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アイコスなど新型タバコと紙巻きタバコの「二重使用」が「呼吸器疾患」のリスクに?

石田雅彦科学ジャーナリスト、編集者
(写真:ロイター/アフロ)

 日本でもアイコス(IQOS)などの加熱式タバコが広まりつつあるが、これまで通常の紙巻きタバコを吸っていた喫煙者が加熱式タバコへ完全に切り替えるケースはそう多くないと考えられる。

新型タバコとの二重使用疑惑

 米国ノースカロライナ州の非営利研究機関、RTIインターナショナルなどの研究者がフロリダ州の中高生2756人を調べた調査(※1)によれば、電子タバコ使用者の少なくとも81%が他のタバコ製品との二重使用(デュアルユース)だった。

 これはニコチンを添加した電子タバコについての調査だが、加熱式タバコはどうだろう。インターネットの検索データをもとにした日本の研究調査(※2)によれば、72%が電子タバコを含む加熱式タバコの二重使用者だった。日本ではニコチンを添加した電子タバコが実質的に禁止されているので、この割合の多くは加熱式タバコと思われる。

 これまで紙巻きタバコを吸ってきた喫煙者にとって、加熱式タバコの味わいや吸い心地はどうしても劣っていると感じるようだ。

 そのため、飲食店や職場など受動喫煙が厳しい環境では加熱式タバコを、自宅など大手を振って吸える場所では紙巻きタバコというように二重使用する喫煙者が多いのではないだろうか。

 ニコチン添加した電子タバコが広まっている米国で8割以上の使用者が既存の紙巻きタバコや葉巻などと併用していることを考えれば、加熱式タバコでも同じことが起きていると推測したほうが自然だ。

 既存の紙巻きタバコが及ぼす健康への悪影響は広く知られるようになってきたが、こうした二重使用は身体にとってどう作用するのかは未知数だ。

 タバコ会社は電子タバコや加熱式タバコのタールや有害物質が低減されていると主張するが、紙巻きタバコと併用してもその分、害も低減されるのだろうか。

二重使用は呼吸器系の不調と関連が

 最近、スウェーデンのウメオ大学などの研究グループが、電子タバコや二重使用の呼吸器疾患リスクを人口統計学的に調べた研究論文を米国の医学雑誌『JAMA(米国医師会雑誌)』に発表した(※3)。

 研究グループは、スウェーデン北部の閉塞性肺疾患(Obstructive Lung Disease)の調査(OLIN)とスウェーデン西部の喘息の調査(WSAS)の共通の質問項目から選別された3万272人(20〜75歳、女性53.9%)を対象にし、電子タバコの習慣的使用と呼吸器の不調との関係を調べた。

 呼吸器系の不調では、アンケート形式調査で「咳や痰の有無」「喘鳴」などの頻度や期間について聞き、閉塞性肺疾患や喘息のリスクを推測した。

 3万272人のうち12.3%(3694人)が現在喫煙者(Current Smokers)、24.4%(7305人)が過去喫煙者(Former Smokers)で、両者を合わせた中の電子タバコの使用者は2.0%(529人)で男性が多く(男性2.2%、女性1.8%)、年代が若いほど多かった。

 喫煙習慣(Cigarette-smoking Habits、紙巻きタバコの喫煙)についての質問で電子タバコの使用を回答した525人のうち、現在喫煙者が66.7%(350人)、過去喫煙者が15.0%(79人)、そしてタバコを吸わないと回答した人にも18.3%(96人)電子タバコの使用者がいた。

 これは、加熱式タバコの使用が喫煙行為と思っていない人が日本にもいることでわかるが、新型タバコがいかに間違った認識で社会に浸透しつつあるかということだろう。

 未喫煙者に比べると現在喫煙者が電子タバコを始める割合は18倍となり、現在喫煙者の7割近くが電子タバコと紙巻きタバコの二重使用者ということになる。

 研究グループによれば、紙巻きタバコの喫煙本数が増えるほど、電子タバコの使用量も増え、1日15本以上吸う紙巻きタバコ喫煙者に占める電子タバコの使用者の割合は13.8%、5〜14本で9.7%、5本以下で7.5%だった。

 呼吸器疾患につながる呼吸器の不調では二重使用者で一般的で、電子タバコ単独の使用者でもこうした症状が多かったという。これは過去喫煙者や電子タバコ使用を喫煙習慣と回答しなかったタバコを吸わない人にもみられる傾向だった。

二重使用で4倍以上のリスク

 性別、年代、学歴、既往歴などの変数を調整した呼吸器系の不調症状では、二重使用者で4.03倍(オッズ比)、紙巻きタバコのみで2.55倍(同)、二重使用の過去喫煙者で1.27倍(同)、電子タバコのみで1.46倍(同)となった。

 タバコ会社は新型タバコとの二重使用はせいぜい20%程度とアナウンスしているが、上記の調査によってこれは疑わしい数字ということになる。

 この研究論文は電子タバコと紙巻きタバコの二重使用と呼吸器系の不調に関するものだが、欧米で販売されている電子タバコはニコチンが添加され、使用者はニコチン依存症から離脱できない。仮にニコチンが添加されていなくても、電子タバコの蒸気(ベイパー)は呼吸器疾患に悪影響を与えるのではないかと考えられている。

 日本の加熱式タバコも同様で、研究グループは電子タバコは禁煙へ誘導できず、むしろ呼吸器疾患のリスクを高めると警告する。加熱式タバコの使用を始めた喫煙者は、少なくとも紙巻きタバコとの二重使用を避けたほうが良さそうだ。

※1:Youn Ok Lee, et al., "Examining Youth Dual and Polytobacco Use with E-Cigarettes." International Journal of Environmental Research and Public Health, Vol.15(4), doi:10.3390/ijerph15040699, 2018

※2:Takahiro Tabuchi, et al., "Heat-not-burn tobacco product use in Japan: its prevalence, predictors and perceived symptoms from exposure to secondhand heat-not-burn tobacco aerosol." Tobacco Control, Vol.27, Issue.e1, doi.org/10.1136/tobaccocontrol-2017-053947, 2018

※3:Linnea Hedman, et al., "Association of Electronic Cigarette Use With Smoking Habits, Demographic Factors, and Respiratory Symptoms." JAMA, doi:10.1001/jamanetworkopen.2018.0789, 2018

※2018/09/27:10:20:「インターネットの検索データをもとにした日本の研究調査(※2)によれば、72%が電子タバコを含む加熱式タバコの二重使用者だった。日本ではニコチンを添加した電子タバコが実質的に禁止されているので、この割合の多くは加熱式タバコと思われる。」のパラグラフと引用(※2)を追加した。

科学ジャーナリスト、編集者

いしだまさひこ:北海道出身。法政大学経済学部卒業、横浜市立大学大学院医学研究科修士課程修了、医科学修士。近代映画社から独立後、醍醐味エンタープライズ(出版企画制作)設立。紙媒体の商業誌編集長などを経験。日本医学ジャーナリスト協会会員。水中遺物探索学会主宰。サイエンス系の単著に『恐竜大接近』(監修:小畠郁生)『遺伝子・ゲノム最前線』(監修:和田昭允)『ロボット・テクノロジーよ、日本を救え』など、人文系単著に『季節の実用語』『沈船「お宝」伝説』『おんな城主 井伊直虎』など、出版プロデュースに『料理の鉄人』『お化け屋敷で科学する!』『新型タバコの本当のリスク』(著者:田淵貴大)などがある。

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