O157など凶悪な細菌が「味噌」で死滅は本当か

(ペイレスイメージズ/アフロ)

 著名な料理研究家が、SNSで「味噌の殺菌効果」はO157のような凶悪な食中毒菌も死滅させ、これまで、味噌に関する食中毒の報告例は一件もないと述べて話題になっている。本当だろうか。

危険な病原性大腸菌の感染症

 先日、大分県豊後高田市や長野県上田市で腸管出血性大腸菌O121の感染者が出た。O121はO104、O111、O157などと同じ腸管出血性大腸菌(Enterohemorrhagic Escherichia Coli、EHEC)の一種で、ベロ毒素(Verotoxin、志賀様毒素=Shiga-Like Toxin)を出す凶悪な大腸菌だ。これらの細菌に感染すると、血便を伴う下痢や嘔吐、腹痛、発熱といった症状を引き起こす腸管出血性大腸炎になる(※1)。

 大腸炎ですめばまだいいが、数日から2週間ほど経過した後、数%から10%ほどの危険率で溶血性尿毒症症候群(Hemolytic-Uremic Syndrome、HUS)を発症する。

 日本腎臓学会の「溶血性尿毒症症候群(HUS)の診断・治療ガイドライン」(2018/09/11アクセス)によれば、HUSにより赤血球が破壊されて起きる溶血性貧血、血小板の減少、急性腎障害、そして急性脳症や心不全などの合併症、慢性腎臓病、糖尿病、認知行動障害、消化器官などへの後遺症が起きる。HUSの致死率は1~5%ほどといわれ、すぐに輸血や人工透析などの治療をしないと危険な状態になる。

 病原性大腸菌感染症の予防としては、食品をよく加熱し、調理後はなるべく早く食べること、またヒトヒト感染も起きるので手洗いの徹底も推奨されており、腸管出血性大腸菌による感染症を確認した医師は直ちに保健所などの行政へ届け出る義務がある。

 こうした病原性大腸菌は、栄養や水分のある温かい環境で容易に繁殖し、感染力も強い。例えば、通常の食中毒菌は100万個ほども必要だが、O157の場合は100個ほどの感染で病気を引き起こし、その毒性はサリンより強いといわれる。

 また、O157は土中や水中などの環境中で数ヶ月も生存し、家庭の冷凍庫といった低温環境でも死なず、胃酸にも溶けずに大腸で繁殖する。一方、熱には弱く、75℃で1分間加熱すると死滅する。

 これら腸管出血性大腸菌、カンピロバクター(Campylobacter)やサルモネラ(Salmonella)などの食中毒菌は、気温と湿度の高い季節に繁殖する。一方、ノロウイルス(Norovirus)などのウイルス性の食中毒は寒い季節に発生することが多い。

味噌も微生物によって作られる

 凶悪な毒素を出すO157が、味噌で死滅するかどうかネット上で話題になっている。著名な料理研究家がSNSで発信した情報によるものだが、果たして味噌はそれほど強い抗菌力を持っているのだろうか。

 そもそも味噌も微生物を使った発酵によって作られる。全国味噌工業協同組合連合会の「みそ健康づくり委員会」のHP(2018/09/11アクセス)によれば、主に大豆と米麹、大豆と麦麹、大豆と豆麹、複数の麹の混合といった味噌があるが、発酵させて味噌にするのは麹菌によるものだ。

 我々が普通に暮らす環境中には、カビや酵母菌、乳酸菌(Lactic Acid Bacteria、LAB)が存在するが、ニホンコウジカビ(アスペルギルス・オリゼ=Aspergillus oryzae)などが味噌や日本酒、醤油を作る麹菌となる。ちなみに、醤油を作る麹菌にはショウユコウジカビ(Aspergillus sojae)もある。

 みそ健康づくり委員会のHPには、O157に対して味噌を大量に添加した実験で菌が繁殖できず、徐々に死滅したという記述がある。1997年に行われた財団法人日本食品分析センターによる実験というが、これは全国味噌工業協同組合連合会の連携機関である社団法人中央味噌研究所の委託によるものだった。

 この実験の詳細がわからないが、どうやら味噌の製造過程でO157が死滅し、味噌汁などを作る過程でも加熱によりO157は死滅するはずという内容のようだ。また同HPでは、O157だけでなく大腸菌や黄色ブドウ菌などの病原菌が味噌に混入して食中毒を起こしたことは今まで一例も報告されていないという。

 ただ、味噌汁などの調理で死滅するのはわかるが、20~30℃という発酵醸成の環境下で完全に死滅するかどうかは疑問だろう。

 味噌を造るときに発酵させるが、発酵というのは酸素を使わない生化学代謝のことで、乳酸菌などの発酵菌による反応だ。大腸菌も酸素濃度の低い腸内環境で発酵し、増殖するエネルギーを得ている。

 だから、味噌の中という酸素の少ない環境でもO157は増殖することが可能だし、pH2という胃酸のような強酸性や腸内のpH4~6の弱酸性の環境下でも生き残ることができるため、pH4.5~5前後の味噌の中は特に厳しい環境ではない。

塩と有機酸が死滅させるのか

 むしろ味噌の中でO157が死滅するのは温度もあるが、味噌造りで大量に使われる塩(12%前後)による浸透圧と水分の少ない環境、味噌の発酵過程に関与する乳酸菌や酵母菌などの抗菌力のある他の細菌の作用と考えられる。特に、細菌が作り出すバクテリオシン(Bacteriocin)という他の細菌に対する抗菌作用を持つタンパク質やペプチドの存在が重要だ。

 バクテリオシンは、我々の身体に共生する常在菌からも作り出されていると考えられているが(※2)、乳酸菌が作り出すナイシンA(Nisin A)というグラム陽性菌に対する抗菌性ペプチドが有名だ(※3)。

 味噌の中のエンテロコッカス属(Enterococcus)やラクトコカス・ラクティス(Lactococcus lactis)という乳酸菌のバクテリオシンには、枯草菌(Bacillus subtilis)類などに対する抗菌性を持つものがある(※4)。

 また、味噌ではないが、発酵ソーセージやチーズのラクトコッカス属(Lactococcus)の乳酸菌がO157や黄色ブドウ球菌に対するバクテリオシンによる抗菌性があることもわかっている(※5)。ただ、味噌のバクテリオシンが、O157などの病原性大腸菌に有効かどうかについての研究はまだないようだ。

 むしろ、乳酸菌が作り出す乳酸(Lactic Acid)に抗菌作用があるのではないかという研究も多い(※6)。これは、乳酸が大腸菌の外膜を破壊することで死滅させるのではないかと考えられているが、pH値ではなく短鎖脂肪酸(Short-Chain Fatty Acid)などの有機酸(Organic Acid)に抗菌作用があるというわけだ。味噌にも乳酸や酢酸、クエン酸、コハク酸といった有機酸が含まれている。

 ただ、味噌はチーズなどの乳酸菌類とはバクテリオシンも異なり、味噌に含まれる有機酸のO157などの病原性大腸菌に対する効果も不明であり、味噌の抗菌力を過信するのはどうだろう。

 医薬品と同じで、微生物にも作用と反作用があり毒にも薬にもなる。発酵食品の製造過程で日和見的な病原性の真菌によるカビ毒(マイコトキシン=Mycotoxin)が残ったり、常在菌のバランスが崩れると逆に病気を引き起こすことがあるが発酵と腐敗は紙一重だ。

 特に、最近は健康志向から減塩味噌も増えてきた。味噌の抗菌力の重要な要素と考えられる塩分が少なくなれば、これまで通りの工程管理でいいのかという疑問もわく。

 加熱処理や時間、発酵環境の管理不足などにより、発酵食品でも病原性大腸菌が繁殖することが知られているが(※7)、発酵過程で生成される生物由来のアミン(Biogenic Amines)が有害なのではないかという指摘もある(※8)。

 もちろん味噌や納豆、チーズ、ヨーグルトなどの発酵食品には大きな利点もあり、有効に活用したい。味噌の抗菌作用はまだはっきりわかっていないが、味噌の乳酸菌が一種のバクテリオシン的な機能を持つ有機酸を作り出すのも事実だ。

 食品はよく加熱し、常温に長く放置せず、手洗いなどの衛生管理をしっかりすれば、味噌に漬けずとも食中毒を防ぐことができる。味噌の抗菌力を過信せず、味噌汁などを美味しく召し上がっていきたい。

※1:A B. O'Brien, et al., "Purification of Shigella dysenteriae 1 (Shiga)-like toxin from Escherichia coli O157:H7 strain associated with haemorrhagic colitis." The LANCET, 1983

※2-1:J R. Tagg, et al., "Bacteriocins of gram-positive bacteria." Bacteriology Reviews, Vol.40(3), 722-756, 1976

※2-2:Gregor Reid, et al., "Microbiota restoration: natural and supplemented recovery of human microbial communities." nature REVIEWS MICROBIOLOGY, Vol.9, 27-38, 2011

※3:G W. Buchman, et al., "Structure, expression, and evolution of a gene encoding the precursor of nisin, a small protein antibiotic." The Journal of Biological Chemistry, Vol.263(31), 16260-16266, 1988

※4-1:Takumi Onda, et al., "Widespread distribution of the bacteriocin‐producing lactic acid cocci in Miso‐paste products." Journal of Applied Microbiology, Vol.92, Issue4, 695-705, 2002

※4-2:T Kato, et al., "Growth of nisin-producing lactococci in cooked rice supplemented with soybean extract and its application to inhibition of Bacillus subtilis in rice miso." Bioscience, Biotechnology, and Biochemistry, Vol.65, 330-337, 2001

※5-1:Michael G. Ganzle, et al., "Effect of ecological factors on the inhibitory spectrum and activity of bacteriocins." International Journal of Food Microbiology, Vol.46, Issue3, 207-217, 1999

※5-2:E Rodriguez, et al., "Antimicrobial activity of pediocin-producing Lactococcus lactis on Listeria monocytogenes, Staphylococcus aureus and Escherichia coli O157:H7 in cheese." International Dairy Journal, Vol.15, Issue1, 51-57, 2005

※6-1:H L. Alakomi, et al., "Lactic Acid Permeabilizes Gram-Negative Bacteria by Disrupting the Outer Membrane." Applied and Environmental Mirobiology, DOI: 10.1128/AEM.66.5.2001-2005.2000, 2001

※6-2:S C. Ricke, "Perspectives on the use of organic acids and short chain fatty acids as antimicrobials." Poultry Science, Vol.82, Issue4, 632-639, 2003

※7:L Sartz, et al., "An outbreak of Escherichia coli O157:H7 infection in southern Sweden associated with consumption of fermented sausage; aspects of sausage production that increase the risk of contamination."  Epidemiology and Infection, VOl.136(3), 370-380, 2008

※8:G Spano, et al., "Biogenic amines in fermented foods." nature Europiean Journal of Clinical Nutrition, Vol.64, S95-S100, 2010

※2018/09/11:21:42:「特に、最近は健康志向から減塩味噌も増えてきた。味噌の抗菌力の重要な要素と考えられる塩分が少なくなれば、これまで通りの工程管理でいいのかという疑問もわく。」のパラグラフを追加した。