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JT調べ「喫煙率」をどう読むか

石田雅彦科学ジャーナリスト、編集者
(写真:ロイター/アフロ)

 日本たばこ産業(以下、JT)は例年、夏頃に「全国たばこ喫煙率調査」を発表している。2018年も7月30日にプレスリリース(2018/08/02アクセス)を出したが、喫煙率は2017年に比べ、男性で-0.4%、女性で-0.3%、男女計(全体)で-0.3%の減少となっている。この調査について考えてみたい。

60歳代以上の回答者が40%以上

 JTは1965年から毎年、喫煙率を調査してきた。今回(2018年5月)の調査では「たばこ製品(紙巻たばこ、加熱式たばこ、パイプ、葉巻等)を使用すると回答したサンプルを喫煙者として集計」したとする。

 調査対象は、全国の成人男女約32,000人に郵送でアンケート記入を依頼し、1万9442人(有効回収率60.6%)から回答を得た。調査対象サンプルは層化抽出法を二段階で実施している。これは母集団と各層の割合(%)に合わせ、サンプリングする手法だ。

 回答したのは、男性9614人(20歳代1448人15.1%、30歳代1181人12.3%、40歳代1610人16.7%、50歳代1509人15.7%、60歳代以上3866人40.2%)、女性9828人(20歳代785人8.0%、30歳代1373人14.0%、40歳代1832人18.6%、50歳代1644人16.7%、60歳代以上4194人42.7%)、男女計1万9442人(20歳代2233人11.5%、30歳代2554人13.1%、40歳代3442人17.7%、50歳代3153人16.2%、60歳代以上8060人41.5%)だったという。

 グラフをみればわかるが、60歳代以上の回答数が40%以上になっている。この年代は、健康懸念や病気を理由にタバコを止めることも多く、全体の喫煙率を引き下げている層だ。このあたりですでに選択バイアスの危険性が危惧されるが、層化抽出法だと人口比率でどうしてもこうした偏りが出てくる。

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回答者の年代別割合。JTの2018年「全国たばこ喫煙率調査」プレスリリース(2018/08/02アクセス)より。グラフ作成筆者

行き詰まるJTのグローバル戦略

 まず、ここ10年間のJT調査により、男性の年代別喫煙率の増減傾向をみてみると、2017年に比べて20歳代30歳代60歳代の男性で喫煙率が横ばいもしくは上昇している。2017年までの要領における調査目的は「全国成年男女に占める喫煙者の割合(喫煙者率)を把握すること」だったが、今回の調査から初めて加熱式タバコも対象にするという文言を入れた。その影響が加熱式タバコへ移行した若い世代の喫煙率に表れているのかもしれない。

 次に女性の年代別喫煙率の推移をみると、こちらは40歳代でやや横ばいだが全体として喫煙率が下がっている。特に20歳代50歳代がタバコを止めているようだが、女性喫煙率の減少が全体としての喫煙率低下に大きく影響を与えていると考えられる。

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男女の2007〜2018年の年代別喫煙率の推移と全体の推移(%)。この10年間で、男女ともに右肩下がりに喫煙率が下がってきているが、各年で上下動を示している。2010年のタバコ値上げの影響が大きく、喫煙率を下げるためにはタバコ増税と値上げが効果的だということがわかる。JTのプレスリリース(2018/08/02アクセス)より。グラフ作成筆者

 JTは同リリースで、喫煙人口の推計値も出している。2017年に比べ1年で日本人の喫煙者は約37万人減ったことになるようだ。JTは、喫煙率の減少傾向には複合的な要因が考えられ、高齢化、タバコ害への意識の高まり、タバコ規制強化、増税と値上げなどが影響しているとする。

 人口動態と喫煙率の減少により、日本国内でのタバコビジネスに将来性がないことは1990年代からわかっていた。これに対しては、JTも様々な施策を採ってきており、すでに国内市場には見切りを付けたようで大型M&Aを敢行しつつグローバル展開を画策してきた。

 最近、JTは33%(2016年)と喫煙率の高いロシアのタバコ会社を買収し、ロシア市場をうかがっている。だが、ロシア政府は近い将来、タバコ規制に本格的に乗り出すようだ。

 一部報道によれば、ロシア連邦保健省は2015年生まれ以降の全ての国民にタバコ販売を禁止する政策も計画しているようで、JTの海外戦略に暗雲が漂う。ちなみに、オーストラリアのタスマニア政府も、2000年7月1日以降に生まれた住人へのタバコ販売禁止を検討しているようだ。

 受動喫煙防止を含むタバコ規制は世界的な潮流で押し戻すことはできない。日本の喫煙率減少の傾向をみれば、JTの全国たばこ喫煙率調査が終わるのも、そう遠い未来ではないだろう。

科学ジャーナリスト、編集者

いしだまさひこ:北海道出身。法政大学経済学部卒業、横浜市立大学大学院医学研究科修士課程修了、医科学修士。近代映画社から独立後、醍醐味エンタープライズ(出版企画制作)設立。紙媒体の商業誌編集長などを経験。日本医学ジャーナリスト協会会員。水中遺物探索学会主宰。サイエンス系の単著に『恐竜大接近』(監修:小畠郁生)『遺伝子・ゲノム最前線』(監修:和田昭允)『ロボット・テクノロジーよ、日本を救え』など、人文系単著に『季節の実用語』『沈船「お宝」伝説』『おんな城主 井伊直虎』など、出版プロデュースに『料理の鉄人』『お化け屋敷で科学する!』『新型タバコの本当のリスク』(著者:田淵貴大)などがある。

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