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「禁煙マーク」は2020五輪後も継続すべし

石田雅彦科学ジャーナリスト、編集者
厚生労働省のHPより

 東京都は2019年9月1日から都内の全ての飲食店に対し、店頭に禁煙か喫煙場所があるか表示する東京都受動喫煙防止条例の義務化を施行し、都内の学校で喫煙場所を設置できない敷地内全面禁煙の都条例も施行した。ラグビーワールカップの開催に対する措置でもあるが、飲食店の店頭に禁煙表示を義務づける今回の都条例一部施行には、いったいどんな意味があるのだろう。

都内の学校で敷地内全面禁煙

 国の改正健康増進法の一部施行で学校、病院、行政機関の庁舎などの第一種施設は、2019年7月1日から「原則」敷地内禁煙になった。この原則というのは、喫煙場所が区切られている普段、人が立ち入らない場所に喫煙場所であることを明記した標識を掲示すれば、特定屋外喫煙場所として喫煙所や喫煙場所を設置できるという意味だ。

 改正健康増進法では施設建物の裏や屋上などでの設置を想定しているが、受動喫煙防止を目的としているため、特定屋外喫煙場所であっても近隣の建物への影響が及ばないようにしなければならない。また、同法の主旨として特定屋外喫煙場所の設置を推奨しているものでもない。

 だが、9月1日から施行された東京都受動喫煙防止条例では、保育園や幼稚園、小中高校といった都内の学校においても敷地内全面禁煙となり、どんな条件でも学校敷地内に喫煙場所を設置できなくなった。これは改正健康増進法よりも厳しい内容になっている。

 東京都の受動喫煙防止条例では違反の度合いにより罰則として5万円以下、3万円以下、2万円以下の過料が科せられるが、今回の学校に対する一部施行のほうは努力義務で罰則もない。また、同じ第一種施設である児童福祉施設、病院、役所は、なぜか敷地内全面禁煙から除外され、特定屋外喫煙所の設置が許されている。東京都によれば、屋外の受動喫煙の健康への害について、はっきりしたエビデンスがないので努力義務にしたという。

 来年2020年4月1日から改正健康法の全面施行が始まる。これは事業所や宿泊施設、飲食店、運輸機関、国会、司法機関などの第二種施設においても屋内「原則」全面禁煙という内容だ。

 この原則も例外があり、飲食店については経過措置として個人または中小企業(資本金5000万円以下)が経営する客席面積100平方メートル以下の小規模店の場合、喫煙可能な設備・施設を設置し、そのことを掲示すれば店内の喫煙可能場所で喫煙できる。

 だが、東京都の飲食店に対する規制はより厳しく、喫煙可能場所を設置できる店は上記に加えて従業員を雇用していないという条件が加わる。これは従業員を受動喫煙から守る主旨で定められた規制だが、9月1日からの一部施行で飲食店の店頭に禁煙と喫煙の表示の義務付けが始まったということになる。

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都条例では、飲食店(既存小規模店)では、2020年4月1日現在すでに営業しており、客席面積100平方メートル以下、個人または企業(資本金5000万円以下)が経営し、さらに従業員を雇用していない店に対し、例外的に喫煙専用ルームなどを設置できる。東京都は9月1日より禁煙・喫煙可の店頭掲示を義務化した。東京都福祉保健局が作成した「受動喫煙防止対策 施設管理者向け標識掲示パンフレット」より

 もちろん、国の改正健康増進法の全面施行より前の経過措置なので、今回の都条例の一部施行では店の出入り口に「禁煙店か、喫煙場所がある店か」が判断できるような標識が掲示されていればいいという内容で、しかも店の喫煙室が改正健康増進法に定められた技術的な基準を満たしているかどうかは問題にされていない。

禁煙の標識がない場合どうなるか

 いずれにしても、今回の飲食店の標識掲示の前倒し施行は、来年の全面施行を前にした問題提起として評価できる。なぜなら、改正健康増進法では飲食店は原則屋内禁煙となっているからだ。

 そのため、喫煙可能店はその旨を店頭に掲示しなければならないが、禁煙店は「何もしなくてもいい」ことになる。今でも改正健康増進法の内容は十分に国民に周知されているとは思えないし、2020年の東京オリパラで来日する外国人観光客も日本のタバコ対策法の内容を知らないだろう。

 店頭に何も表示されていない場合、こうした人がタバコを吸えると勘違いし、禁煙店内でタバコを吸い始めることは十分想像できる。東京都は2020年4月1日以降も引き続き、店頭での禁煙マーク掲示を続けるよう飲食店へ要請するとしているが、禁煙・喫煙可が店頭でわかることで混乱を未然に防ぐことができるだろう。

 東京都の禁煙掲示は罰則のない義務だが、神奈川県や兵庫県は以前からある県の受動喫煙防止条例を引き継ぐ形で、飲食店の禁煙表示を罰則(科料)付きで義務づけている。両県に確認したところ、やはり改正健康増進法では禁煙の掲示義務はなく、吸える場所と勘違いする問題に対応したという回答だった。

 もちろん、国もこれについては問題意識を持っている。厚生労働省に確認したところ、禁煙・喫煙に関する掲示例を16パターン用意しているが(厚生労働省)、その中に禁煙マークも入っている。禁煙店なのに喫煙可と誤解を生じやすい飲食店などで使って欲しいということだ。無用な混乱を生じさせないため、タバコを吸えない場所には禁煙マークを継続して掲示していくほうがいいだろう。

※2019/09/03:10:04:東京都受動喫煙防止条例の一部施行の飲食店の店頭での標識は、罰則のない「義務」で「努力義務」ではないという内容で修正した。

科学ジャーナリスト、編集者

いしだまさひこ:北海道出身。法政大学経済学部卒業、横浜市立大学大学院医学研究科修士課程修了、医科学修士。近代映画社から独立後、醍醐味エンタープライズ(出版企画制作)設立。紙媒体の商業誌編集長などを経験。日本医学ジャーナリスト協会会員。水中遺物探索学会主宰。サイエンス系の単著に『恐竜大接近』(監修:小畠郁生)『遺伝子・ゲノム最前線』(監修:和田昭允)『ロボット・テクノロジーよ、日本を救え』など、人文系単著に『季節の実用語』『沈船「お宝」伝説』『おんな城主 井伊直虎』など、出版プロデュースに『料理の鉄人』『お化け屋敷で科学する!』『新型タバコの本当のリスク』(著者:田淵貴大)などがある。

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