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健康のためには「自転車」というこれだけの理由

石田雅彦科学ジャーナリスト、編集者
(写真:アフロ)

 クルマに乗る生活に慣れてしまうと途端に運動不足になる。都会より地方都市のほうに運動不足が多い、という研究もある(※1)。2万枚のアンケートなどを分析したこの研究によれば、通勤の交通利用の種別はBMI値やHbAlc値などに影響するようだ。当然だが、クルマ移動のほうが数値が悪くなる。

サイクリングが効果的

 都会人はけっこう歩く。通勤に自転車を使っている人間も多い。

 今年、オランダの医学雑誌『The LANCET』に掲載された調査研究によれば、身体を使った運動はその種類に限らず、心臓病による死亡リスクを20%減らすことができる(※2)。この論文の研究者らは17カ国、13万人を調べた結果、健康でいたいなら1日30分1週間で150分の運動をすべき、と言っている。

 移動手段と健康についての研究では、特に自転車、サイクリングが健康維持に効果的、という論文がこれまでけっこう多く出ている。

 最近のものでは、26万3450人を対象に、ウォーキング、サイクリング、2つのミックス、ほとんどクルマという主な移動手段別に調べた英国の研究(※3)がある。この調査期間である5年間に2430人が亡くなった(心血管疾患関連496人、がん関連1126人)が、死亡リスクとの比較でみると自動車移動に比べて自転車移動のリスク59%、ミックス76%と低かった。また、がんの罹患率や死亡率、心血管疾患の罹患率や死亡率についてもそれぞれ自転車移動者のリスクは低かったことがわかっている。

 サイクリングと健康について古いものでは、英国で心筋梗塞との関係を調査した1990年の研究もある(※4)。公務員について調べたこの研究によると、7%がサイクリングをし、この集団をサイクリングをしない集団と比べたところ、心筋梗塞のリスクが約半分だった、という。

 また、デンマークで男性1万7265人、女性1万3375人を対象にして余暇の運動を調べた調査研究(※5)によれば、ほかの運動などの影響を除去した後、自転車通勤は死亡リスクを約40%も減少させる効果があったらしい。この研究では、自転車に乗っている平均時間は週に3時間で、女性の自転車利用は男性の約1/8しかいなかった。

自転車の魅力とは

 ちょっと自転車に乗れば、前述したような1日30分1週間150分程度の運動が手軽にできる。これにより、体重の増加を防ぎ、心肺機能を衰えさせず、糖尿病や心血管疾患のリスクを減らす効果が期待できるだろう。

 外へ出て自転車に乗るとわかるが、この世界は意外に起伏に富んでいる。そうした登坂運動による身体的な負荷がかかるのも自転車の特徴だ。効果的な反復運動が自然にできるし、自転車は足首や膝への負担も少ない。

 サイクリングには、スポーツジムのエアロバイクにはない魅力もある。まず、外で自転車に乗ることで精神衛生上の利点がある。ランニングでは味わえない急激な景色の変化、風を感じ、常に新しい空気を吸い込むこともできるだろう。ダウンヒルの爽快感は辛い坂道のご褒美だ。また、世代や性別を問わず、家族や友人などと楽しむこともできるのも自転車の魅力だろう。

 ところで、自転車のサドルにまたがることで、男性性機能や排尿機能に障害が出るのではないか、という調査も以前からある。ようするに、自転車に乗るとED(Erectile Dysfunction、勃起障害)になりやすい、というわけだ。

 これについて最新の調査研究では「心配ない」らしい。2017年に出された報告によれば、自転車によく乗る回答者と水泳やランニングをする回答者を性機能、排尿機能、前立腺などの症状について比較したところ、男女とも両群に有意な差はほとんどないことがわかっている(※6)。

 また、自転車が社会インフラに与える影響について、スペインのセビリアで調査した研究がある(※7)。この論文によれば、多種多様な公益性とコストを比較したところ、自転車の利用を公的に推し進めた場合、平均で130%の社会的な利益が見込まれるらしい。

 自転車利用が健康にいいなら医療費の削減に効果があるはずだ。さらに結果的に、交通渋滞の緩和や二酸化炭素排出量の低減などにもつながる、と言える。自動車や歩行者などとの事故に注意し、交通法規とマナーを守って気持ちよくペダルを漕ごう。

※1:村田香織、室町泰徳、「個人の通勤交通行動が健康状態に与える影響に関する研究」、土木計画学研究・論文集、第23巻、2006

※2:Scott A Lear, et al., "The effect of physical activity on mortality and cardiovascular disease in 130,000 people from 17 high-income, middle-income, and low-income countries: the PURE study." The Lancet, 2017; DOI: 10.1016/S0140-6736(17)31634-3

※3:Carlos A. Celis-Morales, et al., "Association between active commuting and incident cardiovascular disease, cancer, and mortality: prospective cohort study." the bmj, Vol.357, 2017

※4:J N. Morris, "Cycling and health. in: Cycling and the Healthy City." Friends of the Earth, London, 1990

※5:Lars Bo Andersen, Peter Schnohr, Marianne Schroll, et al., "All-Cause Mortality Associated With Physical Activity During Leisure Time, Work, Sports, and Cycling to Work." Archives of Internal Medicine, Vol.160, Issue11, 1621-1628, 2000

※6:Mohannad A. Awad, et al., "Cycling and male sexual and urinary function: results from a large, multinational, cross-sectional study." The Journal of Urology, doi.org/10.1016/j.juro.2017.10.017, 2017

※7:Raul Brey et al, "Is the widespread use of urban land for cycling promotion policies cost effective? A Cost-Benefit Analysis of the case of Seville." Land Use Policy, 2017. DOI: 10.1016/j.landusepol.2017.01.007

科学ジャーナリスト、編集者

いしだまさひこ:北海道出身。法政大学経済学部卒業、横浜市立大学大学院医学研究科修士課程修了、医科学修士。近代映画社から独立後、醍醐味エンタープライズ(出版企画制作)設立。紙媒体の商業誌編集長などを経験。日本医学ジャーナリスト協会会員。水中遺物探索学会主宰。サイエンス系の単著に『恐竜大接近』(監修:小畠郁生)『遺伝子・ゲノム最前線』(監修:和田昭允)『ロボット・テクノロジーよ、日本を救え』など、人文系単著に『季節の実用語』『沈船「お宝」伝説』『おんな城主 井伊直虎』など、出版プロデュースに『料理の鉄人』『お化け屋敷で科学する!』『新型タバコの本当のリスク』(著者:田淵貴大)などがある。

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