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男が妻から”卒業”したくなる理由【ゲス川谷・ベッキー不倫騒動】

五百田達成作家・心理カウンセラー
(写真:アフロ)

1月11日は成人の日。3連休に合わせて、各地では自治体主催による成人式が行われました。進学をきっかけに進路が離れてしまった幼なじみや地元の友達と会って旧交を温めるのは、とても楽しいひとときです。

懐かしさと恥ずかしさ

ですが、こうした長く古い付き合いの友人と交流することは、「懐かしさ」とともに「恥ずかしさ」がつきまとうのも事実でしょう。小学生のころに軽くいじめられていた記憶や、中学のときにイケてなかった自分、えもいわれぬ当時の空気感に、タイムスリップすることになります。

式で出会う仲間の中には、「お前は昔は、全然モテなかったよな〜」とか「ずいぶん垢抜けたねー」とか「ほら、覚えてない? あんたが授業中おしっこ漏らしちゃったとき。大変だったんだから」などと、当時のことをしつこくいじってくる相手もいるでしょう。そうなるととたんに「恥ずかしさ」が「懐かしさ」を上回り、気まずい気持ちに陥るわけです。

中でも、高校デビュー・大学デビューなど、進学をきっかけにそれまでの自分や人間関係・キャラクターをリセットして再出発した経験がある人にとっては、イケてなかったころの黒歴史は、きれいさっぱり忘れたいもの。そういう一切合切から「卒業」したい人にとっては、成人式はわずらわしいだけかもしれません。

男は昔の自分を卒業したい

こうした、「昔の友達と会うのは気恥ずかしい」「以前の自分を知っている人とは会いたくない」という自意識は、女性よりも男性のほうが強いものです。

そもそも小学校・中学校時代の男なんておしなべて、ダサくて、不潔で、知性も品もないくせに自意識過剰、というのが通例です。そうした時代をなんとかやり過ごし、ようやく大人の仲間入りをしたいと願い始めるのが、ちょうど20歳のころ。つまり、すべての男にとって、子供のころの記憶は、多かれ少なかれ痛い歴史なわけです。

「あれはあれでかわいいものだった」「あの頃の自分、嫌いじゃない」などと思うには、もう少し年を重ねる必要があります(その点女のほうが、成熟も早く、仮にそうした記憶があったとしても、上手に処理できています。むしろ女性にとって問題なのは、あの頃の自分は輝いていた、という甘い記憶にとらわれることですが、それは今回は置いておきましょう)。

さらに言えば、男はなにかといっては競争し、人と自分の優劣をつけることで生きています。上下関係とプライドこそが、彼らのエンジン。何年も前のことでも、ダサくてかっこわるい自分は認めたくない。今の輝いている(あるいはまだマシな)自分だけが自分であって、それを評価してほしい、昔の自分は見ないで欲しい……。なんでもかんでも勝ち負けを気にする男たちは、「負け組だった過去の自分」を憎むのです。

男が母親に対してぶっきらぼうな理由

多くの大人の男性が、自分の母親に対して、ぶっきらぼうな口を利き自然に会話できないのも、やはり、昔の弱い自分を知られているから。この人には弱みを握られている。だからこそ、「なんだよ」とつっかかってしまう。そんな思春期的な感覚がどうやっても抜けないのが男なのです。

ですから、昔の自分はすっかり卒業してしまいたい、なかったことにしたい、それを知っている関係者とは距離を置きたい、だから成人式になんか行かない!と考えるのは圧倒的に男が多いはず。

いっぽうの女性にとっては成人式は、家族全体を巻き込んだ晴れ着コスプレイベント。「若さ」という女性特有の価値を最大限に味わいアピールし共有するパーティですから、消極的な人は少数派です。

さて、前置きが長くなりました。

現在、タレントのベッキー(31)と、ロックバンド「ゲスの極み乙女。」のボーカル川谷絵音(27)の不倫疑惑騒動が、世間を賑わせています。

世の女性たちがどうしても理解できないこと

なかでも世の女性たちが首をひねるのが「なぜ彼は、あんなにもあっさり糟糠の妻を捨てられたのか」という点。

バンドとしてなかなか芽が出ない時期を何年もずっと支えてくれた彼女と、ついに入籍。さあこれから、という矢先に、他の女と親密になり、あっさりと離婚を切り出す。そのあまりに冷たい感覚が、女性たちにはどうしても理解できないようす。

「そこまで支えてもらったのに、裏切るなんてあり得ない」「結婚して家族になった相手を、ひょいっと捨てられるなんて、どうかしてる!」というのが、彼女たちの総意です。

大前提として、ベッキーと川谷、妻の関係については、当事者たちだけが知ることです。周囲としては憶測するしかありません。

それでもひとつ言えるのは、川谷にとって長い付き合いの妻は、家族のような関係であると同時に、サエないころの自分を知られてしまっている相手、だったのではないか、ということです。

音楽業界に多い「糟糠の妻を捨てる夫」

音楽業界において、糟糠の妻を捨てて新しい女性に走った、とされる例は数多くあります(Mr.Children・桜井和寿、GLAY・TERU、ザ・イエロー・モンキー・吉井和哉など)。彼らミュージシャンにとって売れないころというのは、精神的にも金銭的にもそうとう辛い数年間でしょう。資格試験のように、努力を続ければ必ず報われるという世界でもないため、苦しい日々が続き、自信を失い、希望を失い、自己嫌悪にさいなまれることも多かったはず。

その分、売れてしまえば華やかな世界からの称賛、富と名声を手に入れることができます。いざそうなったとき、「これまで支えてくれてありがとう。これからは僕が支えるよ、安心して」という気持ちになるような殊勝で誠実な男は、多くの女性の願いもむなしくほぼ皆無で、むしろ「君を見ていると、あの辛かった時期を思い出してしまうんだ」と勝手に落ち込むケースが少なくないはずです。

「単に売れて調子に乗った」「より魅力的な人と知り合ったので昔の女が色あせて見えただけ」といった見方もあるでしょうし、それもまた真実かもしれません。

ですが今回の騒動をとりまくいろいろな要素のひとつとして、「これまでの関係・これまでの自分をリセットしたい」「劣っている自分と縁を切りたい」という男性心理があったのでは、というのが私の見立てです。

そういう意味で、今回彼が「妻から卒業したい」と周囲に漏らし、離婚のことを「卒論を書く」と表現していたのは、じつに象徴的です。

強調しておきますが、だからといって今回の彼の行為が正当化されるものではありませんし、繰り返しになりますが、本当のことは、彼ら・彼女たちにしか分かりません。

プライドの男、情の女

常に勝ち負けで物事をとらえ、自分の成功が第一で、プライドのためならなんでもできる男。

常に人情で物事をとらえ、周囲との和が第一で、愛と友好のためならなんでもできる女。

そう考えるとそもそも、男と女が「家庭」という共同体を一緒に作り上げていくのは、どだい不可能な話なのではないか。そんな思いを強くさせられる、今回の騒動でした。

(五百田 達成:「察しない男 説明しない女」著者)

作家・心理カウンセラー

著書累計120万部:「超雑談力」「不機嫌な妻 無関心な夫」「察しない男 説明しない女」「不機嫌な長男・長女 無責任な末っ子たち」「話し方で損する人 得する人」など。角川書店、博報堂を経て独立。コミュニケーション×心理を出発点に、「男女のコミュニケーション」「生まれ順性格分析」「伝え方とSNS」「恋愛・結婚・ジェンダー」などをテーマに執筆。米国CCE,Inc.認定 GCDFキャリアカウンセラー。

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