どうせくれるなら「ダーク」を~「チョコレート」最新研究は何を解明したのか

(写真:アフロ)

 すでにバレンタインデーとチョコレートは切っても切れない関係になってしまったが、チョコレートをもらい過ぎて困るような人はもちろん、気になるのは健康への影響だ。気軽に食べられるスイーツとしても一般的なチョコレートだが、最新の研究を調べてみたら、いいニュースと悪いニュースがそれぞれ2つずつあった。

フラボノイド効果か

 新大陸で先住民が利用し、侵略者が西洋へ持ち帰り、嗜好品になって広まったという意味で、チョコレートとタバコはよく似ている。チョコレートの原料となるカカオは、メキシコあたりのアステカの人々が医薬品として、また神事のための儀式に利用していた(※1)。

 チョコレートを西洋へ伝えたスペイン人は、新大陸の人々と同様に風邪や滋養強壮のための医薬品として利用するようになる。コショウやシナモンなどの香辛料と混ぜ、あるいは砂糖と牛乳、卵を加え、内臓や呼吸器の疾患のために処方したり栄養補給のために病人に与えたりした。

 最初は王侯貴族や富裕層が利用していたチョコレートは、植民地経営が軌道に乗ってくると次第に大衆にも行き渡るようになる。熱帯のプランテーションでカカオが栽培され、砂糖やバターなどの乳製品の生産が増えていくと、チョコレートは嗜好品として帝国主義諸国で大量消費されるようになっていった。

 西洋に持ち込まれた頃から、カカオとチョコレートの心血管機能に対する効果は経験的によく知られていた。カカオには、紅茶や緑茶などの茶葉、赤ワイン、ハチミツなどと同様、ポリフェノール(Polyphenol)の一種であるフラボノイド(Flavonoid)が多く含まれている。

 フラボノイドがなぜ心臓や血管の健康に効果があるのか、そのメカニズムは複雑だが、カカオに含まれるフラボノイドに抗炎症作用があり、血管の内側の細胞を守ったり血小板の凝集を抑制するのではないかと考えられている。

 具体的には、血管や気管を収縮させて喘息などを引き起こすとされるロイコトリエン(Leukotriene)という物質の濃度を下げ、血管を広げて抗血栓作用があるとされるプロスタサイクリン(Prostacyclin)という物質の濃度を上げるようだ。また、フラボノイドには強い抗酸化作用があり、高密度リポタンパク質(HDL)を増やし、低密度リポタンパク質(LDL)の酸化を抑え、インスリンの抵抗性を下げる可能性があると考えられている(※2)。

 日本で行われた32人の男女大学生(平均20.7歳、女性8人)によるランダム化比較試験(※3)によれば、4週間、カカオ・チョコレート(1日20グラム:508ミリグラムのカカオ・ポリフェノール)を摂取した群で動脈硬化の程度が低くなったという。ただ、血圧や体重、BMIなどの運動代謝特性には変化がなかった。

 複数の研究を比較分析した最新の研究でもチョコレートの心血管疾患予防効果は明らかになっている(※3)。ただ、この論文の研究者は、チョコレートの過剰摂取に注意が必要であり、チョコレートには砂糖が多く含まれ、カロリーも高いことを知るべきだと警告してもいる。チョコレートに限らず、過ぎたるは及ばざるがごとしというわけだ。

ダーク・チョコレートをこそ

 チョコレートの食べ過ぎはもちろん健康に悪いが、ダーク・チョコレート(Dark Chocolate)にはむしろ肥満を抑制する作用があるのではないかという研究も多い。ミルク・チョコレートとダーク・チョコレートを比べた研究によれば、ダーク・チョコレートを食べた後のほうが満腹感があり、総カロリー摂取量も少なかったという(※5)。

 日本チョコレート・ココア協会のHPによれば、ダーク・チョコレートとはいわゆるビター・チョコレート(Bitter Chocolate)のことでカカオ分70~90%の低糖のチョコレートを指す場合もあるようだ(※6)。

 ダーク・チョコレートに多く含まれるカカオのフラボノイドには脂肪や炭水化物の代謝を促進し、満腹感を感じさせる作用があり(※7)、健康への作用で効果的なのもダーク・チョコレートというわけだ(※8)。さらにダーク・チョコレートには認知機能強化の作用も示唆され(※9)、どうせバレンタインデーにもらうならダーク・チョコレートということになる。

 どうやらダーク・チョコレートには、心血管疾患を予防する効果が期待され、食べ過ぎを抑制する機能もあるようだ。これが2つのいいニュースだが、悪いニュースとは何だろう。

 冒頭に書いたように、チョコレートとタバコは導入された歴史的な経緯がよく似ている。例えば、最初は医薬品として、その後、広く嗜好品として利用されたことや軍隊で配給されたことなどだ。さらにいえば、持続可能な地球環境を保持していくために、カカオとタバコの栽培がいかに問題を含んでいるのかもよく似ている。

 これらの栽培は熱帯雨林の損失につながり、発展途上国の自然環境や労働力を先進国のグローバル企業が搾取し、ドメスティックな農地の転換を阻害しているという構造も一緒だ。菓子メーカーやタバコ会社がどんなにCSRで糊塗しようとしても、それは結果的に途上国の貧困を固定化し、選択不可能な低賃金労働に縛り付けている。

 ダーク・チョコレートの効果は否定できないが、菓子メーカーは砂糖やミルク、バターを添加し、せっかくのチョコレートを健康に悪影響を与えるものに変えてしまった。これもタバコ産業が行ってきたこととよく似ている(※10)。

 悪いニュースの2つ目は、カカオのカドミウムやクロムによる汚染だ。最近になって原産国のホンジュラスやエクアドルを含む各国で調査されているが、これらは自然環境由来の金属である可能性が高く、その濃度はほぼ健康に悪影響がないとされている(※11)。

 日本で流通しているチョコレートとココアの調査も行われ、調査した180種類のチョコレート製品のうち8製品、140種類のココア粉末製品のうち26製品中のカドミウム(Cd)濃度でEUが設定した基準値を超えていたという(※12)。

 この調査によれば、カドミウムの濃度は、チョコレート製品で0.00021~2.3ミリグラム/キログラム、ココア粉末製品で0.015~1.8ミリグラム/キログラムだった。国の定める食品中のカドミウム基準値は米(玄米および精米)で0.4ミリグラム/キログラム以下、清涼飲料水で0.003ミリグラム/リットル以下とされている。ちょっと気になる数値といえるだろう。

※1:Tresesa L. Dilllinger, et al., "Food of the Gods: Cure for Humanity? A Cultural History of the Medicinal and Ritual Use of Chocolate." American Society for Nutritional Sciences, Vol.130, 2057S-2072S, 2000

※2-1:Eric L. Ding, et al., "Chocolate and Prevention of Cardiovascular Disease: A Systematic Review." Nutrition & Metabolism, Vol.3:2, doi.org/10.1186/1743-7075-3-2, 2006

※2-2:Sarah Marshall, "Chocolate: indulgence or medicine?" the Pharmaceutical Journal, 2008

※2-3:Lee Hooper, et al., "Effects of chocolate, cocoa, and flavan-3-ols on cardiovascular health: a systematic review and meta-analysis of randomized trials." The American Journal of Clinical Nutrition, Vol.95, Issue3, 740-751, 2012

※2-4:Katha Patel, et al., "Chapter 21- Chocolate and Its Component's Effect on Cardiovascular Disease." Lifestyle in Heart Health and Disease, 255-266, 2018

※3:Masato Nishiwaki, et al., "Effects of regular high-cocoa chocolate intake on arterial stiffness and metabolic characteristics during exercise." Nutrition, Vol.60, 53-58, 2019

※4:Vincenza Gianfredi, et al., "Can chocolate consumption reduce cardio-cerebrovascular risk? A systematic review and meta-analysis." Nutrition, Vol.46, 103-114, 2018

※5:L B. Sorensenn, et al., "Eating dark and milk chocolate: a randomized crossover study of effects on appetite and energy intake." Nutrition and Diabetes, Vol.1, e21, 2011

※6:日本チョコレート・ココア協会cocoa.com/dictionary/word/chocorate.html#w1_2 「チョコレート・ココア大辞典」チョコレート編:ダークチョコレート(2019/02/13アクセス)

※7:Grace Farhat, et al., "Dark Chocolate: An Obesity Paradox or a Culprit for Weight Gain?" Phytopherapy Research, Vol.28, Issue6, 791-797, 2014

※8-1:Ying Wan, et al., "Effects of cocoa powder and dark chocolate on LDL oxidative susceptibility and prostaglandin concentrations in humans." The American Journal of Clinical Nutrition, Vol.74, Issue5, 596-602, 2001

※8-2:J Mursu, et al., "Dark chocolate consumption increases HDL cholesterol concentration and chocolate fatty acids may inhibit lipid peroxidation in healthy humans." Free Radical Biology and Medicine, Vol.37, 1351-1359, 2004

※9:Alexander N. Sokolov, et al., "Chocolate and the brain: Neurobiological impact of cocoa flavanols on cognition and behavior." Neuroscience & Biobehavioral Reviews, Vol,37, Issue10, 2445-2453, 2013

※10-1:Kelly D. Brownell, et al., "The Perils of Ignoring History: Big Tobacco Played Dirty and Millions Died. How Similar Is Big Food?" The Milbank Quarterly, Vol.87, Issue1, 259-294, 2009

※10-2:Kay Frydenborg, "Chocolate: Sweet Science & Dark Secrets of the World's Favorite Treat." HMH Books for Young Readers, 2015

※11-1:Eileen Abt, et al., "Cadmium and lead in cocoa powder and chocolate products in the US Market." Food Additives & Contaminants: Part B, Vol.11, Issue2, 2017

※11-2:Rafaella Regina Alves Peixoto, et al., "Risk assessment of cadmium and chromium from chocolate powder." Food Additives & Contaminants: Part B, Vol.11, Issue4, 2018

※11-3:A Gramlich, et al., "Soil cadmium uptake by cocoa in Honduras." Science of The Total Environment, Vol.612, 370-378, 2018

※11-4:David Arguello, et al., "Soil properties and agronomic factors affecting cadmium concentrations in cacao beans: A nationwide survey in Ecuador." Science of The Total Environment, Vol.649, 120-127, 2019

※12:Y Kataoka, et al., "Surveillance of Cadmium Concentration in Chocolate and Cocoa Powder Products Distributed in Japan." Journal of the Food Hygienic Society of Japan, Vol.59(6), 269-274, 2018