川淵氏の会長職辞退で「二度恥」を回避 五輪組織委の異常なガバナンス

一旦は会長職を受けるつもりだった川淵三郎氏(右)(写真:代表撮影/ロイター/アフロ)

 東京五輪・パラリンピック競技大会組織委員会(以下、組織委員会)の森喜朗会長が女性蔑視発言の責任を取って辞任し、森氏が後任にサッカーのJリーグ初代チェアマンを務めた日本サッカー協会相談役の川淵三郎氏を「指名」したとされる。後任会長には川淵氏が就く線が濃厚だったが、政府がこのプロセスを問題視したことで白紙に戻った。

 今回の一連のごたごたは、日本が「ガバナンス後進国」であることを世界に晒すことになりそうだ。プロセスのどこに問題があったのかを以下に解説していこう。

 

評議員会が最高意思決定機関

 組織委員会は公益財団法人である。2014年に一般財団法人として設立、その1年後に税制面で優遇のある公益財団法人に認定された。内閣府の公益認定等委員会事務局によると、公益財団法人の認定に当たっては、「公益社団法人及び公益財団法人の認定等に関する法律」が適用され、運用は公益財団法人に移行後も、「一般社団法人及び一般財団法人に関する法律(以下、一般法人法)」が適用される。

 一般法人法によって評議員会の設置が義務付けられており、法人の最高意思決定機関は評議員会となる。組織委員会も同様であり、評議員会が組織委員会の理事などの役員人事を決める権限を持つ。株式会社にたとえると、評議員会が取締役会的な機能を持ち、会長以下の理事は執行役員と言えるだろう。

東京都とJOCが「株主」

 組織委員会の評議員の顔ぶれを見ると、川淵三郎氏、元文科相の遠山敦子氏、日本オリンピック委員会(JOC)名誉委員の木村興治氏、同福田冨昭氏、東京都副知事の梶原洋氏、同武市敬氏がいる。6人中、JOCから2人、東京都から2人の計4人が選出され、両組織で過半数を占めている。これは、組織委員会が14年に一般財団法人として設立された際に、資金を拠出したのがJOCと東京都であり、この4人は株主的な位置づけでもある両組織から送り込まれた評議員ということだろう。

川淵氏にも「善管注意義務」がある

 そもそも評議員は森会長以下の執行部を監督する立場にある。今回の女性蔑視発言のような執行トップとしての見識が疑われるような行動をとった場合、状況によっては人事で更迭する役目を担っているのだ。今回のケースではどう見ても森氏の責任は大きいので、評議員が森氏に退任を迫るのが筋のはずだ。

 しかし、本来、首に鈴を付ける役割を担っているはずの評議員の川淵氏が、逆に鈴を「付けられる側」の森氏から後継を託されたこと自体、非常におかしなガバナンスだ。さらにいえば、一般法人法上、理事だけではなく評議員にも「善管注意義務」が課せられている。

 これは、善良な管理者の注意をもって職務を負う義務のことだ。この義務が具体的に何を示すのかは難しい解釈となるが、一般的には判断に合理性があることなどが含まれる、とされる。

森、川淵両氏は一蓮托生

 たとえば、企業の決算発表に資料に「この予想値は現時点での見通しであり、将来変わる可能性がある」といったようなことが示されているのは、予想通りの決算数値とならなかった場合に、判断に合理性を欠いていたととられて善管注意義務違反を問われることを回避するためのものと見られる。

 評議員の川淵氏には善管注意義務があるため、今回の森氏の言動や判断が合理性を欠くということになれば、それを監督する立場にあった川淵氏にも責任が生じるのではないか。きつい言い方かもしれないが、ガバナンス上は森氏も川淵氏も一蓮托生のはずだ。

他人事の小池都知事

 また、当初、森氏の後任の人事を決める予定だったのが「合同懇談会」というのもおかしな話だった。本来、評議員は森会長以下の理事会とは離れて独立して役員人事を判断しなければならないはずで、それを「合同」で話し合って決めるという行為自体に疑問符が付く。評議員会の独立性が問われるのではないだろうか。

 さらに、資金を拠出して組織委員会を設立したJOCと東京都にも「株主」的な責任があるのに、森氏が起こしたトラブルに他人事のような振る舞いを見せている小池百合子都知事の言動も解せない。

 世界はいま、環境問題、持続的成長、ガバナンスの視点から投資判断する「ESG投資」の存在感が高まっている。組織委員会は株式の投資対象ではないとはいえ、名誉最高顧問に安倍晋三前首相、最高顧問兼議長に菅義偉首相が名を連ねるなど国家的なプロジェクトを運営する組織のガバナンスがこれでは、日本が「ガバナンス後進国」とみなされ、世界からの信用を失ってしまうことにつながりかねない。

 ただ、幸いにも川淵氏の会長就任にストップがかかったことで、「ガバナンスの失態」による「二度恥」をかくことは避けられた格好だ。