なぜ「アイコス」のSNSキャンペーンは中止されたのか

写真撮影筆者

 最近、アイコス(IQOS)のオンライン・グローバル・キャンペーンが、ロイター(Reuter)で指摘された記事により中止された(※1)。だが、タバコ産業のステマ広告は、依然としてSNS上などで続いている。日本はより悪質でマスメディアがタバコ会社のお先棒を担ぐことも多い。

遅れている日本のタバコ広告規制

 先日、消費者庁がアイコスを国内販売するフィリップ・モリス・ジャパンに対し、アイコスの値引きキャンペーンの延長を不当として加熱式タバコでは初めて行政処分をした。タバコ各会社による加熱式タバコのシェア争いが激しさを増し、今後もこうした違法行為や広告キャンペーンが続くと考えられる。

 タバコ産業の広告は、タバコ規制を取り決めた国際条約(FCTC第13条2項)で禁じられている。これはCSR的な活動も同じで、街頭の清掃やスポーツ大会などでもタバコ会社のカンムリが付くようなものはタバコのPRにつながりかねない広告宣伝活動とみなされ、条約で禁止されている。FCTCに加盟するタバコ規制の厳しい国は、法的にも国内でタバコ広告を禁止している。

 だが日本には、たばこ事業法に基づいてタバコ産業を所管する財務大臣(財務省)が出した指針(※2)があるだけだ。これはタバコ広告を全面的に禁止すべきという考え方ではなく、実質的にはタバコ会社や業界の自主規制となる。日本もFCTCに加盟しているが、たばこ事業法ではタバコ広告禁止を定めておらず、国内規制の運用に関しては各国の国内法にまかされているからだ。

 日本の財務省も重い腰を上げ、財務大臣の指針を一部改正することにした(※3)。ただ、今回の改正では、タバコパッケージの警告表示面積を30%以上から50%以上へ広げること、加熱式タバコに関する広告を加えること、タバコ看板の掲示場所についての取り決めなどに限られる。

 パッケージにタバコ病などの画像を入れるかどうかは見送られ、引き続き検討するとした。さらに、喫煙マナーの広告やタバコ会社のイメージ向上を目的とした広告などについては個別に判断するとしている。また、違反しても特に罰則はなく、財務大臣が勧告するだけだ。

 タバコ広告を禁止したり制限をしたりする背景には、未成年者の喫煙を防止し、喫煙による健康への悪影響を防止するという目的がある。とりわけ、テレビなどの広告は未成年者へ強く影響するので規制しなければならない。

 だが、日本ではコンビニのレジや街頭の自販機などにタバコ製品が並び、子どもが目に触れる場所で実質的な広告宣伝が横行している。ネットメディアも同様で、ニュースサイトを開けばタバコ会社が新製品を発売するたびに記事が出ていたり、タバコを扱ったアフィリエイト目当てのブログ記事も多い。

 今回の改正では、テレビやラジオ、ウェブサイト(インターネット)などのタバコ広告について、成人のみを対象とすることが技術的に可能でなければ行ってはいけないことになっている。身分証明書を提示させるような成人映画館(今でもあるらしい)ではないのだから、これらメディアで成人だけの視聴に限るのは実質的に不可能だろう。

中止されたアイコスのキャンペーン

 タバコ会社の一部は、ネット上のSNSを使った広告キャンペーンに独自ルールを定めている。例えば、アイコスを製造販売するフィリップ・モリス・インターナショナルは18歳以下を対象にしてソーシャル・メディア・サイト(Social Media Sites、FacebookやTwitterなど)を運用しないことにしており、18歳以下の投稿も認めていない(※4)。また同社には、若い世代に影響力のあるセレブ(インフルエンサー)を使ったり、25歳以下のモデルを使った広告をしないという独自ルールもある。

 ところが、通信会社のロイターが調べたところ、ロシア人の21歳の女性モデルがインスタグラムでアイコスの広告投稿をしていたことが発覚した。この投稿は「#IQOSambassador」というハッシュタグが付き、多くの「イイネ」を集めていたが、同社はロイターからの指摘を受け、謝罪してグローバルで展開していたSNSでのキャンペーンを中止すると発表する(※5)。

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2019年4月頃まで日本のSNS上ではアイコスの広告投稿が横行していた。多くは若い女性インフルエンサーで、アイコスの公式サイトと連動する。彼女たちがフィリップ・モリス・インターナショナル(日本法人はフィリップ・モリス・ジャパン)とどういう契約を結んでいるのか不明だ。また、JTも同様にSNS上で広告活動をしている。インスタグラムで約6万8000人のフォロワーがいる女性モデルは、盛んに「#PloomTECH」などで同製品と一緒の写真をアップしていた。だが、現在は「#Ploomtech_official」ページは存在しない。※SNSより筆者が作成

 この一連の動きに対し、反タバコ運動をしている125の組織や大学、医学会などが、マーク・ザッカーバーグ(Facebook)、アダム・モッセーリ(Instagram)、ジャック・ドーシー(Twitter)、エヴァン・シュピーゲル(Snapchat)といったSNSの創業・経営者に対してタバコ産業のキャンペーンにSNSを利用させないように声明を出した(※6)。

 声明の中では、SNSを使ってタバコ広告規制逃れをしているのは、フィリップ・モリス・インターナショナルだけではないと糾弾している。FacebookやTwitterなどのSNSにはタバコの広告規制ルールはあるが、これらのサービスは利用者にプラットフォームを貸しているだけなので、投稿を粧ったステマ広告に使われる危険性もあると指摘する。

 そのため、投稿コンテンツのポリシーを厳格化し、タバコの商品名をつけたハッシュタグなどを規制対象にし、タバコ会社の広告戦略に利用されないようにしなければならないと強調する。場合によっては、タバコ会社の広告をするアカウントを停止することも考えなければならないというわけだ。

 日本のSNSでは、LINEが若年層でよく使われている。LINEにはアイコス公式LINEアカウント「IQOSSphere」というものがあり、実はLINEはアイコス(フィリップ・モリス・ジャパン)と業務提携するなど密接に結びついている。

 タバコ広告の規制は、未成年者の喫煙を防止することも大きな目的の一つだ。若年層の利用者の多いLINEとアイコスの関係はかなり問題だろう。

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タバコ会社のインフルエンサーを利用したSNS広告に対し、各創業・経営者へ声明を出した組織の一つ、Tobacco Free KidsのTwitter。インフルエンサーを利用した電子タバコを含むタバコ製品のプロモーション活動を終わらせるよう求めている。※@TobaccoFreeKidsより

※1:Chris Kirkham, "Exclusive: Philip Morris suspends social media campaign after Reuters exposes young 'influencers'." reuters, May, 11, 2019

※2:財務省告示第109号「製造たばこに係る広告を行う際の指針」2004(平成16)年3月8日

※3:財務省「製造たばこに係る広告を行う際の指針の一部改正案

※4:Philip Morris International, "Social Media Rules of Engagement."

※5:Jacek Olczak, May 10, 2019(2019/06/24アクセス)

※6:"Dear Mr. Mark Zuckerberg, Mr. Adam Mosseri, Mr. Jack Dorsey, and Mr. Evan Spiegel:"May 17, 2019