ネアンデルタール人の「共食い」が我々に伝えること

(写真:ロイター/アフロ)

 ネアンデルタール人(Homo[sapiens]neanderthalensis)は、我々と近縁のホモ(ヒト)属だ。彼らはすでに絶滅しているが、その理由や時期については諸説ある。今回、ネアンデルタール人が互いに食い合っていた、つまり共食いした証拠から彼らが暮らしていた当時の気候変動の様子がわかってきたという論文が出た。

間氷期に大きな環境変化が

 ネアンデルタール人の遺伝子が現代の我々にも受け継がれているという研究結果(※1)があるように我々とごく近い種族だが、人類が文明社会を作って生き残っているのに、なぜ彼らは絶滅してしまったのだろうか。絶滅した時期にも諸説あり、約4万年前(※2)から2万8000年前(※3)まで幅がある。

 ネアンデルタール人がいつ絶滅したか、その時期は重要だ。絶滅した理由としてクロマニヨン人や人類との競合や交雑によるという仮説や気温や気候など環境変化による影響が大きいなどという仮説があり、クロマニヨン人や人類がネアンデルタール人と一緒になった時期や地域、環境変化の記録などが絶滅の時期と関係してくる。

 彼らがどのような生活を送り、どのような考え方で集団をまとめ、狩りをし、生きていたのかを知ることで絶滅した理由がわかるかもしれない。また、人類と従兄弟のような存在であるネアンデルタール人は、我々に多くの示唆を与えてくれるはずだ。

 今回、フランスのリヨン大学リヨン地質学研究所などの研究グループが、現在の前の間氷期(氷河期の間で比較的温かな時期)である約12万8000年~11万4000年前に西ヨーロッパに暮らしていたネアンデルタール人が共食いをしていたことから、当時の環境が激変し、彼らは極度の栄養不足の状態になっていたのではないかという論文を発表した(※4)。

 MIS(Marine Isotope Stage、※5)5eと呼ばれるこの時代は、氷河期の中で寒冷な氷期後の間氷期で、現在よりも平均気温が約2℃ほど高く、海面も20世紀のレベルより6~9メートル高かったと考えられている。当然、こうした環境変化は生態系や地形に影響を与えるが、寒冷な氷期に適応してきたネアンデルタール人は、地球が温暖化してからも生き延びなければならなかった。

 ところで、これまでのネアンデルタール人の遺骨を調べた研究から、西ヨーロッパの複数の発掘場所で彼らが共食いをしていた証拠が出てきている(※6)。食べるために殺したのか、死んだ後の遺体を食べたのかは大きな違いだが、いずれにしても彼らは共食いをしていた。

 古い遺骨の状態から、共食いかどうかを評価することは難しい。埋葬時の痕跡、闘争による負傷、他の肉食獣の食害などを排除しなければならないからだ。

 フランス南東部にあるボーメ・モーラ・ゲルシー(Baume Moula-Guercy)は、この当時(MIS 5e)のネアンデルタール人の遺跡として知られる。最近の調査により、ネアンデルタール人の遺骨や食べていた遺物などが発掘され、この発掘サイトの様子が詳しくわかってきた。

高エネルギー消費型だったネアンデルタール人

 リヨン大学などの研究グループは、このボーメ・モーラ・ゲルシーでネアンデルタール人が明らかに共食いしていた証拠を発見したという。120人分の遺骨の中で、2人の成人、2人の青少年、2人の子どもに共食いの痕跡が発見された。

 例えば、石器などによる意図的な骨の切断、骨格が共食い前に無傷だったこと、咀嚼された痕跡、解剖学的に無関係な骨の分断などだ。そして、これらの遺骨は他の動物の骨と同じ場所で発見されたこと、同時代のこの地域でネアンデルタール人の埋葬事例が発見されていないことなどから、犠牲者は埋葬されたのではなく、同じネアンデルタール人に食べられた可能性が高いという。

 研究グループは、当時の生態系や動物相、ネアンデルタール人の食性などから、間氷期の気候変動によりボーメ・モーラ・ゲルシー周辺地域の環境が大きく変わったと考えている。それまでの開けた草原が落葉樹林の森林に変わり、彼らの獲物はマンモスなどの大型の草食動物から密度の低い中型の有蹄類が中心になっていった。

 また、ネアンデルタール人は極端な肉食になり、高タンパク依存の体質だったという。活動したり食事をしたりする身体活動のエネルギーの1日当たりの消費量はネアンデルタール人の男性で3500~5000Kcalと考えられ、日本人成人男性の基礎代謝量1500Kcal前後+身体活動エネルギー数百Kcalに比べるとかなり多い。

 狩りが難しく数がまばらな中型有蹄類中心の落葉樹林の生態系では、彼らの必要エネルギーを十分に補えなかったのではないかと研究グループは考えている。発掘サイトの調査では、シカなどの骨より、共食いをした遺骨のほうがむしろ多いことも示唆されるようだ。

 この発掘サイトのネアンデルタール人の遺骨は、歯のエナメル質が悪く不健康な状態だったが、これも栄養失調や飢餓の影響と考えられる。もちろん、この研究の対象期間は12万年~11万年ほど前であり、その後もネアンデルタール人は絶滅まで数万年を生き延びたことがわかっているが、こうした環境変化はネアンデルタール人の人口を著しく減らし、その結果、遺伝的な悪影響も生じさせたかもしれない。

 ボーメ・モーラ・ゲルシーの共食いの犠牲者は未成年者が多い(4人/6人)。当時は若くして死ぬことが多かったので殺して食べたのではなかったかもしれず、共食いがあったとしても、それは気まぐれに起きた短期間の偶発的なものだった可能性もあると研究グループはいう。

 何も共食いはネアンデルタール人に限った行為ではない。我々人類にも食人(共食い)の習慣のある集団もいるし、極限状態での食人事件も多く記録されている。ネアンデルタール人が、他のホモ・サピエンス、例えば我々人類の祖先に食べられていたかもしれないという説もあるのだ(※7)。

 現在は氷河期の中でも温暖な間氷期とされているが、地球は人類の活動で急激に温暖化しつつある。その結果、激しい気候変動が起き、環境は大きく変化している。ネアンデルタール人の共食いは、我々に対する警告なのかもしれない。

※1:Richard E. Green, et al., "A Draft Sequence of the Neanderthal Genome." Science, Vol.328, No.5979, 710-722, 2010

※2:Tom Higham, et al., "The timing and spatiotemporal patterning of Neanderthal disappearance." nature, Vol.512, 306-309, 2014

※3:Clive Finlayson, et al., "Late survival of Neanderthals at the southernmost extreme of Europe." nature, Vol.443, 850-853, 2006

※4:Alban R. Defleur, et al., "Impact of the last interglacial climate change on ecosystems and Neanderthals behavior at Braume Moula-Guercy, Ardeche, France." Journal of Archaeological Science, Vol.104, 114-124, 2019

※5:L. Bruce Railsback, et al., "An optimized scheme of lettered marine isotope subpages for the last 1.0 million years, and the climatostratigraphic nature of isotope stages and substages." Quaternary Science Reviews, Vol.111, 94-106, 2015

※6-1:Ann Gibbons, "Archaeologists Rediscover Cannibals." Science, Vol.277, 635-637, 1997

※6-2:Elizabeth Culotta, "Neanderthal Were Cannibals, Bone Show." Science, Vol.286, 18-19, 1999

※7:Fernando V. Ramirez Rozzi, et al., "Cutmarked human remains bearing Neanderthal features and modern human remains associated with the Aurignacian at Les Rois." Journal of Anthropological Sciences, Vol.87, 153-185, 2009