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なぜ温暖化でも「陸地は増え続ける」のか

石田雅彦サイエンスライター、編集者
(写真:ロイター/アフロ)

 国土地理院が、2017(平成29)年10月1日現在の日本の国土面積を発表した。その面積は37万7973.89平方キロメートル。昨年2016年は37万7971.57平方キロメートルだったから2.32平方キロメートル増えたことになる。

増え続ける日本の国土

 この2.32平方キロメートルは、ほぼ皇居と皇居外苑を合わせた総面積と同じで東京ドームだと49個分くらいだ。国土地理院によれば、面積増加の主な原因は、東京都小笠原村西之島の噴火活動による島の拡大や埋立などによるものという。

 日本の国土面積は、1953(昭和28)年に奄美諸島が、1972年(昭和47年)5月15日に沖縄(琉球諸島及び大東諸島)が加えられ、測定による微修正で多少の増減はあるが、戦後ほぼ右肩上がりで増え続けてきた。

 地球の温暖化で海面上昇などが起き、海抜の低い土地が浸食され、陸地がどんどん小さくなっている、というのはよく耳にする。前の氷河期(約7万〜1万年前)が終わってから地球は徐々に温暖化(摂氏4〜7度)し、およそ1世紀に1メートル強ずつ海面が上昇し続けている。氷河期以降、120メートルくらいの海面上昇があったとされ、残りの氷河が溶けてしまえば海面は現在より65メートル高くなるようだ(※1)。

 これにより東京や大阪、イタリアのベニスなど海岸沿いの低地に位置する都市やオランダ、バングラデシュなどの海抜の低い国土が多い国々に深刻な影響を与えるのではないかといわれている。珊瑚礁に囲まれたマーシャル諸島やモルディブなども海面上昇で危機に瀕している。

 そんな島しょ国の一つにツバル(Tuvalu)がある。南太平洋に浮かぶ人口1万人に満たないミニ国家で、国土の面積は約26平方キロメートル。日本が1年に増やした面積の約10倍ほどしかない。

 ツバルの海抜はほとんどが珊瑚礁の島なので低く、最も海面から高い土地で4.5メートルといわれている。台風や高波に対しても脆弱で、しばしば住居や道路への浸水が被害を及ぼしているようだ。実際、気候変動に関する政府間パネル(IPCC)によれば、ツバル周辺の海は年に最大3.5ミリほどだが上昇している。

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太平洋のマーシャル諸島にあるクェゼリン環礁(Kwajalein Atoll)の1950〜2000年の海面上昇データ。青線が潮位計の海面水位、赤線は値を調整したもの、緑線は人工衛星から得た水位。ツバルの北、約800キロメートルにある。Via:IPCC:Climate Change 2007: Working Group I: The Physical Science Basis

 ただ、ツバルの場合、高潮などの被害は海面上昇ではなく、地盤沈下などが影響しているのではないか、あるいは開発による人災なのではないか、という指摘があるのも事実だ。これについて、英国の科学雑誌『nature』系の「nature Communications」に新たな論文(※2)が出た。

南太平洋ツバルはどうなっているか

 ニュージーランドのオークランド大学の研究グループによるもので、過去40年間のデータを分析した結果、世界平均の約2倍(3.9±0.4ミリ/年)のペースで海面上昇が起きていたが、ツバルの国土自体は2.9%(約73.5ヘクタール=0.735平方キロメートル)増えていたという。また、ツバルには101の島や環礁があり、そのうち74%で面積が増え、最も増えていたケースでは2.2%増だった。さらに、27%で減っていたが、最も減っていた環礁でもその減り方は0.01%に満たなかった。

 海面上昇が認められているのにも関わらず、なぜこんな現象が起きているのだろう。研究者は、海面上昇による海流や波浪の強さなどの環境変化が起き、浸食される海岸線と逆に堆積する海岸線の差が影響しているのではないか、といっている。こうした変化により珊瑚礁が壊され、その堆積物が移動して島の面積を増やしたことも考えられる。

 同時に、壊された珊瑚礁が回復され、こうした繰り返しにより海面上昇による浸食を補っても陸地面積を増やし続けているのではないか、というわけだ。こうした現象は主に人が住んでいない島で起きており、人為的な影響はあまり考えにくいという。

 ただ海面上昇が続いていることは確かで、今後、ツバルの陸地面積がどう変化するか予測できない。海岸線の回復や堆積も不安定な挙動で起きている。特に面積の大きな島で陸地の増加がみられ、小さな島から大きな島へ移住することを考慮したほうがいいのではないか、とも研究者は指摘している。

 ツバルの海面上昇については依然として議論が続いているが、いずれにせよ、不安定な環境変化に置かれていることは間違いない。1日や1年で急激に海面が上昇することは考えにくいが、今から対応をとっておくというのはツバルに限ったことではないだろう。

※1:Stefan Rahmstrof, "A New View on Sea Level Rise." nature reports climate change, Vol.4, 2010

※2:Paul S. Kench, et al., "Patterns of island change and persistence offer alternate adaptation pathways for atoll nations." nature communications, Vol.9, article number: 605, 2018

サイエンスライター、編集者

いしだまさひこ:北海道出身。法政大学経済学部卒業、横浜市立大学大学院医学研究科修士課程修了、医科学修士。近代映画社から独立後、醍醐味エンタープライズ(出版企画制作)設立。紙媒体の商業誌編集長などを経験。日本医学ジャーナリスト協会会員。水中遺物探索学会主宰。サイエンス系の単著に『恐竜大接近』(監修:小畠郁生)『遺伝子・ゲノム最前線』(監修:和田昭允)『ロボット・テクノロジーよ、日本を救え』など、人文系単著に『季節の実用語』『沈船「お宝」伝説』『おんな城主 井伊直虎』など、出版プロデュースに『料理の鉄人』『お化け屋敷で科学する!』『新型タバコの本当のリスク』(著者:田淵貴大)などがある。

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