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地球「温暖化防止」政策に修正迫る?〜熱帯アフリカのCO2収支

石田雅彦サイエンスライター、編集者
(写真:アフロ)

 世界的に異常気象が起きているが、その原因の多くが温暖化する地球の環境変化にあると考えられている。温暖化を加速しているのがCO2(二酸化炭素)とされ、人間活動が温暖化に影響し、気温上昇の進行速度を抑えようという国際的な取り組みが行われている。だが最近、地球規模でのCO2の収支を抜本的に修正しなければならないという研究結果が出た。

CO2収支をどう観測するか

 世界各国は、UNFCCC(気候変動に関する国際連合枠組条約)を締結して地球温暖化の防止に国際協力して取り組んできた。こうした対策では、人間活動による人為的なCO2排出量を将来的にゼロにすることを目的にしているが、それまでの間、温暖化を食い止めるためには光合成によってCO2を大量に取り込む植物が多い熱帯雨林を含む森林の保護育成は欠かせない。

 こうした森林は人為的に排出されるCO2の30%近くを吸収するといわれ、特に熱帯雨林の吸収力は強い。しかし、人口増や開発によって世界的に熱帯地方の森林が伐採され、耕地や住宅地、工業地などに転換され、あるいは焼き畑農業や森林火災で失われつつある(※1)。

 また、熱帯雨林ではないサバンナや砂漠など、熱帯地域全体のCO2収支を正しく見積もらなければ、温暖化対策を立てることはできないだろう。例えば、東アジアのCO2収支では、従来のCO2吸収量の推計が過大評価されてきたとして下方修正されている(※2)。

 もちろん、地球における熱帯地域が全て森林におおわれているわけではないが、熱帯地域には工業化された先進国が少ないために人工衛星による観測が遅れ、正確なCO2収支がわからなかった。

 熱帯地方の植物生態系はそもそも温度の変化に弱く、気候変動による干ばつや人為的な開発によって乾燥化が進んでいたり、植生が大きく変わったりしている。また、植物が生成する有機的な化合物が複雑に作用し合い、CO2収支見積もりを困難にしたりしてきた。

 例えば、植物が強い太陽光線や高温にさらされ、ストレスを感じるとイソプレンという揮発性のあるガスを発生させる。このイソプレンにより植物は太陽光線や高温から自身を守るが、一方で温暖化を促進する物質となることがわかっている(※3)。イソプレンは、異常気象や乾燥化に対する植物の反応と大気中の化学反応に関し、人工衛星で観測できる指標物質の一つになっているというわけだ(※4)。

アフリカ熱帯地域から大量のCO2が

 こうした人工衛星を使った観測により、熱帯地域である北アフリカのCO2収支に大きな修正を迫る調査研究(※5)が発表された。これは英国エジンバラ大学などの研究グループによるもので、日本が打ち上げた温室効果ガス観測技術衛星GOSAT(いぶき)と米国の軌道上炭素観測衛星OCO-2(Orbiting Carbon Observatory 2)からのデータを継続的に使い、アジア、オーストラリア、南米、アフリカといった地球上の熱帯地方のCO2収支を円周的かつ季節ごとに分析した。

 その結果、熱帯地域全体で2015年と2016年を比較した場合、1.03ペタグラム/年(PgC/yr=10億トン/年)と1.60ペタグラム/年のCO2排出量だった。ちなみに、2100年時点で約3℃の気温上昇を見積もったシナリオ(RCP4.5)によれば、2100年時点でのCO2排出量は全世界で5ペタグラム/年が上限とされている。

 今回の調査研究では2015年の場合、CO2収支の中央値が、南米でマイナス0.26ペタグラム/年、熱帯アジア地域マイナス0.13ペタグラム/年、熱帯オーストラリア地域マイナス0.10ペタグラム/年と減っていたのに比べ、熱帯アフリカ地域は1.48ペタグラム/年(0.50〜1.95ペタグラム/年)と大きなプラス収支になっていた。また、2016年では南米0.20ペタグラム/年、熱帯アジア地域マイナス0.01ペタグラム/年、熱帯オーストラリア地域マイナス0.11ペタグラム/年だったが、熱帯アフリカ地域は1.65ペタグラム/年(1.14〜2.24ペタグラム/年)となった。

 熱帯アフリカ地域のCO2収支は予想外にこれまでの推定値を大きく上回っていたことになるが、研究者は2014〜2016年のエルニーニョ現象を加味してもアフリカの数値は想定外だったという。熱帯アフリカ地域は広く、干ばつに見舞われる地域も変化し、季節による影響も大きいが、研究者は乾燥化に加えた人為的な開発によって土壌からCO2が放出されている可能性も示唆している。

 いずれにせよ、CO2収支の正確な見積もりは温暖化に対する国際的な対策にとって欠かせない。今回の調査研究により、その重要性が一層際立ったことになる。

※1-1:Eric F. Lambin, et al., "Dynamics of Land-Use and Land-Cover Change in Tropical Regions." Annual Review of Environment and Resources, Vol.28, 205-241, 2003

※1-2:G R. van der Werf, et al., "Global fire emissions and the contribution of deforestation, savanna, forest, agricultural, and peat fires (1997-2009)." Atmospheric Chemistry and Physics, Vol.10, 11707-11735, 2010

※2:Tazu Saeki, Prabir K. Patra, "Implications of overestimated anthropogenic CO2 emissions on East Asian and global land CO2 flux inversion." Geoscience Letters, Vol.4, No.9, 2017

※3:Anne M. Thompson, "The Oxidizing Capacity of the Earth's Atmosphere: Probable Past and Future Changes." Science, Vol.256, Issue5060, 1157-1165, 1992

※4-1:Kathryn M. Emmerson, et al., "Sensitivity of isoprene emissions to drought over south-eastern Australia: Integrating models and satellite observations of soil moisture." Atmospheric Environment, Vol.209, 112-124, 2019

※4-2:Sean Crowell, et al., "The 2015-2016 carbon cycle as seen from OCO-2 and the global in situ network." Atmospheric Chemistry and Physics, Vol.19, 9797-9831, 2019

※5:Paul I. Palmer, et al., "Net carbon emissions from African biosphere dominate pan-tropical atmospheric CO2 signal." nature COMMUNICATIONS, Vol.10, No.3311, 2019

サイエンスライター、編集者

いしだまさひこ:北海道出身。法政大学経済学部卒業、横浜市立大学大学院医学研究科修士課程修了、医科学修士。近代映画社から独立後、醍醐味エンタープライズ(出版企画制作)設立。紙媒体の商業誌編集長などを経験。日本医学ジャーナリスト協会会員。水中遺物探索学会主宰。サイエンス系の単著に『恐竜大接近』(監修:小畠郁生)『遺伝子・ゲノム最前線』(監修:和田昭允)『ロボット・テクノロジーよ、日本を救え』など、人文系単著に『季節の実用語』『沈船「お宝」伝説』『おんな城主 井伊直虎』など、出版プロデュースに『料理の鉄人』『お化け屋敷で科学する!』『新型タバコの本当のリスク』(著者:田淵貴大)などがある。

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