「おそ松さん」ヒットはたまたま?戦略?→”オタク女子狙い”のさじ加減。

TVアニメ「おそ松さん」公式サイトより

赤塚不二夫の名作「おそ松くん」をリメイクしたテレビアニメ「おそ松さん」。今、この「おそ松さん」が若い女性を中心に大ヒットしているのを知ってますか?

「おそ松さん」とは、ギャグマンガ界の巨匠・赤塚不二夫の生誕八十周年記念作品。昨年10月よりテレビ東京系で放送されていて、現在2クール目に突入しています。

原作と大きく違うところは、小学生で見た目も性格も区別のなかった6つ子たちが、それぞれ個性を持った20代前半のニートへと成長していること。この成長ぶりと、過激なパロディ描写がSNSで話題を呼び、人気が爆発中なのだとか。

「アニメDVDは1万枚超えればヒット」と言われる中、ブルーレイ・DVD第1巻が7.9万枚を記録、「おそ松さん」を特集したアニメ雑誌「アニメージュ」は36年ぶりに重版するなど類を見ないヒットとなっています。(日経MJ 2016年1月18日より)

このヒットの要因を分析していくと、「オタク女子」を取り込む緻密な戦略が見えてきました。

オタク女子を取り込む完璧戦略

分からないことがあったらまずはヒアリング、ということで、現在「おそ松さん」に夢中なある女子大生に、なぜここまで流行っていると思うか聞いてました。

すると「おそ松さんは女オタクの取り込み方がうまいんです」という答えが返ってきました。更に、彼女は「全方向の女オタクを落としに来ている」といいます。この「全方向の女オタク」とは一体なんなのでしょう。

昨年、NHKの情報番組「あさイチ」で「オタク女子増殖中!?」と銘打ちオタク女子の生態を解説する特集が組まれました。そこでは、以下のようなオタク用語が解説されていました。

声豚(こえぶた)…声優を熱狂的に好む男性・女性の総称。

腐女子(ふじょし)…男性同士の恋愛を扱ったマンガやアニメ、また男性キャラクター同士の恋愛を妄想することを好む女性

夢女子(ゆめじょし)…男性キャラクターと自分との恋愛を夢見る女性

更には、ライトなオタク層である「リア充オタク」なども加わり、ひとえに「オタク」といっても好みが細分化されているのです。(もちろん「腐女子兼夢女子」といったように個人が複数の属性を併せ持っていることも少なくないのですが)

彼女によれば、その全方位へ向けた仕組み作りがなされているのが、おそ松さん、というわけなのです。

配役に引き寄せられる声優ファン

「おそ松さん」に登場する6つ子を演じるのはそれぞれ主役級とも言える豪華声優陣。アニメ好きであれば、このキャストを見るだけで「豪華!とりあえず見てみよう」というキャスティングです。テレビ東京のアニメ制作部では、脚本を作る前から人気の実力は声優の起用を決め、それぞれの声優のキャラクターを反映して六つ子の個性を際立たせたといいます。(日経MJ 2016年1月18日より)

この強力な布陣が固定の声優ファンを取り込みました。彼女たちは好きな声優の為ならば出費も拒まない層ですから確実にDVDなどにお金を落としてくれることが見込めます。

6つ子の関係が気になる腐女子

男性キャラクター同士の関係性から、キャラクター同士の恋愛を妄想するのが好きな腐女子。彼女たちにとっては、作品自体が恋愛をテーマにしていなくても1対1の関係性が成立していれば「男性キャラ同士の妄想」が可能であり、十分魅力的に映ります。

それぞれタイプの違う6つ子が兄弟というある種一番強い関係で結ばれていることは、妄想するのにうってつけとも言えます。

母性本能をくすぐられる夢女子

成長したけれど、ニートでどこか間の抜けた6つ子たち。この「ダメ男」っぷりに母性本能をくすぐられる女性は後を絶ちません。しかも、「おそ松さん」には男性キャラクターと自分との恋愛を夢見る夢女子にはたまらない仕掛けがありました。それは、エンディングテーマ。

エンディング曲「SIX SAME FACES~今夜も最高!!!!!! ~」では、週替わりで6つ子がそれぞれ女性を口説こうと語り掛けてきます。6つ子を演じるのは全員人気声優。甘い声に口説かれることでハマっていく「夢女子」は少なくないといいます。

これら3タイプそれぞれのオタク女子に深く刺さったことが、グッズやDVDの爆発的な売り上げにつながったと言えるでしょう。しかし、これだけではあくまで「オタク世界」のヒット。やはり世間的なブームにまでなったのは、「リア充オタク」の存在が大きいでしょう。

すぐに話題にのりたい!リア充オタク

近年新興勢力として注目されている、リア充とオタクを併せ持つ「リア充オタク」と呼ばれるライトなオタク層。以前、ライトなオタク層に「ラブライブ」が受けているという記事を書きましたが、この「おそ松さん」もライトなオタク層のニーズに応えています。

「ラブライブ!」の人気を支える「ファッションオタク」。

1話完結であるストーリーは、見逃しても安心だし、日常を描くギャグアニメなので内容としてもとっつきやすい。また、6つ子の顔と名前が一致するようになるだけでも「詳しくなった」感が出て、ディープに語っている感覚を味わえます。推しメンならぬ「推し松」は誰かを話すだけで簡単に友人と盛り上がれるのです。

更に、今どきのアニメと違った柔らかいタッチの愛らしいキャラクターデザインも特徴のひとつ。「アニメグッズ」ではなくサンリオやディズニーの延長線の「キャラグッズ」として手に取るファンもいるとか。

このように、様々な層のオタク女子のニーズに応えてくれた「おそ松さん」。当然、CMキャンペーンなどに起用されはじめたり、と一部のものではなくなりつつあります。

”計算されたヒット”は本当か?

と、ここまで見てみると、事前にきちんとマーケティングされ、作り込まれた大ヒットのように見えますが、結果論であることも確か。エンタメ業界において、「間違いなくヒット」と目されながら大コケした作品がどれだけあることでしょう。

エンタメ業界のみならず、すべての業界が、ユーザーの心をとらえようと日夜心を砕いています。それは私をはじめとする出版業界も同じです。

その際大事になってくるのが、ターゲットをどこまで広げるのか、という永遠のテーマ。つまり、狭くしすぎるとパイが見込めない。かといって広くしすぎるとぼんやりとあいまいなものになって、誰にも売れない。

広げすぎない、狭めすぎない

ターゲットをオタク女子に絞り込みつつ、ディープにしすぎない。オタク女子からスタートしつつ、周辺も狙う。豪華声優のキャスティングで最低限の保険は打ちつつ(これだって確実はないのですが)、演出や工夫での波及効果も狙う。かといって、生ぬるくするわけにはいかない……。その微妙で繊細で、一歩間違えたらただの”痛い作品”になりかねないところを行ったり来たりして「張る」のが、エンタメというギャンブルなわけです。

当初個人的には「おそ松くんのリメイク? だいたい、もとの作品自体、よく知らないし!」ぐらいの印象だったのですが、この大当たりにはもう脱帽するしかありません。自分のフィールド・嗜好とは別ジャンルながら、その戦略と幸運を素直にたたえたいと思います。

それにしても、うまくやったよなあ。うらやましいなあ(笑)

(作家 「察しない男 説明しない女」著者 五百田 達成)