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関西電力金品受領問題 元凶副社長は退任後の月額報酬が490万円だった!

井上久男経済ジャーナリスト
3月14日、関電役員らの金品受領問題の調査結果を発表する第三者委員会(筆者撮影)

75人が総額3億6000万円相当を受領

 関西電力の原子力発電所がある福井県高浜町の元助役、故森山栄治氏らから関電の役員らが多額の金品を受け取っていた問題を調査していた第三者委員会は14日、大阪市内で記者会見し、報告書の内容を発表した。それによると、金品の受領者は、関電および子会社の関電プラントと関電不動産開発の計3社の役職員計75人にのぼり、総額は約3億6000万円相当だった。

 会見した第三者委員会の但木敬一委員長(元検事総長)は「価格(電力料金)も長いことお上が決めてきて、電力会社は無競争の状態の中にあったので、ユーザーとの関係が遠くユーザー目線が入っていなかった」などと述べ、関電の企業体質が金品の受領問題を招いたとの見解を示した。

自浄能力なし

 この問題を振り返ると、2018年2月、金沢国税局による税務調査を契機に関電の社内調査が始まり、同年6月22日に第三者の弁護士を入れた社内調査委員会が設置され、同年9月11日に社内調査報告書ができた。その約1年後の19年9月26日に共同通信がこの問題を報道したことで関電が調査報告書を公表。同年10月9日からは新設された第三者委員会が調査に入った。

 同委員会特別顧問の久保井一匡弁護士も「長年にわたって常識外れのことをしていると分かっていながら断ち切れなかった。国税の調査によってストップがかかるまで終わらせることができず、自浄能力がなかった。国税の調べと森山氏の死去がなかったら続いていた」と述べ、但木氏と同様に不正行為に目をつぶってきた関電の組織風土を批判した。

 関電では18年9月11日に社内調査報告書が出来上がった段階においても、その内容を取締役会や社外取締役へ報告せず、対外的にも公表しないことを、八木誠会長(当時)、岩根茂樹社長(同)、森詳介相談役(同)の3人が協議して決めたという。また、18年10月には社内調査報告書の内容が監査役に報告されたが、監査役会から取締役会に報告されることはなかった。関電の隠蔽体質を物語っている。

元請けにしてくれと1000万円

 故森山氏が関電役員らに渡した金品の原資については、関電から故森山氏に近い企業に対して行った「不正発注」による利益が「原資の一つだった」(但木委員長)。故森山氏はこうして「不正発注」から得た原資から関電役員に金品を渡すことでまた「不正発注」を得るという不正の循環を作り出していたと見られる。ここで言う「不正発注」とは、公正な競争をせずに、故森山氏の息のかかった企業に発注したということだ。

 こうした「不正発注」によって、関電が不利益を被ったのであれば、金品を受領した役員に対しては会社法上の特別背任容疑の疑惑も生じるため、記者会見では「刑事告発はしないのか」との質問が出たが、但木委員長は「森山氏から『元請けにしてくれと頼まれ、1000万円の金が役員に渡ったが、頼まれたその企業が元請けになっていないケースもある。渡したお金の主旨が明確ではないケースもあり、推定はできるが確実な証拠はなく、森山氏も死去しているため、刑事告発は難しい』」などと説明した。

豊松元副社長は1億1000万円受領

 また、故森山氏が金品を渡した動機について、第三者委員会は「共犯関係に持ち込むことを意図したものであったと考えられる」と説明。つまり、社会的儀礼を超えた金品を強引に受け取らせることで、関電側と故森山氏の不正常な関係を露見させれば「関電役員の悪事も露見してしまう」(報告書概要版)ことを狙っていたというのだ。

 第三者委員会は、関電の組織風土がこの問題の根底にあることを強調するが、調査報告書を見る限り、金品を受け取っていた個人の感覚を疑ってしまうケースもある。たとえば、最近では故森山氏と関係が最も深いとされ、原子力事業本部長を務めた豊松秀己元副社長は1人で約1億1000万円相当の金品を受け取ったことが判明。1度に1000万円もの現金を複数回受領していたという。

豊松元副社長の追徴課税分を補填

 その豊松氏は19年6月21日に開催された株主総会で取締役を退任し、エグゼクティブフェローに就いたが、報酬額は月額490万円だった。その内訳は、副社長時代の報酬月額370万円をベースに、この問題で税務調査を受けて払った追徴課税の補填で月額30万円、過去の経営不振時の役員報酬カットに対する補填で月額90万円を上乗せしていた。報告書によると、関電で過去にエグゼクティブフェローに就任したのは、豊松氏以外に1名いたが、その報酬額は月額200万円だった。

 豊松氏は第三者委員会の調査に対して、追徴課税分や報酬カット分の補填がエグゼクティブフェローの報酬に含まれていたことを認識していなかったと述べたそうだが、果たしてそれをそのまま信じていいものか。

 18年2月の税務調査を契機に社内調査は始まっており、故森山氏との関係が深いことが公然の秘密であり、追徴課税まで受けている豊松氏を、副社長退任後に役員級のエグゼクティブフェローで遇すること自体が常識外れの判断だ。しかも、追徴課税の分まで補填して高額報酬を払っている。開いた口が塞がらないとはこのことだ。

 おそらく豊松氏らに対しては今後、株主代表訴訟の動きが出てくるだろう。第三者委員会の調査結果公表を受けて、関電は岩根茂樹社長が引責辞任、森本孝副社長が社長に昇格した。新体制が社会からの信頼を取り戻すには、株主代表訴訟が起こる前に、新執行部がけじめとして豊松氏に何らかの処分を下すか、あるいは刑事告訴できるかにかかかっているのではないか。

 常識外れの金品を受領していた関電役員の中心人物が「お構いなし」では社会は到底納得しないだろう。

経済ジャーナリスト

1964年生まれ。88年九州大卒。朝日新聞社の名古屋、東京、大阪の経済部で主に自動車と電機を担当。2004年朝日新聞社を退社。05年大阪市立大学修士課程(ベンチャー論)修了。主な著書は『トヨタ・ショック』(講談社、共編著)、『メイドインジャパン驕りの代償』(NHK出版)、『会社に頼らないで一生働き続ける技術』(プレジデント社)、『自動車会社が消える日』(文春新書)『日産vs.ゴーン 支配と暗闘の20年』(同)。最新刊に経済安全保障について世界の具体的事例や内閣国家安全保障局経済班を新設した日本政府の対応などを示した『中国の「見えない侵略」!サイバースパイが日本を破壊する』(ビジネス社)

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