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受動喫煙防止「中年の喫煙男性」にまだ根強い抵抗感

石田雅彦科学ジャーナリスト、編集者
(ペイレスイメージズ/アフロ)

 東京都が国に先がけて制定した受動喫煙防止条例は、2018年6月27日の都議会で可決成立した。この都の受動喫煙防止条例の影響は広がっているのだろうか。

千葉市が都条例に追随か

 東京都の受動喫煙防止条例は、国の受動喫煙防止対策(改正健康増進法)より規制が厳しい。国が中小規模飲食店の客席面積100平方メートル以下を規制の例外としたのに比べ、規模や面積に関係なく従業員を雇っているかどうかで規制対象外とした。過料(国は最高30万円、都は5万円)と加熱式タバコに罰則規定があるなしの他の規制内容は、国と都にそう大きな違いはない。

 面積規定に客や従業員を受動喫煙から守る効力がほとんどないことは、各国の先行事例で明白にわかっている(※1)。特に国の100平方メートル基準では、ほぼ半数の飲食店が規制対象外となる。

 都の場合、都内の約84%の飲食店が対象となり実効性が高い。従業員雇用のあるなしで分ける都の条例は、世界でも先進的な内容といえる。

 そもそも分煙のための喫煙室設置には助成金が一部出るわけで、税金の投入や事業者の設備投資は多額になる。タバコを吸わない人にとってはもちろん、事業者にとっても、いっそ全面禁煙にしてもらったほうが楽ということもいえそうだ。

 都の受動喫煙防止条例は2020年の東京オリパラの開催都市としての矜持を示したものといえそうだが、同じように競技開催を行う周辺の自治体へはどう影響が広がっているのだろうか。

 千葉市は熊谷俊人市長が、7月12日に市独自の受動喫煙防止条例案を発表している。風営法の対象店舗については経過措置をもうけるとしているが、従業員の雇用あるなしという、ほぼ都の条例に則した内容で市の飲食店の約70%が対象になるようだ。この受動喫煙防止条例案は市議会の全会派からの要請によるものということもあり、9月の市議会で成立するだろう。

 また、2010年に全国に先がけて受動喫煙防止条例を施行した神奈川県は、国の改正健康増進法のほうが厳しい内容のため、県条例の内容の検討に入った。

 神奈川県の条例は、前神奈川県知事だった松沢成文参議院議員が強い抵抗と折り合いを付けつつ制定したものだ。今の黒岩祐治県知事は、知事独自の未病対策の一環として受動喫煙防止対策を行ってはいるが、前職の手柄に乗りたくはないだろう。そのため、神奈川県の改正条例に都条例の影響はそれほどなく、国の健康増進法に沿った後ろ向きのものになりかねない。

 一部、オリパラの競技が行われる静岡県も、国の改正健康増進法よりやや踏み込んだ独自の条例案を制定するようだ。国の受動喫煙防止法は、学校や保育所などで敷地内の屋外喫煙所設置を認めているが、それでは子どもを受動喫煙から守れず、教師らが喫煙する姿を見せることになりかねない。静岡県の独自案では学校などは敷地内全面禁煙としているが、飲食店は面積を把握していないということもあり独自条例案には盛り込まなかったようだ。

喫煙率の高い中年男性に抵抗感

 受動喫煙は、オリパラが開催されるからという理由で規制されるのが本筋ではない。もちろん「たばこのない五輪」の理念は重要だが、タバコの煙による健康への害についての認識を周知させる必要がある。

 東京都の受動喫煙防止条例では、2019年9月1日までに飲食店の店頭で禁煙か分煙かの表示をし、2020年4月までに全面施行される。都内の飲食店で禁煙店は増えているのだろうか。

 筆者は2018年3月の記事で都内の飲食店の禁煙割合を調べてみた(※2)。飲食検索サイトで「東京都」「土曜日の夜」「2名」「アルコールあり」で検索し、それを分母として「禁煙(分煙含まず)」で調べたところ約2%(2977/133412)だった。

 検索項目が「アルコールあり」から「ワイン・日本酒・焼酎あり」に変わっていたが、2018年8月7日に同じ項目で検索したところ、禁煙(分煙を含まない)店15.4%(886)、禁煙(分煙を含む)店38.4%(2209、分母は5757)になった。検索項目が変わったことで分母が減り、ネットでのざっくりした検索で一概にいえないが、分母を仮に1/3としても禁煙店は確実に増えていると考えられる。

 民間の調査会社が全国1127人(東京都以外963人、20〜60代の男女)を対象にアンケート調査を実施し、2018年7月31日に発表した「『受動喫煙防止条例』に関する意識調査」によれば(※3)、「東京都以外でもこの条例を推進するべきか」という項目では東京都を除く対象者で喫煙者からも賛同する意見が70%近くあったという。

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東京都以外の「喫煙者」「元喫煙者」「禁煙者」(20〜60代の男女)について「東京都以外でもこの条例を推進するべきか」を質問した。「(絶対)推進するべき」の項目に喫煙者でも31.8%が回答し、喫煙者の「そうは思わない」回答も5.4%に過ぎない。Via:ゼネラルリサーチ:「『受動喫煙防止条例』に関する意識調査」(2018/08/07アクセス)

 ただ、日本の喫煙率を下げ止まらせているのは30〜50代の男性喫煙者だ。この世代の喫煙率は、依然として30%を超えている。調査会社の協力を得て、同じアンケート調査から同階層を抜き出して比べてみると、やはり都条例にはまだ抵抗があるようだ。

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同じアンケート調査をゼネラルリサーチからデータを提供していただき、日本の喫煙者の中心層である「30代40代の男性」(全国)で回答を比べた。すると東京都以外の全国調査と異なり「そうは思わない」と回答した35%が喫煙者ということになっている。数字は%でそれぞれの項目を対象で合計すると100になる。ゼネラルリサーチ:「『受動喫煙防止条例』に関する意識調査」から提供されたデータを元に筆者がグラフ作成

 東京都の受動喫煙防止条例は、周辺の一部自治体(千葉市)へ波及効果が認められるものの、その多くで国の改正健康増進法の内容に沿うという様子眺めの流れがある。自治体の議員の多くが中高年の喫煙男性だからかもしれない。

 喫煙者自身の健康への害はもちろんだが、受動喫煙は明らかな他者危害だ。受動喫煙防止の考え方について喫煙率の高い層にまだ抵抗感があるようだが、こうした層への禁煙支援を強化し、喫煙率を下げることがタバコ対策や受動喫煙防止の早道なのではないかと思う。

※1:「都の『受動喫煙防止』条例はなんとか世界水準、国の法案は残念なことに10年遅れ」Yahoo!ニュース:2018/06/26

※2:「都内で全席禁煙『焼鳥店』経営者の想いとは」Yahoo!ニュース:2018/03/04

※3:ゼネラルリサーチ:「『受動喫煙防止条例』に関する意識調査」2018/07/31:調査日2018年7月9日〜2018年7月10日:インターネット調査

科学ジャーナリスト、編集者

いしだまさひこ:北海道出身。法政大学経済学部卒業、横浜市立大学大学院医学研究科修士課程修了、医科学修士。近代映画社から独立後、醍醐味エンタープライズ(出版企画制作)設立。紙媒体の商業誌編集長などを経験。日本医学ジャーナリスト協会会員。水中遺物探索学会主宰。サイエンス系の単著に『恐竜大接近』(監修:小畠郁生)『遺伝子・ゲノム最前線』(監修:和田昭允)『ロボット・テクノロジーよ、日本を救え』など、人文系単著に『季節の実用語』『沈船「お宝」伝説』『おんな城主 井伊直虎』など、出版プロデュースに『料理の鉄人』『お化け屋敷で科学する!』『新型タバコの本当のリスク』(著者:田淵貴大)などがある。

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