入っているニコチンもまた受容体遺伝子に対してメチル化という後天的な変化をさせるようだ(※5)。

 ところで、タバコに含まれる発がん性物質は、依存性の強いニコチンによって継続的に体内に摂取されるようになる。ニコチン自体にも毒性があり、これらの発がん性物質とニコチンが相まって、がんによる死者の約30%がタバコによるものという原因になっているというわけだ(※6)。

 また、タバコに特有の発がん性物質として、タバコ特異的ニトロソアミン類がある。この中でもNNNとNNK(※7)は強力な発がん性があり、タバコそのものの成分にも含まれるが、ニコチンの代謝物として体内でも生成される物質だ(※8)。

次第にわかってきたニコチンの凶悪度

 電子タバコについての最近の研究によれば、電子タバコの機構としてニコチンがエアロゾル化し、エアロゾル化したニコチンを吸い込んだ場合、肺や心臓、膀胱のDNA修復機能を行う酵素の働きを損なうことがあるようだ。さらに、ニコチンとその代謝物であるNNNは、細胞レベルの実験で遺伝子の変異や腫瘍の形成への転換を促進させることもわかっている(※9)。そして、そこにも遺伝子のメチル化が作用していると考えられている。

 一方、ニコチンは脳内への糖の輸送を阻害するという研究もある(※10)。脳内の糖が減少するとアルツハイマー病が悪化するため(※11)、無視できない内容だ。

 さらに、ニコチンが血圧上昇や心臓、血管などの繊維化に関わっているアンジオテンシン(Angiotensin)の生成に影響しているのではないかという研究もある(※12)。ニコチンはひょっとすると心肺機能に悪い作用をおよぼしているかもしれない。これらの研究はマウスなどを使った動物実験によるものが多いが、ヒトに対してもニコチンが同じような作用を引き起こすことは十分に予測できる。

 以上をまとめれば、タバコが止められなくなり、長期にわたって有害物質を体内に摂取し続けるのはニコチンの強い依存性のせいであることが大きい。これまでタバコ特有の有害物質が病気を引き起こすと考えられてきたが、さらに加えてニコチンにも発がん性を含めた強い有害性があり、そのメカニズムも次第にわかってきている。

 電子タバコのエアロゾル自体にも害があるという報告もあり、微細な粒子そのものが健康に悪影響を与えている危険性が高い。タバコ会社自身がいっているように、加熱式タバコの煙はエアロゾルだそうだ。自分から有害性を吐露した形になっている。

 さらに、加熱式タバコにもニコチンは大量に含まれていて、加熱式タバコへの依存を強めている。ニコチンの有害性だけを考えても、すぐに吸うのを止めたほうがいいということだ。

 ニコチン依存が強いほど肺がんにかかる危険率や肺がんによる死亡率は高くなる(※13)。喫煙とタバコ関連疾患の発症には強い因果関係があり、喫煙が健康や病気、死亡に関係しているのは禁煙すると健康状態が改善することでも明らかだ(※14)。

 発がん性などのニコチンの危険性が次第にわかってきたが、加熱式タバコにも確実にニコチンが入っている。加熱式タバコ自体の有害性もさることながら、中毒性の強いニコチン依存とニコチンの害毒にも目を向ければ、加熱式タバコを一刻も早く止めたほうがいいのは確かだろう。

※1:ゲノムワイド解析研究:関連解析:Genome Wide Association Study、GWAS

※2:SNPs:Single Nucleotide Polymorphisms、一塩基多型、ゲノム上で一塩基だけが他のものに置き換わっている変異のうち、特定の集団の1%以上にみられるもの

※3:遺伝子の発現が後天的に変化するメカニズム:エピジェネティクス:Epigenetics

※4-1:Rayjean J. Hung, et al., "A susceptibility locus for lung cancer maps to nicotinic acetylcholine receptor subunit genes on 15q25." nature, Vol.452, 633-637, 2008

※4-2:Christopher I. Amos, et al., "Genome-wide association scan of tag SNPs identifies a susceptibility locus for lung cancer at 15q25.1." nature genetics, Vol.40, 616-622, 2008

※4-3:Thorgeir E. Thorgeirsson, et al., "A variant associated with nicotine dependence, lung cancer and peripheral arterial disease." nature, Vol.452, 638-642, 2008

※4-4:Loic Le Marchand, et al., "Smokers with the CHRNA Lung Cancer-Associated Variants Are Exposed to Higher Levels of Nicotine Equivalents and a Carcinogenic Tobacco-Specific Nitrosamine." Cancer Research, Vol.68, Issue22, 2008

※4-5:Sreekumar G. Pillai, et al., "A Genome-Wide Association Study in Chronic Obstructive Pulmonary Disease (COPD): Identification of Two Major Susceptibility Loci." PLO GENETICS, doi.org/10.1371/journal.pgen.1000421, 2009

※4-6:Jason Z. Lui, et al., "Meta-analysis and imputation refines the association of 15q25 with smoking quantity." nature genetics, Vol.42, 436-440, 2010

※5-1:Xu Gao, et al., "Tobacco smoking and methylation of genes related to lung cancer development." Oncotarget, Vol.7(37), 2016

※5-2:Hai-Ji Sun, et al., "Alpha5 Nicotinic Acetylcholine Receptor Contributes to Nicotine-Induced Lung Cancer Development and Progression." frontiers in Pharmacology, doi.org/10.3389/fphar.2017.00573, 2017

※5-3:Ivana Nedeljkovic, et al., "Understanding the role of the chromosome 15q25.1 in COPD through epigenetics and transcriptomics." European Journal of Human Genetics, Vol.26, 709-722, 2018

※6:Stephen S. Hecht, "Tobacco Carcinogens Their Biomarekers and Tobacco-Induced Cancer." nature reviews Cancer, Vol.3, 733-744, 2003

※7-1:NNN=N-Nitrosonornicotine=N-ニトロソノルニコチン、NNK=4-(methylnitrosamino)-1-(3-pyridyl)-1-butanone=4-(メチルニトロソアミノ)-1-(3-ピリジル)-1-ブタノン

※8:Neil Trushin, Stephen S. Hecht, "Stereoselective Metabolism of Nicotine and Tobacco-Specific N-Nitrosamines to 4-Hydroxy-4-(3-pyridyl)butanoic Acid in Rats." Chemical Research in Toxicology, Vol.12, Issue2, 164-171

※9-1:Hyun-Wook Lee, et al., "E-cigarette smoke damages DNA and reduces repair activity in mouse lung, heart, and bladder as well as in human lung and bladder cells." PNAS, Vol.115(7), E1560-E1569, 2018

※9-2:Shama Ahmod, et al., "Acute pulmonary effects of aerosolized nicotine." Lung Cellular and Molecular Physiology, Vol.316, Issue1, L94-L104, 2019

※10:Ali E. Sift, et al., "Nicotine and electronic cigarette (E‐Cig) exposure decreases brain glucose utilization in ischemic stroke." Journal of Neurochemistry, Vol.147, Issue2, 204-221, 2018

※11:Ethan A. Winkler, et al., "GLUT1 reductions exacerbate Alzheimer's disease vasculo-neuronal dysfunction and degeneration." nature neuroscience, Vol.18, 521-530, 2015

※12:J M. Wakes, et al., "Nicotine and the renin-angiotensin system." American Journal of Physiology Regulatory, Integrative and Comparative Physiology, Vol.315, Issue5, R895-R906, 2018

※13:Ralph C. Ward, et al., "Impact of Tobacco Dependence in Risk Prediction Models for Lung Cancer Diagnoses and Deaths." JNCI Cancer Spectrum, Vol.3(2), 2019

※14:Nicholas R. Anthonisen, et al., "The Effects of a Smoking Cessation Intervention on 14.5-Year Mortality: A Randomized Clinical Trial." Annals of Internal Medicine, Vol.142(4), 233-239, 2005