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加熱式タバコにすがらず「禁煙」は思い切りよく挑めば「成功」する

石田雅彦科学ジャーナリスト、編集者
(写真:Fujifotos/アフロ)

 禁煙したいと思っていても、なかなかできない人は多い。マーク・トウェインの「禁煙は簡単だ。私など何千回もやってきた」というセリフは有名だ。禁煙の極意は、周囲からタバコに関するものを排除し、思い切りよく一気に挑むことだそうだ。

値上げを契機にどうですか

 今日からタバコが値上げになる。駆け込み需要も伸び悩んでいたようだが、この機会にタバコから縁を切ると決意した喫煙者も多そうだ。

 禁煙希望者は約7割だが、実際に禁煙に成功する喫煙者は約1割程度と少ない。タバコに含まれるニコチンが依存症を引き起こし、喫煙者の約7割が治療の必要なニコチン中毒になってしまっているからだ(※1)。

 ニコチンはコカインと同じくらい依存性の強い薬物だ。そのため、禁煙は難しいのだが、世の中には禁煙のマニュアル本が山のようにある。

 いろいろいわれているが、禁煙に極意などない。保険適用もされている病気なのだから本当なら禁煙外来などでの治療が必要な病気といえ、ニコチンという薬物が作用する中毒であることから、ニコチンこそタバコという製品の実態だ。

 ニコチン依存症からどうやって抜け出すかということが禁煙治療の本質で、その方法はこれまで多く研究されてきた。

 今回、米国のミネソタ大学などの研究グループが、30日以内に禁煙するつもりがない喫煙者1250人(平均45歳、女性44%)を対象にランダムに割り付けし、急速にニコチンを減らす群(急減群340人)、ゆっくりとニコチンを減らす群(緩慢群400人)、コントロール群(中間群210人)で禁煙の効果を比較した研究を米国の医師会雑誌『JAMA』のオンライン版「Network」に発表した(※2)。

 ニコチン急減群は1gあたり0.4mgのタバコに切り替え、緩慢群は5ヵ月間にわたり1gあたり15.5mgから0.4mgへ徐々に減らし、中間群は1gあたり15.5mgのタバコを使用し続け、それぞれの群で呼気中の一酸化炭素(CO)、尿中のタバコ由来の有害物質(強い毒性を持つアクロレインの尿中代謝物3-ヒドロキシプロピルメルカプツール酸、3-HPMA)や喫煙のバイオマーカーになる多環芳香族炭化水素(PheT, Polycyclic Aromatic Hydrocarbons)の値を20週以上をかけて調べた。

 これにより、ニコチンの量を急速に減らした場合とゆっくりニコチンを減らした場合とで、20週間後に禁煙を考えていない喫煙者のどちらの群のほうがタバコを止めているかがわかるということになる。

 その結果、最終的には958人(77%)がテスト対象に残り、急減群のほうが緩慢群に比べ、一酸化炭素で4.06ppm、有害物質(3-HPMA)で17%、多環芳香族炭化水素(PheT)で12%それぞれ減った(※3)。また、急減群はコントロール群(ニコチン15.5mgの喫煙習慣を続けた群)に比べてもこれらの数値が低かったという。

 一方、緩慢群のほうはコントロール群と比べ、数値に大きな違いはみられなかった。つまり、ニコチンの量を急激に減らしたほうが、一酸化炭素や有害物質の数値が明らかに下がり、ゆっくりと減らして最終的に同じ量になったとしても効果がないことがわかる。

タバコと縁を切る

 どうやってニコチン依存症になるのかは、タバコを吸った際の血液中のニコチン濃度の上昇カーブと量に左右され、急激に多くの量のニコチンを吸収したほうが依存症になりやすい。そのため、喫煙者は低タール低ニコチンの軽いタバコを吸ってもモノ足りなくなるため、深く吸い込んだりフィルターに空けられたミシン目を手で塞いだりしてニコチンを求める。

 今回の研究では、急減群に参加した喫煙者の脱落者が多かった(32%減:503人→342人、緩慢群では19%減:498人→403人)。やはりニコチン依存は強く、研究参加を続けられなかったと考えられる。

 アイコス(IQOS)などの加熱式タバコは、紙巻きタバコと同じ程度のニコチンを急激に吸収するように作られ、ニコチン依存から抜け出せないようになっている。米国のFDA(食品医薬品局)はタバコ製品のニコチン量規制に乗り出そうとしているが、依存症になるニコチン量以下に下げられた場合、タバコ製品は売れなくなるだろう。

 加熱式タバコにも有害物質が含まれているので健康への悪影響は無視できない。また、ニコチン依存から抜け出せないため、紙巻きタバコへ戻ってしまう危険性もある。

 タバコを止める決心をしたら、周囲から灰皿などのタバコに関した物質やイメージをなくしてみよう。タバコを吸いたい気持ちになるきっかけをリストアップし、それらを遠ざけるのもいい。

 家族や友人、同僚などに宣言して協力を頼み、可能なら禁煙外来や薬局薬店などを訪れ、あるいは保健所などの窓口に電話するなどして相談してみるのも一考だ。禁煙がつらかったら身体を動かすのも効果的で、タバコを止めた直後の肥満防止にもなる。

 禁煙は必ず成功する。元喫煙者の筆者は、あきらめず挑戦し続けることも大事だと思う。

※1:厚生労働省:厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野、第3次対がん総合戦略研究 平成17年度 総括・分担研究報告書

※2:Dorothy K. Hatsukami, et al., "Effect of Immediate vs Gradual Reduction in Nicotine Content of Cigarettes on Biomarkers of Smoke Exposure- A Randomized Clinical Trial." JAMA, Vol.320(9), 880-891, 2018

※3:一酸化炭素(CO)-4.06ppm(95% CI:-4.89 to-3.23:P<.0055)、タバコ由来の有害物質(3-HPMA)0.83(95% CI:0.77 to 0.88:P<.0055)、多環芳香族炭化水素(PheT)0.88(95% CI:0.83 to 0.93:P<.0055)

科学ジャーナリスト、編集者

いしだまさひこ:北海道出身。法政大学経済学部卒業、横浜市立大学大学院医学研究科修士課程修了、医科学修士。近代映画社から独立後、醍醐味エンタープライズ(出版企画制作)設立。紙媒体の商業誌編集長などを経験。日本医学ジャーナリスト協会会員。水中遺物探索学会主宰。サイエンス系の単著に『恐竜大接近』(監修:小畠郁生)『遺伝子・ゲノム最前線』(監修:和田昭允)『ロボット・テクノロジーよ、日本を救え』など、人文系単著に『季節の実用語』『沈船「お宝」伝説』『おんな城主 井伊直虎』など、出版プロデュースに『料理の鉄人』『お化け屋敷で科学する!』『新型タバコの本当のリスク』(著者:田淵貴大)などがある。

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