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さらに混乱を招く「加熱式たばこ専用喫煙室」の標識とは

石田雅彦科学ジャーナリスト、編集者
厚生労働省「『健康増進法の一部を改正する法律』の施行について(受動喫煙対策)

 受動喫煙防止対策を入れた改正健康増進法は、すでに2019年1月22日にその一部が施行されている。さらに2月22日には、厚生労働省から新たに政令が出され(※1)、法律を実行する関係機関への周知徹底が示された。その中に、喫煙場所、喫煙可能な専用室などに関する細則があり、飲食店などでの喫煙室標識の事例が紹介されている。

喫煙者には受動喫煙を防ぐ義務がある

 改正健康増進法は、すでに一部が施行され、第25条の3第1項「喫煙をする際の配慮義務に関する事項」に法的な効力が生じている。

 この条文には「喫煙をする者は、喫煙をする際は望まない受動喫煙を生じさせることがないよう周囲の状況に配慮しなければならない」とあり、具体的には「できるだけ周囲に人がいない場所で喫煙をするよう配慮すること、子どもや患者等特に配慮が必要な人が集まる場所や近くにいる場所等では特に喫煙を控えること等」を配慮義務として求めている。

 ようするに、これからは喫煙者はどこでタバコを吸おうが、タバコを吸わない人に対して受動喫煙が起きないようにしなければならないというわけだ。配慮義務とはいえ、国の法律にはっきりと明記されているので、近隣や路上喫煙者からのタバコ煙に悩んでいる人にとって朗報だろう。

 ところで、2月22日の政令には別添3として「喫煙専用室標識等の標識例(一覧)」があり、喫煙専用室標識、指定たばこ(加熱式たばこ)のみの喫煙の場合に掲示しなければならない指定たばこ専用喫煙室標識などの例が示されている(これ、政令でも「喫煙専用室」と「専用喫煙室」の揺れがあるので、紙巻きタバコは喫煙専用室、加熱式タバコは加熱式たばこ専用喫煙室とする)。

 最近、喫煙者が増え始めている加熱式タバコだが、改正健康増進法では「指定たばこ」として従来の紙巻きタバコとは異なった規制対象になってしまった。加熱式タバコ専用喫煙室内での飲食などのサービスは受けられるが(紙巻きタバコの喫煙専用室内で飲食などはできない)、加熱式タバコも原則屋内禁煙の対象になり、これは「当分の間の措置」となっている。

 加熱しようが冷却しようが、タバコはタバコだ。おかしな線引きはコストを上げ、市民国民を混乱させるだけと思うが、タバコ産業は加熱式タバコや電子タバコに対して異なった対応を取るようロビー活動を激化させており、今回の判断もその影響だと考えられる。

 だが、厚生労働省も意外にしたたかで、一般的な喫煙専用室に20歳未満の者の立ち入りを禁止する表示とともに「『喫煙』には、加熱式たばこを吸うことが含まれます。」との文言を入れなければならないという見解を示している。これは重要で、加熱式タバコも「喫煙」であり、タバコを吸う行為だと明確に判断したものだ。

 つまり、前述した「喫煙をする際の配慮義務に関する事項」は、加熱式タバコにも適用されることになる。また、加熱式タバコの専用喫煙室で紙巻きタバコを吸うことはできない。

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国は加熱式タバコを吸う行為も喫煙と明確に判断した。Via:厚生労働省「『健康増進法の一部を改正する法律』の施行について(受動喫煙対策)平成31年2月22日、別添3

加熱式タバコ専用喫煙室のピクトグラム

 また、改正健康増進法では、資本金または出資の総額5000万円以下かつ客席面積100平方メートル以下の飲食店では、喫煙室を設置することでタバコを吸えるようになっている。これは、紙巻きタバコでは「喫煙専用室」、加熱式タバコでは「加熱式たばこ専用喫煙室」となるが、それぞれ出入り口の見えやすい場所に喫煙専用室のあることを掲示しなければならない。また、喫煙専用室に関しては、どちらも出入り口で内部へ流入する毎秒0.2メートルの気流があることが必要だ。

 紙巻きタバコ用の喫煙専用室は、文字通り「専ら喫煙をすることができる場所である」こと、そして「20歳未満の者の立ち入りが禁止されている」ことがわかれば、こうした標識のマーク部分のみでもいいとするが、加熱式タバコの場合は「加熱式たばこ専用喫煙室」と文字で示す必要があるとした。

 また、施設内の客席以外の場所を禁煙にし、客席の全部を「指定たばこ専用喫煙室」とすることはできないし、受動喫煙を望まない従業員が頻繁に出入りするような場所を「指定たばこ専用喫煙室」とすることは望ましくないとしている。つまり、加熱式タバコ専用の飲食店はできないし、従業員に対して加熱式タバコの専用喫煙室に無理に行かせることはできない。

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左が入り口に掲示しなければならない「専用喫煙室あり」の標識、右が実際の専用喫煙室に掲示しなければならない標識。飲食などのサービスを受けられることがナイフとフォークのピクトグラムで示されているが、加熱式タバコのデザインはどこかJTのプルーム・テックに似ているのは気のせいだろうか。Via:厚生労働省「『健康増進法の一部を改正する法律』の施行について(受動喫煙対策)平成31年2月22日、別添3

 しかし、この標識で加熱式タバコと認識できるのだろうか。一見すると、副流煙が出ているように見え、電子タバコのようにも見え、飲食店側や利用者を混乱させないか疑念が残る。タバコはタバコと決然と判断した喫煙専用室の文言のように、加熱式タバコを別扱いにしないほうがよかったのだ。

 改正健康増進法の全面施行は、東京オリパラの前、2020年4月1日から予定されているが、喫煙専用室を設置する店舗はこれらの標識を用意し、見えやすい場所に掲示する義務が生じる。

 また、厚生労働省では「標識の配置や配色等については、各施設の様態により適宜加工・修正の上、使用して構わない」としているが、本来なら禁煙の場所なのに喫煙可能なように誤認させたり、条件が変わらないのに掲示した標識を除去することは禁止されている(第37条および改正法付則第4条)。これらの標識に関する義務に違反した者に対しては、50万円以下の罰則(過料)に処せられる可能性があるので要注意だ。

※1:厚生労働省「『健康増進法の一部を改正する法律』の施行について(受動喫煙対策)」、平成31年2月22日(2019/02/27アクセス)

科学ジャーナリスト、編集者

いしだまさひこ:北海道出身。法政大学経済学部卒業、横浜市立大学大学院医学研究科修士課程修了、医科学修士。近代映画社から独立後、醍醐味エンタープライズ(出版企画制作)設立。紙媒体の商業誌編集長などを経験。日本医学ジャーナリスト協会会員。水中遺物探索学会主宰。サイエンス系の単著に『恐竜大接近』(監修:小畠郁生)『遺伝子・ゲノム最前線』(監修:和田昭允)『ロボット・テクノロジーよ、日本を救え』など、人文系単著に『季節の実用語』『沈船「お宝」伝説』『おんな城主 井伊直虎』など、出版プロデュースに『料理の鉄人』『お化け屋敷で科学する!』『新型タバコの本当のリスク』(著者:田淵貴大)などがある。

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