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「パスタ」を食べても太らないのは本当か

石田雅彦科学ジャーナリスト、編集者
(写真:アフロ)

 イタリア料理のパスタは「ダイエットの大敵」などといわれてきたが、パスタを食べても太らない、という論文(※1)が話題になっている(※2)。小麦粉で作られるパスタも炭水化物で、糖質を目の敵にするダイエット派によって攻撃されてきた。パスタを食べても太らないというのは本当なのだろうか。

そもそもパスタは太りにくい炭水化物

 結論から先に述べれば、デュラムコムギ(durum wheat)によって作られる乾燥パスタは意外にGI値(※3)の低い食べ物だ(※4)。GI値が低いと血糖値が上がりにくく、インスリンによる血糖値の調整と糖の吸収のバランスが取れるようになる。逆にGI値が高いと食事中に急に血糖値が上がるため、インスリンも過剰に分泌され、糖を溜め込んで太りやすくなる。

 つまり、パスタを食べても太らない、というのはそもそも間違ってはいないといえる。ちなみに、ジャポニカ米の脱穀白米のGI値が76なのに比べ、パスタのGI値は58でパスタのほうが白米より血糖値が上がりにくいことがわかる。小麦粉で作られた白パン(食パン)のGI値は70前後だ。

 冒頭の論文は、カナダのトロント大学やセント・マイケルズ病院などの研究グループによるものだ。食事によってパスタを含む低GI値グループ(オートミール、豆類など)と高GI値グループ(白パン、ベイクドポテト)に分けて比較した過去の32研究論文(総参加者2448人)をシステマティックレビューとメタアナリシスで検証した。

 これらの研究論文で得られた結果をもとに分析してみると、低GI値の食事を摂ったグループのほうが高GI値の食事を摂ったグループよりも体重が減り(-0.63kg)BMI値も減少した(-0.26、研究論文18)ことがわかったという。

 32論文の中でパスタを含む低GI値の食事グループで体重が増加した研究論文は9つあり、体重とBMI値、体脂肪率以外のウエスト周りと腹囲と尻回りの比率、内臓脂肪を評価するSAD(sagittal abdominal diameter)での評価では、低GI値グループのほうが良好ということはいえなかった。

 パスタを含む低GI値の食事を摂ったグループと高GI値の食事を摂ったグループとを比べれば、当然ながら前者のほうが太りにくいという結果が出ると考えられる。低GI値グループがパスタばかり食べていたわけではなく、いくつかの低GI値の食物を選択して食べてもらったという研究論文を比較したことになる。

パスタ食だけで比較できていない

 この論文の研究者は、パスタのみで比較した論文を抽出することはできていない。一定期間、炭水化物はパスタしか食べないという研究は非現実的だろう。

 いずれにせよ、パスタが白米や白パンに比べて血糖値を上げにくい低GI値の炭水化物ということは間違いなく、適量のパスタを食べたからといって必ずしも体重が増えるわけではない。糖質制限ダイエットの弊害も取りざたされているが、炭水化物を含む必須栄養素をバランス良く摂ることこそが重要だ。

 パスタのような低GI値の炭水化物を食べることで糖質を摂るようにする食事法がある。この論文の研究者は、パスタを含む地中海食を使って児童で行われたスペインの研究(※5)を紹介しているが、肥満気味の児童の11.3%がこうした食事によって減量に成功したという(平均体重児童では2.6%)。

 パスタはスパゲティ、マカロニ、リングイネなどに形状を変え、小麦の種類や卵の混ぜ具合など成分も多様で、乾燥パスタや生パスタなどの加工法にもいろいろあるが、総じてGI値が低いことは共通している。食物繊維が豊富なので満腹感を得やすく、消化吸収が緩やかで腹持ちもいいパスタを食べることで、エネルギーの総摂取量を減らすことができるだろうと研究者はいう。

 だが、オイルを大量に使うなど、パスタと一緒に脂質の多い食べ物を食べるとインスリンの抵抗性が上がり、炭水化物の代謝に悪い影響を及ぼすようだ(※6)。特にパスタはオイルやバター、クリームなどと相性がいいのでカロリーや脂質の摂取過多にも要注意だし、なんでもそうだがドカ食いなどの量の加減も大事だろう。

 炊飯後の米1合は約300グラム強になるが、その点でも一般的なパスタ1食100グラムは食べ過ぎかもしれない。もちろん、パスタも茹でると量が増える(約2〜3倍)。よくいわれるように、食べ合わせや食べる順番(セカンドミール効果、※7)に気をつけ、美味しくパスタを食べたいものだ。

※1:Laura Chiavaroli, et al., "Effect of pasta in the context of low- glycaemic index dietary patterns on body weight and markers of adiposity: a systematic review and meta-analysis of randomised controlled trials in adults." BMJ Open, doi:10.1136/bmjopen-2017-019438, 2018

※2:「炭水化物ダイエットに朗報?パスタで体重減少効果を確認」Yahoo!ニュース:2018/04/07

※3-1:GI値:Glycemic index、グリセミック・インデックスのことで、ブドウ糖を100の規準にしたときの食事後の血糖値の上がりやすさを示す指標。シドニー大学のGIサイトによればデュラムコムギの全粒粉パスタを塩を入れた湯で10分ボイルした後のGI値は58。米の長粒米はGI値76、中粒米はGI値89、ジャポニカの短粒米は玄米でGI値62、白米でGI値76となっている。

※3-2:GI値に関しては指標としての効果に議論がある。例えば:Thomas MS. Wolever, et al., "Glycemic index is as reliable as macronutrients on food labels." The American Journal of CLINICAL NUTRITION, Vol.105, Issue3, 768-769, 2017

※4:Wallace H. Yokoyama, et al., "Effect of Barley β‐Glucan in Durum Wheat Pasta on Human Glycemic Response." Cereal Chemistry, Vol.74, Issue3, 293-296, 1997

※5:Bibiloni MDM, et al., "Improving diet quality in children through a new nutritional education programme: INFADIMED." Gaceta Cantitaria, Vol.31(6), 472-477, 2017

※6:Sylvie Normand, et al., "Influence of dietary fat on postprandial glucose metabolism (exogenous and endogenous) using intrinsically 13C-enriched durum wheat." British Journal of Nutrition, Vol.86, Issue1, 3-11, 2001

※7:D J. Jenkins, et al., "Slow release dietary carbohydrate improves second meal tolerance." The American Journal of Clinical Nutrition, Vol.35, Issue6, 1339-1346, 1982

※2018/04/14:17:30:※3-2:GI値に関しては指標としての効果に議論がある。例えば:Thomas MS. Wolever, et al., "Glycemic index is as reliable as macronutrients on food labels." The American Journal of CLINICAL NUTRITION, Vol.105, Issue3, 768-769, 2017を追加した。

科学ジャーナリスト、編集者

いしだまさひこ:北海道出身。法政大学経済学部卒業、横浜市立大学大学院医学研究科修士課程修了、医科学修士。近代映画社から独立後、醍醐味エンタープライズ(出版企画制作)設立。紙媒体の商業誌編集長などを経験。日本医学ジャーナリスト協会会員。水中遺物探索学会主宰。サイエンス系の単著に『恐竜大接近』(監修:小畠郁生)『遺伝子・ゲノム最前線』(監修:和田昭允)『ロボット・テクノロジーよ、日本を救え』など、人文系単著に『季節の実用語』『沈船「お宝」伝説』『おんな城主 井伊直虎』など、出版プロデュースに『料理の鉄人』『お化け屋敷で科学する!』『新型タバコの本当のリスク』(著者:田淵貴大)などがある。

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