「タバコ増税」は税収を上げて喫煙率を下げる

(写真:ロイター/アフロ)

 財務省から値上げ認可を受けたフィリップ・モリス・ジャパンが、タバコの小売価格を値上げしたのは10月1日のことだ。当初はラークやパーラメントなども値上げする予定だったが、マールボロ銘柄のみがすべて10円値上げされた。同社のリリースによれば、日本国内のタバコ市場における「動向等を、総合的に考慮して判断したもの」のようだ。

 一方、こうしたタバコ産業の独自値上げとは別に、財務省が来年度の税制改正でタバコの増税を検討、という報道が夏前頃からチラホラ出され始めた。喫煙者や小売店などからの反発を緩和するため、どうもマスメディアを通じて情報を小出しにしている様子が見える。

段階的に60円の増税か

 これら各紙報道によれば、財務省は来年(2018年)から1年に1本あたり1円程度、少しずつ増税し、最終的に1本あたり3円、1箱20本パッケージで60円の増税(負担率増)を目論んでいるらしい。JT(日本たばこ産業)などのタバコ企業は、増税によって小売価格を上げるはずで、段階的な増税にどう対応するかはわからないが、小売価格も100円から150円ほど値上げされることになりそうだ。

 冒頭でフィリップ・モリス・ジャパンの例を挙げたが、タバコ自体の値上げは財務省の認可を経て実行される。財務省は、紙巻きタバコに対して本数に応じた課税をするが、本数ではないパイプ用のタバコ葉については、紙巻きタバコが1本約1gと換算し、タバコ葉1gあたりの課税になっている。

 来年からのタバコ増税で財務省は、ここのところ人気の「加熱式タバコ」の増税も考えているようだ。加熱式タバコはパイプタバコに区分されるが、タバコ葉が入ったカートリッジ式のスティックやカプセルの重量に応じた課税方法を採っている。つまり、中に詰められたタバコ葉の重量1gずつではなく、スティックやカプセルという容器を合わせた重さに対しての税率としているのだ。

 財務省の主税局広報に確認したところ、1箱440円の紙巻きタバコの税額が277.47円(タバコ税244.88円、消費税32.59円、負担率63.1%)だ。これに対し、加熱式タバコのアイコス(フィリップ・モリス・ジャパン、ヒートスティック20本入り小売価格460円)は税額226.30円(負担率49.2%)、グロー(ブリティッシュ・アメリカン・タバコ、ネオスティック20本入り小売価格420円)は税額151.10円(負担率36.0%)となっている。

 一方、日本のプルーム・テック(JT、カートリッジ1本とカプセル5個入り小売価格460円)は税額68.35円(負担率14.9%)だ。外国製のアイコスやグローに比べても半分以下、紙巻きタバコの負担率63.1%に比べてもかなり低いことがわかる。

 どうしてこれほど違うのかと言えば、財務省によるとスティックやカプセルを合わせた重量が違うからだ。アイコスは15.7g、グローが9.8gで、プルーム・テックは2.8gでしかない。プルーム・テックのカプセルは5個だが、JTによれば紙巻きタバコに換算して約30本くらいの分量になるそうだ。つまり、プルーム・テックはカプセルも軽量で、しかも1箱に5個しか入っていないから負担率が低い、ということになる。

ニコチンの量で課税するのか

 このあたりを財務省がどう解釈し、商品ごとに重量が異なる各社の負担率に折り合いを付けるのか興味深いが、そもそもアイコスとグロー、そしてプルーム・テックとではタバコ葉から出るエアロゾルやニコチンを吸引する方法が違う。前者はタバコ葉を直接加熱し、燃やさないまでもくすぶらせて発生したエアロゾルを吸うのに対し、後者は繊維に染みこませた液体を加熱して蒸気を発生させ、カプセルの中のタバコ葉に通過させたエアロゾルを吸う。加熱式タバコの英語表記が「Heat-not-burn」となる理由だ。

 米国では、加熱式タバコがまだFDA(米国食品医薬品局)の認可を得ていない。一方、ニコチン入りリキッドを加熱して蒸気を吸い込む電子タバコはかなり広がっている。FDAは2017年7月にタバコのニコチン総量規制に言及し、デバイス開発に猶予を与えるためか規制時期を遅らせると発表した。

 電子タバコは既存のタバコ産業以外のサードパーティ製が多く出回っており、FDAは電子タバコから加熱式タバコへ商品構成を移行させ、既存タバコ産業にアドバンテージをつけさせるための時間稼ぎをしているのかもしれない。日本でもタバコ葉の量で課税が難しくなれば、税収確保のために新しい方策が必要になるだろう。

 一方、加熱式タバコからどれくらいのニコチンや化学物質が出ているか、まだよくわかっていない。スイスのベルン大学などの研究者がアイコスで調べたところによれば、ニコチンは301マイクログラム(紙巻きタバコ361マイクログラム)、毒性の強いアクロレイン0.9マイクログラム(不飽和アルデヒド、紙巻きタバコ1.1マイクログラム)、発がん性が確認されているホルムアルデヒド3.2マイクログラム(紙巻きタバコ4.3マイクログラム)、刺激性があり環境中への毒性が確認されているアセナフテン145マイクログラム(紙巻きタバコ49マイクログラム)などとなっており、成分によって紙巻きタバコよりも多く出ていることがわかる(※1)。

 日本も加盟しているWHOのタバコ規制枠組条約(FCTC)の主要加盟国で、タバコ問題についての国際的なコホート調査をしている国際タバコ規制政策評価プロジェクト(ITC)の報告書によると、タバコ小売価格が2倍以上に上がった南アフリカではタバコの売上げは33%減ったが税収は8倍に上がり、米国では2008年からタバコの小売価格が22%上がった結果、売上げは9.7%~13.3%下がった一方で税収は129%伸びた、と言う。

 多くの調査研究では、生活習慣病にかかり始める中高年の禁煙衝動が強い傾向があり、若年層や女性、低所得者層などに対する禁煙サポートの必要性が強調されることが多い。一方、増税を含むタバコの価格上昇は、若年層や低所得者層の喫煙開始や喫煙率を下げる効果があることが知られている。残るのは、タバコをなかなか止められない重度の喫煙者や女性に対するサポートとなりそうだ。

 つまり、タバコ増税はタバコの消費を減らすが税収はむしろ上がる可能性が高く、消費が減ることにより喫煙率を下げることができる。一方、加熱式タバコ(電子タバコを含む)について、まだ調査研究は多くない。

 また、加熱式タバコは若年層が紙巻きタバコへ手を伸ばすきっかけになるという調査もある。増税対象問題に限らずその健康への影響評価も含め、昨今の人気ぶりから今後は大きな議論を巻き起こす可能性が高い。

※1:Reto Auer, Nicolas Concha-Lozano, Isabelle Jacot-Sadowski, et al., "Heat-Not-Burn Tobacco Cigarettes Smoke by Any Other Name." JAMA Intern Med. 2017