「加熱式タバコ」が原因か~悩む「化学物質過敏症」患者らに話を聞いた

(写真:ロイター/アフロ)

 加熱式タバコの「煙害」に悩まされる人が増えている。実際、被害に遭っている人の話をよく耳にするようになってきた。化学物質過敏症の一種と考えられるが、因果関係を証明することが難しいため、多くの患者が戸惑っている。そこで、アイコス(IQOS)など加熱式タバコによる受動喫煙の健康被害について考えてみた。

加熱式タバコによる健康被害とは

 喘息や気管支炎のような呼吸困難、皮膚炎、頭痛、めまい、不安障害、腹痛といった症状が出て、原因もアレルゲンも特定できず、心療内科での治療も効果が期待できないといった患者がいる。これらの患者は化学物質に過敏に反応する化学物質過敏症という病気かもしれない。

 我々の周囲は多種多様な化学物質にあふれている。住環境から出るホルムアルデヒド、化粧品や洗顔洗髪剤、タバコ煙といった化学物質による化学物質過敏症に悩む人は、潜在的な患者を含めれば少なくとも70~100万人存在すると推定されている(※1)。

 化学物質過敏症は、ごく微量の化学物質でさえ発症するため、それによる健康影響を適正に評価できるよう説明がなされる必要がある。だが、環境中に存在するごく微量の化学物質による健康被害について、病態や発症メカニズムはまだよくわかっていない。治療機関や専門家も少なく、医師など医療関係者を含む家族や周囲の無理解に傷つき、心ない言葉を浴びせられて悩む患者も少なくないのが現状だ。

 最近、加熱式タバコの喫煙者が増えてきているが、紙巻きタバコに含まれる化学物質による化学物質過敏症の事例は多かった。では、加熱式タバコはどうだろう。加熱式タバコによる受動喫煙の害は確かにあるようだ。

 インターネット調査を使い、17~71歳の日本人男女を対象とした調査研究(※2)によれば、調査対象の8240人のうち977人(約12%)が他人の加熱式タバコの煙を吸ったことがあったと回答した。「それによる症状(喉の痛みや気分不良など)があったかどうか」についての質問項目では、977人のうち20.6%が喉の痛みを、22.3%が目の痛みを、25.1%の者は気分の悪さを、13.4%が身体の異常をそれぞれ訴えた。

 加熱式タバコの煙、喫煙者の呼出煙などを吸ったことがあると回答した人のうち、37%にいずれかの症状が認められた。特に10~30代の若い世代でこうした症状が多く、男性より女性でいずれかの症状を訴える人が多い傾向にあることがわかったという。もちろん、調査対象者は化学物質過敏症の患者とは限らない。

 また、症状も一過性でそれほど被害が深刻な事例ではないと考えられる。だが、このように加熱式タバコの影響を受ける人の中には、化学物質過敏症に苦しむ患者がいて、筆者はそのうちの何人かに取材させてもらった。

 飯島未知了(51歳)さんは、東京都中央区で「京橋屋カレー」というカレー店を営んでいる。2006年5月の開店以来、来客も受け入れる禁煙店にしていたが、数年前から化学物質過敏症の症状が悪化した。

 やがて、タバコ煙を身にまとった客の三次受動喫煙の被害に耐えきれず、2018年4月に会員制に変えたが症状は治まらない。そして2019年4月にとうとうテイクアウト専門にせざるを得なくなったという。

飯島さん「会員制に変えた頃までは紙巻きタバコと加熱式タバコの受動喫煙による症状だけだったんですが、最近になって芳香剤や柔軟剤などの物質にも反応して症状が出てきてしまったからです。最初は紙巻きタバコの有害物質によるものでした。徐々に反応する物質が増え、電子タバコ、最近多い加熱式タバコの物質に強く反応し、首筋や頬などの皮膚に痛みを感じ、頭痛や喉、手の痛みが起きて実際に首筋が紅く腫れ上がることもあります。私の実感では、加熱式タバコに特に有害な物質が含まれているのではないかと思っているんです」

 飯島さんは奥さんと二人で店を切り盛りしているが、外で吸った直後にタバコ煙を身につけて来店する喫煙者やタバコを吸わない人でも喫煙者が周囲に多くいる場合、三次受動喫煙で衣服にタバコ煙がついたままの来客に苦慮してきた。奥さんが来店した客一人ひとりに店の前で確認し、タバコの臭いのする客を断ってきたという。

飯島さん「それでも紛れ込む喫煙者の対応に困って仕方なく会員制にしたんです。しかし、長いおつきあいの常連客がタバコを吸わないと嘘をついていたことが発覚したり、来店時やSNSなどに暴言を吐かれたりしたこともあり、家内の心労もかなり酷いものということに私自身が気付いてテイクアウト専門にしました。化学物質過敏症の反応物質は次第に範囲を広げるようで、必ずしも花粉が原因ではない花粉症の発症に似ています。最近では柔軟剤や芳香剤、香水などにも反応し、タバコ煙と同じような症状が出るようになってしまいました」

グー・チョキ・パーの信号とは

 化学物質過敏症は、物質に対する既存の中毒症状との違いや共通点、原因物質と症状との因果関係、どんな環境でどの程度の物質で発症するのかという病態、個人差はどうかなど解明すべきことは少なくない。化学物質過敏症という病態は、微量中毒、アレルギー反応、心因性の原因、これらの複合、遺伝的な個人差などがある。原因物質についても既知のもの、新規化合物、粒子の大きさ、生成過程と成分などの分析が重要だ。

 飯島さんも都内の化学物質過敏症を専門に治療する医療施設を受診し、タバコ不耐症と診断された。その説明によれば、極めて微量のタバコ臭に反応して体調が著しく不良となるため、関係者の配慮が望まれることになっている。

飯島さん「お医者さんからはとにかく反応物質から逃げることが大事だといわれました。しかし、山の中へ逃げるのではなく、日常生活を送る中でタバコ煙などを避ける行動をとることを勧められたんです。日常生活を送るよう努力することが大切ということでしょう。道を歩いていても喫煙所は避けますし、歩きタバコをしている人を発見したら遠回りすることもあります。しかし、加熱式タバコはパッと見ではわからないことも多いので、家内が先導して私にグー・チョキ・パーの合図をすることもあるんです」

 チョキは指で挟む紙巻きタバコを、パーは大丈夫、喫煙者はいないという意味だ。そして、グーはアイコスなどを握って喫煙する加熱式タバコの喫煙者の存在を意味する。飯島さんのような患者がいることを加熱式タバコの喫煙者、そしてタバコ会社は知っているのだろうか。

 受動喫煙については改正健康増進法で規制がなされるようになってきたが、街中には依然としてタバコ煙が立ち昇り通行者がタバコ煙にさらされる喫煙所もある。特に、最近になって多く見かけるようになってきた加熱式タバコ(アイコス、グロー=glo、プルーム・テック=Ploom TECH、パルズ=PULZE)は煙が目立たず(全く出ていないわけではない)ステルス性が高いため、紙巻きタバコのタバコ煙なら遠目に察知して避けることができる化学物質過敏症の患者も、いきなり呼出煙を浴びせかけられて症状が出てしまう。

症状との明らかな関係

 タバコ会社がアピールする加熱式タバコの有害成分低減は明らかに嘘と指摘するのは、同じく加熱式タバコによる化学物質過敏症に悩む都内のサラリーマンYさん(30代、男性)だ。Yさんが加熱式タバコの影響で喘息の症状が出るなど、体調を崩し始めたのは2017年10月頃という。

Yさん「もともと飲み会などで喫煙者からのタバコ煙で痰が出るということはありましたが、特におかしな症状が出ることはありませんでした。しかし、会社で向かいの席にいる同僚がアイコスを吸うようになってから体調が悪くなったんです。彼が喫煙所から帰ってきて私のそばを通るたびに舌が痺れ、胸が苦しくなり、上顎がただれ、めまいといった症状が出るようになりました。そして、2018年1月頃には喘息になってしまい、医療機関を受診したところ気管支喘息と診断されました。彼が出張でいないときには症状が軽くなりますし、同室の離れた場所にいる加熱式タバコの喫煙者がそばを通っても同じ症状が出ます。加熱式タバコと私の症状の因果関係は確かだと思います」

 現在、加熱式タバコはつい最近出たものを含め、4社からバージョン違いを合わせると10種類ほどが出ている。Yさんは加熱式タバコと自身の症状の関係を調べるため、同僚の喫煙銘柄を調べたという。その結果、1フロアに10人の加熱式タバコ喫煙者がいて、その中の8人がアイコス、グローとプルーム・テックがそれぞれ1人ずつだった。

Yさん「私の場合、紙巻きタバコより加熱式タバコのほうが、何倍も症状が悪くなります。また、加熱式タバコは種類によって出る症状が違います。アイコスは口の中がピリピリ刺激され、舌の感覚がなくなり、呼吸が苦しくなる感じです。プルーム・テックでは気分が悪くなり、息苦しくなります。グローも気分が悪くなります。私は専門家でも研究者でもありませんが、加熱式タバコは紙巻きタバコに比べて特に呼気に有害物質が長く残っているのではないかとも考えています。なぜなら、加熱式タバコを吸ってから2時間経った後の喫煙者と会話していても同じ症状が出るからで、紙巻きタバコの喫煙者との会話ではこのようなことはないからです。また、加熱式タバコの喫煙者が呼出する有害物質は、紙巻きタバコよりも遠くへ拡散しているように感じます。直線的にスピードを上げて飛んでくるような感じがするんです」

 加熱式タバコでは、タバコ会社が有害性の低減をしきりにアピールする。紙巻きタバコに比べれば有害物質は少なくなっているかもしれないが、そもそも紙巻きタバコから出る有害物質は環境省の基準では即座に使用禁止が言い渡されるレベルで、環境基準の数千倍の量といわれている。

 例えば、紙巻きタバコ1本の副流煙には約300μgのベンゼンが含まれているが(※3)、環境省の大気汚染基準によればベンゼンの1年の平均値は3μg/立方メートル以下であり、タバコ1本吸っただけでその部屋の1立法メートルが基準値の100倍に汚染されることになる。タバコ会社がいうように加熱式タバコの有害性が1/10(90%減)になっていたとしても、環境基準で定めるベンゼンの有害性を全く下回ってはいない。

 そもそもタバコ煙による健康被害に明確な閾値、つまりこれくらいなら大丈夫という安全域はない。喫煙本数と虚血性心疾患の関係を調べた研究では、1日20本を1日5本の1/4に減らしてもリスクは約17%しか減らず、受動喫煙では1日0.2本換算となり、虚血性心疾患のリスクは吸わない人に比べて受動喫煙の被害者で30%も多くなることがわかっている(※4)。つまり、加熱式タバコで有害性が低減されていたとしても無害になるわけでもなく、タバコを吸わないことに比べれば健康への有害性は格段に高くなるというわけだ。

まだ調査研究は少ない

 タバコの有害性を研究している専門家を含め、加熱式タバコから出る化学物質による受動喫煙と化学物質過敏症との関連はまだはっきりとわからない、という。なぜなら、加熱式タバコからは多種多様な化学物質が出ていて、複合的な影響によるものが考えられ、その組み合わせはかなり複雑になるからだ。

 北里大学北里研究所病院の呼吸器内科医でもあり、北里大学薬学部で生体制御学を教えている鈴木幸男教授は、まだ加熱式タバコと化学物質過敏症の関係については確固たる論文も少ない、という。ただ、加熱式タバコのタバコ煙からはホルムアルデヒドやアセトアルデヒドなど、数多くの化学物質が確認されているので、化学物質過敏症の患者が感じる化学物質が含まれている可能性はあると指摘する。

 専門家の中には、加熱式タバコによる影響はニコチンに対する反応で調べてみるのがいいのではという意見もある。症状を引き起こす化学物質は多岐にわたるが、ニコチンだけはタバコ製品からしか出ないからだ。

 都内在住のMさん(60代、男性)は医師でもあり、バイオ系の研究者でもあるが、自宅へ侵入してくる近隣喫煙者のタバコ煙に悩まされている。深夜を過ぎたあたりから帰宅した近隣住人がタバコを吸い、息苦しさ、耳鳴り、頭痛、めまい、悪夢などにより極度の体調不良と睡眠障害を毎晩のように引き起こすという。Mさんは自身の症状からニコチンへ反応する症状なのではないかと推測している。

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深夜の有害物質流入と症状の説明図。空気清浄機のインジケーターが反応すると症状が悪化する様子がわかる。図提供:M医師

 化学工場の労働者が化学物質に触れ、健康被害を引き起こすことは従来から知られてきたが、住環境や生活環境の変化で建材や内装材、洗剤、芳香剤などによる化学物質に一般市民もさらされている。労働災害としては「多種化学物質過敏状態(Multiple Chemical Sensitivity、MCS)」となるが、日常生活ではいわゆる「シックハウス症候群(ビル関連疾患、Building Association Diseases)」として、個々人の病態を表す名称としての「化学物質過敏症(Chemical Sensitivity、CS)」に多くの患者が苦しむようになってきてもいる。

 日本では建築基準法によりホルムアルデヒドの測定が義務づけられ、教育現場でも室内の化学物質濃度に基準が設けられている。受動喫煙によるタバコ煙も化学物質過敏症の発症に関し、重要な原因になっている。

 そして、前述した患者らの話によれば、アイコスなど加熱式タバコ(電子式加熱タバコ)によっても化学物質過敏症が生じるのは明らかなようだ。加熱式タバコからニコチンを含む既存の紙巻きタバコとは異なった未知の化学物質が発生し、それらが複合的に作用しているのではないだろうか。

 筆者は都内で毎月1回開かれるタバコ問題の会合へ出席しているが、そこへは近隣のベランダ喫煙などの受動喫煙に悩む相談者が毎回平均2~3人は新規に参加する。加熱式タバコによる被害を訴える人も増えてきており、加熱式タバコの喫煙者の増加とリンクしているようだ。

 また、いわゆる「香害」に苦しむ患者救済に取り組んでいる日本消費者連盟によれば、加熱式タバコを吸う友人宅で化学物質過敏症を発症した例などがあるという。こうした患者は、とにかく加熱式タバコの喫煙者に会わないようすにすることが自衛手段だ。同連盟も、患者個々人によって発症する状況が異なるため、まだ加熱式タバコと化学物質過敏症のはっきりした因果関係がわかっているわけではないと付け加えた。

 日本の加熱式タバコ市場へ最近参入したインペリアル・タバコ・ジャパンを除くフィリップ・モリス・ジャパン、日本たばこ産業、ブリティッシュ・アメリカン・タバコ・ジャパンの3社に加熱式タバコの健康被害、特に化学物質過敏症の患者について質問したところ、フィリップ・モリス・ジャパンと日本たばこ産業から回答を得た。

 アイコスを製造販売するフィリップ・モリス・ジャパンは、アイコス使用による周囲への影響について「IQOSは、たばこを燃やさず加熱するので、紙巻たばこに比べて明らかにたばこのニオイが少なくなっています。また、使っていないときに煙は出ませんし、吐き出されたたばこベイパーもすぐに消えるため、紙巻たばこの副流煙(使っていないときに出る煙)に比べて周りの人に不快な思いをさせにくくなっています。加熱式たばこの使用による周りの方への影響については、2018年4月発表の当社研究「IQOSエアロゾル受動曝露試験結果」によると、現在存在する検出方法で測定可能な限り、ニコチンとたばこ特異的ニトロソアミン(発がん性物質として知られる)の周りの方への悪影響は認められませんでした。ただし、IQOSはたばこ製品ですので、IQOSを使用する場合は、周りの方への配慮を忘れないことが重要と考えています」とのことだった。

 また、日本たばこ産業は、化学物質過敏症を発症させる物質について「化学物質過敏症は『特定の化学物質に接触し続けていると、のちに僅かなその物質に接触するだけで、体調異常となる状態』といわれています。しかしながら、同じ環境にいても発症する人としない人がいるなど、その症状や発症については未解明な部分が多いとされております。発症に関与する要因として、化学薬品、有機溶剤、貴金属、排気ガス、医薬品、たばこの煙などの様々なものが挙げられておりますが、これらの要因がどのようにこの疾病に関係しているかについては、未だ明らかにされておりません。そのため、今後、より一層の研究が必要であると考えています」と回答した。

 そして日本たばこ産業は続けて「なお、環境中に漂うたばこの煙は、周囲の方々、特にたばこを吸われない方々にとっては迷惑なものとなることがあり、弊社では、周囲の方々への気配りを示していただけるよう、たばこを吸われる方々にお願いしています。特に、子供やお年寄りなど環境中の物質による刺激に対して、敏感である方々の周りでの喫煙にも特段の配慮が必要であり、このような方々の周りでの喫煙は控えることを勧めております。また、たばこを吸われない方や煙を好まない方のために、公共の場所や室内における適切な分煙等の環境改善について、積極的な取り組みを継続して実施しております」と付け加えている。

 フィリップ・モリス・ジャパンは限定的な検出方法としつつ、アイコスから出るタバコ由来の有害物質についての悪影響は否定した。また、どちらも加熱式タバコの健康被害については、喫煙者に対して周囲への配慮を要請する形になっていて自社製品の製造物責任については述べていない。

 だが、加熱式タバコによる影響で化学物質過敏症を発症したと考えられる患者は確かに存在する。そして、加熱式タバコには受動喫煙の害もあるのだ。こうした被害が拡大しないよう、公衆衛生当局は早急に対処する必要があるのではないだろうか。

※1:内山巌雄、「化学物質過敏症の実態調査」、アレルギー、第51巻、805-808、2002

※2:Takahiro Tabuchi, et al., "Heat-not-burn tobacco product use in Japan: its prevalence, predictors and perceived symptoms from exposure to secondhand heat-not-burn tobacco aerosol." Tobacco Control, Vol.27, Issue e1, 2018

※3:稲葉洋平、内山茂久、「喫煙と室内環境」、空衛、2012年3月号

※4:Terry Pechacek, "How acute and reversible are the cardiovascular risks of secondhand smoke?" the BMJ, Vol.328, 2004