国連が身構える「地球防衛計画」とは何か

(写真:JPL-Caltech/NASA/ロイター/アフロ)

 2013年にロシア中西部のチェリャビンスク州へ落下した隕石では、死者は出なかったものの、ドライブレコーダーなどに記録された画像が世界中へ拡散し、大きな衝撃を与えた。技術が進み、観測態勢が整ったことで、小惑星や彗星が意外なほどの脅威になっていることがわかってきたが、人類は絶滅した恐竜の二の舞になることを回避できるのだろうか。

国連が身構えるACHとは

 先日、米国のNASA(航空宇宙局)が中心となり、OSTP(科学技術政策局)やFEMA(連邦緊急事態管理庁)などと一緒に3000万マイル(約4830Km)以内に地球へ接近する地球近傍天体(Near-Earth Objects、NEOs)に対する対応方針を発表した(※1)。

 同時に国連も下部組織のUNOOSA(United Nations Office for Outer Space Affairs、国際連合宇宙局)が同様のリリースを出し、米国だけではなく国際的な取り組みとして地球外からの小惑星や彗星の接近に対応する体制の整備が始められる(※2)。

 このリリースによれば、国連とUNOOSAは、地球近傍天体による影響を分析し、衝突を防ぐために各国間の議論を深め、協力し合って対応するために努力するとある。現在、UNOOSAの局長はシモネッタ・ディ・ピポー(Simonetta Di Pippo)という野心的なイタリア人の天体物理学者、で、21887という小惑星には彼女の名前が付けられた。

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国連のUNOOSAの報告書「Near-Earth Objects and Planetary Defence」(PDF:2018/07/07アクセス)

 すでに2014年にはUNOOSAの要請により、地球へ危険を及ぼす天体の早期発見をになうIAWN(International Asteroid Warning Network、国際小惑星警報ネットワーク)や発見されてからの対応を検討するSMPAG(Space Mission Planning Advisory Group、宇宙ミッション計画アドバイザリーグループ)が発足し、活動を始めている。米国のNASAもIAWNやSMPAGの構成機関の一つで、UNOOSAに対して地球近傍天体の情報を提供してきた。

 これまで確認された小惑星や彗星の数は、日々増え続けている。現在、数十万個の小惑星、数百個の短期軌道の彗星、数千個の長期軌道の彗星、数十個の流星群があり、小惑星の10%以上が衛星を従えていると考えられている。

 これらの小惑星や彗星が地球へ衝突する危険のことをACH(The Asterod-Comet Impact Hazard)というが、もちろん地球が誕生して以降、この危険は大きく変化せず、今になってリスクが高くなってきているわけではない。

 だが、ここ30年ほどの研究調査の結果、地球上には直径数百mから数百kmまでの大小様々なクレーターが約200ほど発見されており、これらのクレーターは直径数十mから十数kmの小惑星や彗星が衝突した跡ということがわかった。風化などで小さなクレーターの痕跡が消えていることを考えれば、地球史で俯瞰する場合、ACHが起きる頻度は数十万~数百万年に一度程度と見積もられる。

 例えば、約3500万年前には、ユーラシア大陸東部(ロシア中部)と北米東海岸(米国バージニア州)に相次いで直径数kmの小惑星が衝突したことがわかった。これらの小惑星は、ユーラシア大陸に直径約100kmのポピガイ・クレーター(Popigai Crater)を、北米東海岸に直径約90kmのチェサピーク湾(Chesapeake Bay Crater)クレーターを作った。

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地表に残る648の衝突の痕跡。丸のサイズはクレーターの直径を表す。Via:V K. Gusiakov, et al., "Epert Database on the Earth Impact Structures." The Asteroid-Comet Hazard Conference Proceedings, St. Petersburg, 2009

どうやってACHを防ぐのか

 小惑星や彗星の衝突は、数万年後かもしれなければ数年後かもしれない。だが、これら天体の衝突のエネルギーは事実上、無制限と考えられている。恐竜を絶滅させた隕石衝突の例を見ても、その影響の大きさは地震や火山、台風といった地球上の変動や気候によるものと比べものにならないほど大きい。

 小惑星や彗星が地球へ衝突すれば、その衝撃によって周辺へ津波や地震、火災などが広がり、塵や埃が大気中へ巻き上げられて太陽光線を遮る。大気循環を乱し、植物の光合成に影響を与え、食物連鎖に大きな影響を与えるだろう。

 1994年に木星に衝突したシューメーカー・レヴィ第9彗星(Comet Shoemaker-Levy 9)の場合、地球外の惑星に彗星が衝突する様子が観測され、衝突後に木星にできたクレーターは直径約9000km(地球の直径1万2742km)に達した。この彗星の破壊エネルギーは、TNT火薬で105~107メガトン(史上最大の水爆といわれるツァーリボンバの約2倍)だ。

 チェリャビンスク州に墜ちた隕石は、重さが約1.3万トン、直径は20メートル以下と考えられているが、その破壊エネルギーはTNT火薬で約500キロトン(原爆の数十倍)となる。この隕石がそれほど大きな被害を及ぼさなかった理由は、アニメ『君の名は。』のように大気中へ突入した際、いくつかに分裂したからだ。そのままの大きさで衝突すれば、さらに被害が広がった可能性がある(※3)。

 大きさが直径20m以下の隕石は、それほど大きな影響を与えないと考えられてきた。だが、チェリャビンスクの隕石の事例から、墜ちる地域によってこの程度の天体にも警戒が必要ということになっている(※4)。

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協力して危険な小惑星や彗星を探査するゴールドストーン深宇宙通信施設(Goldstone Deep Space Communications Complex、GDSCC、米国カリフォルニア州、左)とアレシボ天文台(Arecibo Obserbatory、プエルトリコ、上)。Via:国連のUNOOSAの報告書「Near-Earth Objects and Planetary Defence」(PDF:2018/07/07アクセス)

 では、どうやって小惑星などの衝突を防ぐことができるのだろうか。ある研究者は衛星に核爆弾を打ち込むことを考え、ある研究者は小惑星を絡め取って軌道を変えるアイディを出している。だが、これらのアイディアや技術が実現可能かどうかはこれからの研究開発によるだろう。

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直径が数百mの小惑星に対し、小型ロケットをぶつけて破壊するというアイディアの例。Via:A V. Zaitsev, et al., "The Level of Rapid Response Reaction of the Planetary Defense System." The Asteroid-Comet Hazard Conference Proceedings, St. Petersburg, 2009

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タコの足のようなもので小惑星を包み込み、スイングさせて軌道を変えるというアイディアの例。Via:Z M. Ilitz, "Rotational Mass Driverr- an Efficient NEO Deflection Concept." The Asteroid-Comet Hazard Conference Proceedings, St. Petersburg, 2009

 今日は七夕だが、残念なことに天気が今ひとつだ。織姫のベガと彦星のアルタイルの間の距離は約16光年なので、光の速さの16倍のスピードでお互いに近づき合えば1年に一度の逢瀬(往復)が可能となる。とはいえ、今の技術では途方もない。

 天の川を隔てた神話も味わいがあるが、小惑星や彗星といった宇宙からの危険な訪問者にはご遠慮してもらいたいものだ。

※1:White House:June 20, 2018「Keeping America Safe: Addressing the Threat of Near-Earth Object Impacts」Office of Science and Technology Policy(2018/07/07アクセス)「National Near-Earth Object Preparedness Strategy and Action Plan」(PDF)

※2:United Nations:Office for Outer Space Affairs「Near-Earth Objects」(2018/07/07アクセス)「Near-Earth Objects and Planetary Defence」(PDF)

※3:「なぜ隕石は『君の名は。』のように大気中で分裂したのか」Yahoo!ニュース:2017/12/31

※4-1:Yu D. Medvedev, et al., "Problems of asteroid-comet hazard." Kinematics and Physics of Celestial Bodies, Vol.32, Issue5, 223-226, 2016

※4-2:B M. Shustov, et al., "On population of hazardous celestial bodies in the near-Earth space." Solar System Research, Vol.51, Issue1, 38-43, 2017