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電子タバコも「動脈の老化」を速めさせる

石田雅彦サイエンスライター、編集者
(写真:ロイター/アフロ)

 いわゆる電子タバコ(電気式加熱タバコ、e-cigarette)が人気だが、健康に悪いのか本当のところ、気になっている喫煙者も多いだろう。この電子タバコの健康影響について、米国の生理学会(American Physiological Society、APS)で新しい研究が発表された。

 これは米国ウェストバージニア大学の研究者によるポスター発表(※1)だ。米国生理学会のリリースによれば「電子タバコの使用は心血管の老化を加速させる(E-Cigarette Use Accelerates Effects of Cardiovascular Aging)」という意味の発表で、メスのマウスを使い、電子タバコから気化させたニコチン18mg/ml添加のカプチーノ風味のエアロゾルに暴露(急性:1回5分、慢性:4時間/1日、5日/週、8ヵ月間:※2)し、大動脈の硬さを評価した。

電子タバコも紙巻きタバコと同じ

 研究の結果、急性暴露では細動脈の直径(ベースライン)に変化はなかったが、暴露後60分すると細動脈の直径が平均31%減少した。また、ニコチン刺激による血管拡張の減少もみられた。

 一方、慢性暴露したマウスでは、比較群のマウスと比べ、大動脈の硬さが2.5倍になっていた。また、比較群マウスの大動脈の柔らかさ(弛緩率)が90%だったのに比べ、慢性暴露マウスの大動脈では70%に落ちていた。つまり、通常の加齢による動脈の老化より、電子タバコ暴露群のほうが悪化していた、ということだ。

 研究者によれば、これは電子タバコによる血管に対する影響をマウスの生体内で最初に示した研究だそうだ。これにより、電子タバコによる急性暴露が血管機能に悪影響を及ぼし、また慢性暴露は加齢による大動脈硬化を速め、血管の拡張性を損なうことがわかった、と言う。

 電子タバコについてのこの研究結果は、紙巻きタバコのものと同じだ。ニコチンが体内に入ることで、血圧が一時的に上がり心拍数も増える。ニコチンが添加された電子タバコも同様の作用があるのだろう。

 また、紙巻きタバコを吸うと、煙に含まれた酸化物質により血管収縮や動脈硬化が起き、心筋梗塞などの心血管疾患を引き起こしやすくなることがわかっている。今回の発表をした研究者は、電子タバコも「危険」と警告している。

電子タバコの研究はまだ途上

 今年5月には、スイスのベルン大学の研究者がフィリップモリス社のiQOS(マルボロ・レギュラー)から出る煙の成分を分析したところ、紙巻きタバコに匹敵する有害物質が出ていた、という研究報告を米国の医学雑誌『JAMA(The Journal of the American Medical Association)』に出した。それによれば、ホルムアルデヒドはiQOSが3.2μg、紙巻きタバコ(ラッキーストライク・ブルーライツ)は4.3μg(いずれも1本当たり)であり、アセナフテンという多環芳香族炭化水素にいたってはiQOSのほうが約3倍多かった(※3)。

 一方、この研究結果に対し、フィリップモリス社はPubMedコメントに実験手法などに関する反論(5月31日)を即座に出している。ちなみにアセナフテンは「環境中に放出してはならない」物質で「長期的影響により水生生物に非常に強い毒性」がある、とされる(※4)。

 気体の中に微粒子が浮かんでいる状態を「エアロゾル(aerosol)」というが、ヘアスプレー、火事の煙、光化学スモッグ、粉じん、花粉などもエアロゾルだ。このエアロゾルにタバコの煙も含まれるが、そもそもiQOSのような気化式の電子タバコの場合、タバコの煙とは異なった微粒子となる。電子タバコが「禁煙サポートに効果がある」という説も出ていて、実際に米国で喫煙率が下がった理由に電子タバコを挙げる研究者もいる(※5)が、こうした微粒子を吸い込むことで、体内でどんな悪影響が起きるか、まだはっきりとわかってはいない。

※1:Mark Olfert, Stuart Clayton, Evan DeVallance, Kayla Branyan, Chris Pitzer, Matt Breit, Hannah Hoskinson, Kyle Mandler, Brett Erdreich, Powsiri Klinkhachorn, Paul Chantler, "Acute and Chronic effects of E-Cigarette Vapor Exposure on Vascular Function : New Friend or Old Foe?", American Physiological Society Conference: Cardiovascular Aging: New Frontiers and Old Friends, 2017

※2:8ヶ月=32週。マウスのメスでは、〜6週齢=若齢、12週齢〜13週齢=適齢、38週齢〜50週齢=老齢、という大まかな目安が使われている。

※3:Ret Auer et al., "Heat-Not-Burn Tobacco Cigarettes:Smoke by Any Other Name." JAMA Intern Med. May 22, 2017

※4:国際化学物質安全性カード「アセナフテン

※5:Shu-Hong Zhu, Yue-Lin Zhuang, Shiushing Wong, Sharon E Cummins, Gary J Tedeschi, "E-cigarette use and associated changes in population smoking cessation: evidence from US current population surveys." BMJ, 2017; j3262 DOI: 10.1136/bmj.j3262

サイエンスライター、編集者

いしだまさひこ:北海道出身。法政大学経済学部卒業、横浜市立大学大学院医学研究科修士課程修了、医科学修士。近代映画社から独立後、醍醐味エンタープライズ(出版企画制作)設立。紙媒体の商業誌編集長などを経験。日本医学ジャーナリスト協会会員。水中遺物探索学会主宰。サイエンス系の単著に『恐竜大接近』(監修:小畠郁生)『遺伝子・ゲノム最前線』(監修:和田昭允)『ロボット・テクノロジーよ、日本を救え』など、人文系単著に『季節の実用語』『沈船「お宝」伝説』『おんな城主 井伊直虎』など、出版プロデュースに『料理の鉄人』『お化け屋敷で科学する!』『新型タバコの本当のリスク』(著者:田淵貴大)などがある。

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