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コンビニにズラり並ぶ「タバコ銘柄」その理由を考える

石田雅彦サイエンスライター、編集者
コンビニのレジに並ぶ多種多様なタバコ銘柄(写真撮影筆者)

 コンビニエンスストアのレジに行くと、多種多様なタバコ銘柄がズラりと並んでいることがわかる。新たに販売されたり廃止されたり入れ替わりも激しく、メンソールなどの味付けタバコの種類も多い。なぜこのようなことが起きているのだろうか。

多様なニーズを拾い上げる

 JT(日本たばこ産業)は、機械学習アルゴリズムを使ったタバコ銘柄の配置確認に取り組んでいる。最近になり、特に加熱式タバコの銘柄が急増し、コンビニエンスストアの棚割りなどで混乱が生じ、最適化が必要だからだ。

 なぜ、タバコ銘柄が多種多様になるかといえば、これはひとえにタバコ会社のマーケティング戦略に理由付けられる。まず、低価格から高価格まで多様な価格帯を用意することで、多様な購買力を持った顧客に訴求することができる。喫煙人口が下がり続けている状況では、小まめにニーズを拾い集める必要があるのだろう。

 銘柄間の価格差を利用して価格調整のようなことを行うことで増税された際の影響をなるべく小さくできるだろうし、利益を最大化するための価格設定の参考にもなるはずだ。こうした訴求戦術は、タバコ産業100年の歴史の中で試行錯誤して得られたものであり、性別、年代、嗜好、ロイヤリティ、地域など、多様なニーズに応えることにもつながる。

 タバコ銘柄は、タバコ会社の経営戦略の根幹をなす。実際、JTは低価銘柄であるいわゆる旧3級品タバコの撤廃を見越し、2018年4月1日に旧3級品タバコ6銘柄の値上げをしたが、2019年10月の在庫を持って「わかば」「エコー」「コールデンバット」の3銘柄の紙巻きタバコを廃止する(「しんせい」「ウルマ」「バイオレット」は残り、廃止される3銘柄も葉巻タイプとして復活)。

 これらの低価格銘柄は主に高齢の喫煙者が顧客だったが、健康懸念の影響で60代以上の喫煙者がどんどん減り続け、税率が抑えられてきた3級品タバコ区分の撤廃もあって損益分岐点を超えてしまったのだろう。タバコ会社にとってこうした低価格タバコは増税による価格上昇の際のバッファ的な存在だったが、その役割は加熱式タバコへシフトしつつある。

 コンビニエンスストアなどに並べられたタバコ銘柄の中には、メンソールを含む味付け(フレーバー)タバコも少なくない。加熱式タバコでもこの傾向は同じで、むしろフレーバーを付けないタバコのほうが少数派だ。つまり、加熱式タバコに味付けタバコが増えたことが、タバコ銘柄増の一因でもある。

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加熱式タバコのタバコ部分のラインナップ。期間や地域が限定されたものを含めるともっと増え、廃止銘柄も混在し、わざとわかりにくい状態を作り出しているようにもみえる。もちろん、レギュラーにも何かしらの香料が添加されているが、加熱式タバコのタバコ部のほとんどがメンソールを含む味付け(青地部分)をセールスポイントにしている銘柄だ。(2019年7月末現在、表組作成筆者)

味付けタバコの有害性

 こうした味付けタバコに害はないのだろうか。実は、メンソールを含むタバコに付けられる味付けが、炎症を引き起こしやすくするなど、COPDや心血管疾患といったタバコ関連疾患のリスクをより高くするという研究は多い(※1)。

 メンソール・タバコなどの味付けタバコは、若い世代に対して喫煙行動をうながし、ニコチン依存症にしてタバコを止められなくするという報告もあるが(※2)、タバコ会社もまたメンソールにタバコ依存性を高める作用があることを知っているのだ(※3)。

 カナダや米国などタバコ規制を強める各国は、メンソール・タバコを禁止しようとしているが、フィルターに香料入りのカプセルを入れたり、味付けカプセルを別売りにするなど、タバコ会社のほうも規制逃れに必死だ。ちなみに、上の加熱式タバコの表組にも香料カプセルの製品があり、ブーストなどのネーミングでそれとわかる。

 加熱式タバコを製造販売しているタバコ会社は有害性の低減をアピールしているが、前述したように、味付けタバコの有害性だけを取り出してもその主張に説得力がないことは明白だ。むしろ、こうしたタバコ会社の広告宣伝と味付けタバコのカップリングによって、若年層がタバコに手を出しやすくなるという悪影響は無視できない(※4)。

 そもそもコンビニエンスストアなど、児童らも容易に視認できる場所にタバコのパッケージを陳列したり、レジ横などでタバコのキャンペーンをすることは、FCTC(タバコ規制枠組条約)の条項に照らし合わせれば明らかな条約違法行為だ。目に触れる場所にタバコを陳列することができないように規制している国もあるが、これについて日本は野放しといっていい。

 タバコ・パッケージや商品陳列への対策の1つが、オーストラリアや英国などが導入しているブランド銘を表示しないプレーンパッケージ規制だ。プレーンパッケージ規制では、タバコ会社に対し、タバコのパッケージに健康への警告表示以外、銘柄や会社名などを表示させない。

 当然、タバコ会社は反論するが、こうした規制をすればタバコの売上げを減らし、価格を上昇させる効果があるようだ(※5)。こうした規制でも日本はほとんど何もしていない。

 タバコ会社は、味付けタバコを含む加熱式タバコの投入により、銘柄の種類をさらに多種多様にしてきている。加熱式タバコへの対応で混乱が生じているように、タバコの種類が増えればタバコ規制をする公衆衛生当局の対応も後手後手にまわりかねない。

 加熱式タバコを喫煙習慣、ニコチン依存症へのゲートウェイ、導入口にしようとするタバコ会社の戦術も見え隠れする。コンビニエンスストアにズラりと並べられたパッケージ自体が、タバコ会社の巧妙なマーケティング戦略の一環なのだ。

※1-1:Michael A. Ha, et al., "Menthol Attenuates Respiratory Irritation and Elevates Blood Cotinine in Cigarette Smoke Exposed Mice." PLOS ONE, https://doi.org/10.1371/journal.pone.0117128, 2015

※1-2:Seoung Ju Park, et al., "Menthol cigarette smoking in the COPDGene cohort:Relationship with COPD, comorbidities and CT metrics." Respirology, Vol.20, 108-114, 2015

※1-3:Jessica L. Fetterman, et al., "Flavorings in Tobacco Products Induce Endothelial Cell Dysfunction." Arteriosclerosis, Thrombosis, and Vascular Biology, Vol.38(7), 1607-1615, 2018

※1-4:Gurjot Kaur, et al., "Mechanisms of toxicity and biomarkers of flavoring and flavor enhancing chemicals in emerging tobacco and non-tobacco products." Toxicology Letters, Vol.288, 143-155, 2018

※2-1:Sunday Azagba, et al., "Smoking intensity and intent to continue smoking among menthol and non-menthol adolescent smokers in Canada." Cancer Causes & Control, Vol.25, Issue9, 1093-1099, 2014

※2-2:Andrea C. Villanti, et al., "Menthol cigarettes and the public health standard: a systematic review." BMC Public Health, Vol.17, 2017

※3:Valerie B. Yerger, et al., "Menthol's potential effects on nicotine dependence: a tobacco industry perspective." Tobacco Control, Vol.20, doi.org/10.1136/tc.2010.041970, 2011

※4:Janet Audrain-McGovern, et al., "Initial e-cigarette flavoring and nicotine exposure and e-cigarette uptake among adolescents." Drug and Alcohol Dependence, Vol.202, 149-155, 2019

※5:Magdalena Opazo Breton, et al., "Cigarette brand diversity and price changes during the implementation of plain packaging in the United Kingdom." Addiction, Vol.113, Issue10, 1883-1894, 2018

サイエンスライター、編集者

いしだまさひこ:北海道出身。法政大学経済学部卒業、横浜市立大学大学院医学研究科修士課程修了、医科学修士。近代映画社から独立後、醍醐味エンタープライズ(出版企画制作)設立。紙媒体の商業誌編集長などを経験。日本医学ジャーナリスト協会会員。水中遺物探索学会主宰。サイエンス系の単著に『恐竜大接近』(監修:小畠郁生)『遺伝子・ゲノム最前線』(監修:和田昭允)『ロボット・テクノロジーよ、日本を救え』など、人文系単著に『季節の実用語』『沈船「お宝」伝説』『おんな城主 井伊直虎』など、出版プロデュースに『料理の鉄人』『お化け屋敷で科学する!』『新型タバコの本当のリスク』(著者:田淵貴大)などがある。

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