全国発売された「プルーム・テック・プラス」について考える

 JT(日本たばこ産業)は、加熱式タバコのプルーム・テック・プラス(Ploom TECH+)が全国のコンビニで買えると発表した。加熱式タバコ市場は依然としてアイコス(IQOS)が強いが、各社ともにシェアを奪おうと躍起だ。この記事ではJTの戦略と新型プルーム・テックについて考えてみる。

プルーム・テック・プラスのベースになった特許?

 先日、米国のFDA(食品医薬品局)がアイコスの販売を認めたが、特にタバコの健康被害を懸念する喫煙者の多い先進諸国で電子タバコや加熱式タバコなどの新型タバコが出現し、タバコ会社は紙巻きタバコの喫煙者を取り込もうとし始めた。つまり、タバコ会社は喫煙者が禁煙してしまうのを食い止め、新型タバコへ移行させようとしているわけだ。

 タバコ製品にはニコチンが含まれている(※1)。ニコチンには強い依存性があり、喫煙者が毎日欠かさずタバコを買う理由にもなっている。

 こうした喫煙者の行動によって、タバコ会社の経営が成り立っているといっていい。つまり、タバコ会社にとってニコチンは、その存在を左右する依存性薬物ということになる。

 タバコ葉を燃焼させたり加熱したりすると、体内にニコチンを吸収しやすくなることが知られているが、加熱式タバコは燃焼ではなくタバコ葉を加熱、または加熱された蒸気をタバコ葉に通過させることで使用する。

 例えば、アイコスはタバコ葉を金属ブレードで内側から加熱し、グローは周囲から加熱させる。一方、プルーム・テックとプルーム・テック・プラスはリキッドを加熱し、そこから出た蒸気を吸い込む過程でタバコ葉を詰めたカプセルに温度の高い蒸気を通過させ、蒸気と一緒にタバコ葉に含まれるニコチンや添加された物質などを吸い込むような仕組みになっている(※2)。

 自分はタバコを吸わないある投資家は、原価が非常に安く、膨大な利益を安定かつ長期的に見込めるタバコ製品を絶賛した。タバコ会社は、新型タバコに入っているニコチンにより喫煙者の依存状態を続けさせ、タバコ関連疾患にかかったり受動喫煙のリスクを上げつつ、うま味のある商売をずっと継続したいと考えている。

 JTも例外ではない。アイコスに大きく出遅れた感があるが、日本でプルーム(プルーム・テックの前身)を発売したのはアイコスより同社のほうが早い。このプルームという名前は、米国でJT(JTI)が投資した電子タバコの開発ベンチャーPloomから取られた。

 中国人が開発した現在のタイプの電子タバコが登場したのは2003年のことだ。現在、米国では米国のサンフランシスコに拠点を置くPAX Labsという電子タバコ会社が発売するJUULが70%以上のシェアを占めている。

 このPAX Labsこそ、2011年にJTが投資し、2015年にJTI(日本たばこ産業インターナショナル)がPloomの商標を含む知財を買収したベンチャー企業だ。

 PAX Labs(旧Ploom)を創業したのは米国のスタンフォード大学の同級生だった2人の男性(James Monsees、Adam Bowen)だが、彼らは2013年に電子タバコに関するパテントを取得した。「Low Temperature Electronic Vaporization Device and Methods(低温の電子蒸気デバイスと方法)」というもので、現在のプルーム・テックの技術そのものだ。

 その後、旧PloomはJTIから別れてPAX Labsになった。そして現在、米国や欧米、韓国などで若い世代を中心に喫煙者を激増させているJUULを製造販売したというわけだ。

 ある意味で、JTのプルーム・テックは旧Ploom社の技術を使ったものといえるだろう。例えば、プルーム・テック・プラスには、PAX Labs(旧Ploom)の創業者が持っていたパテントや技術が反映されている可能性がある。おそらく、このパテントは2015年に買収した知財の中に含まれていると考えられる。

画像

旧Ploomの創業者らによる特許製品。説明書きには、約2ミクロンより大きなタバコ葉を入れたカートリッジを使えるとある。中央の丸いLEDスイッチのような部分などはプルーム・テック・プラスとそっくりだ。Via:James MonseesとAdam Bowenらが取得した米国特許US2013/0312742A1

たばこ事業法に守られたJT

 JTのプルーム・テックには、製品の健康への有害性に関する情報がまだ少ない。アイコスの場合は、タバコ会社からだけではない研究結果が少しずつ得られるようになってきているが、世界各国で発売されているアイコスに比べ、市場が日本だけのプルーム・テック・シリーズについての研究はほとんどないからだ。

 ただ、電子タバコの有害性について、これまで多くの研究論文が出ている。仮に、プルーム・テックとプルーム・テック・プラスが、電子タバコであるJUULのプロトタイプ改良版とすれば、電子タバコに関する研究がその有害性についても利用できるだろう。

 例えば、電子タバコのリキッドに含まれているプロピレングリコール(Propyleneglycol)、グリセリン(Glycerin)を加熱すると、強い毒性を持つホルムアルデヒド(formaldehyde)、アセトン(acetone)、発がん性があるとされるアセトアルデヒド(acetaldehyde)といったカルボニル化合物(Carbonyl Compound)が発生することが知られている(※3)。

 JTによれば、プルーム・テックの専用たばこカートリッジには、プロピレングリコール、グリセリン、香料、水が入っているようだ。

 また、電子タバコが発生させる微粒子が肺の細胞の奥深くへ到達し、免疫系に影響を与える危険性があるという研究(※4)や電子タバコのエアロゾル(ベイパー)がDNAの損傷を誘発し、DNAの修復を阻害するという研究もある(※5)。電子タバコでは、特に肺の奥へ入り込むPM0.5以下というナノサイズの超微小粒子(0.1マイクロメートル以下、Ultra-fine particles、UFP)が多く発生することもわかっている(※6)。

 プルーム・テック・シリーズに限らず、タバコ会社は加熱式タバコが紙巻きタバコに比べて害が低減されていることをPRしているが、害がなくなっているわけでもないし、害の低減が健康被害を低減させることもない。

 新型タバコからは、これまでの紙巻きタバコの研究でわかっている以外の新しい物質が発生する。これらの物質から未確認の健康被害が出る危険性も高いが、タバコ会社は従来の毒性基準物質のごく一部だけを切り取って紙巻きタバコと比較し、有害性物質の低減をアピールしている。

画像

プルーム・テック・プラスのスターターキット(上)と専用たばこカプセル(中下)。従来のプルーム・テックのたばこカプセル(右の円囲み)、プロピレングリコールやグリセリンなどが入っているカートリッジとの互換性はない。充電や部品の清掃の煩わしさもある上、部品点数5点という複雑なシステムに喫煙者は面倒くさくならないのだろうか。写真撮影筆者

 ちなみに、JTの子会社である鳥居薬品株式会社は、2019年5月31日にいわゆる早期退職制度を締め切った。応募人数は281人とのことで、これにより同社の社員数は400人減り、病院など医薬業界への営業職である医薬情報担当者(MR)も約200人減らし、300人体制に移行する。

 JTが4月に発表した2019年の第1四半期の決算によれば、その営業利益のほとんどはタバコを売ることで得ている。特に海外でのタバコ事業の営業利益は約2/3、国内の倍以上の売上げとなっており、JTがすでにグローバル企業になっていることがわかる。

画像

2019年第1四半期の決算発表より、JTの各事業の内訳を見た。このグラフは調整後の営業利益(単位は約、億円)で、割合でいうと海外たばこ事業は約66%、国内たばこ事業は約31%、医薬事業は約3%、加工食品事業は数字が出ない約0%となる。JTという企業がいかにタバコに依存しているのかわかるだろう。Via:JT、2019年度の決算通信1-3月期

 JTはこのように国内での企業活動から徐々に撤退し、競合タバコ会社に対抗できる国際的な体制作りに邁進している。だが、加熱式タバコの研究開発では他社の後塵を拝し、日本でしか売られていないのにもかかわらず、プルーム・テックは他社製品よりシェアが少ない。

 たばこ事業法という法律のある日本は、国を挙げてJTや国内のタバコ産業を守っている。だが、研究開発で他社に後れを取り、国内シェアを奪われ、国内雇用を切り捨てるようなJTにこれは果たして必要な法律だろうか。日本政府(財務大臣)は保有するJT株式(33.35%)を早く売り払って、売却益をもっと他の有益なことに使ったほうがいい。

※1:日本の薬機法(医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律、旧・薬事法)では、ニコチンを含むカートリッジは医薬品であり、ニコチンを蒸気化させる装置は医療機器とされる。このため、ニコチンを添加したリキッドを使う電子タバコは実質的に国内で販売できない

※2:同じく新型のプルーム・テックSはアイコスやグローと同じ高温加熱型

※3:Leon Kosmider, et al., "Carbonyl Compounds in Electronic Cigarette Vapors: Effects of Nicotine Solvent and Battery Output Voltage." Nicotine & Tobacco Research, Vol.16(10), 1319-1326, 2014

※4:Aaron Scott, et al., "Pro-inflammatory effects of e-cigarette vapour condensate on human alveolar macrophages." BMJ Thorax, doi.org/10.1136/thoraxjnl-2018-211663, 2018

※5:Lurdes Queimado, et al., "Electronic cigarette aerosols induce DNA damage and reduce DNA repair: Consistency across species." PNAS, doi/10.1073/pnas.1807411115, 2018

※6:Karena D. Volesky, et al., "The influence of three e-cigarette models on indoor fine and ultrafine particulate matter concentrations under real-world conditions." Environmental Pollution, doi.org/10.1016/j.envpol.2018.08.069, 2018