対立深まる米中、日韓から見えてきた「武器を用いない安全保障」とは

日韓首脳会談がなかったG20大阪サミット直後に日本政府は事実上の輸出規制を開始(写真:代表撮影/ロイター/アフロ)

「日本版国家経済会議」設立の重要性

 筆者は主に自動車産業を取材するジャーナリストだが、日々の取材活動を通じて、経済・通商政策と安全保障を統合して国家戦略を考える「日本版国家経済会議(NEC)」を設立する局面に来ていると痛感する。

 たとえば、日本の自動車メーカーが生産した大型四輪駆動車が中近東に正規輸出された後に、それがテロリスト側に回って戦闘車両に改造された場合、テロと実際に戦っている米国側からクレームを受けることがある。

 トヨタ自動車の元役員がこう語る。「トヨタ車がアルカイダに流れていたことを問題視した米国の機関投資家がいたので、調査したら正規ルート経由でフランスに流れ、そこで銃座などが付けられる改造が行われていた」

 

通商政策と安全保障政策の一体化

 トヨタほどの資金力と世界各国に張り巡らされた情報網があるから、自社で突き止めることができたわけだが、調査すら簡単ではない。そうした場合に、日本政府が通商政策と安全保障を一体化する考えの下、テロ組織に日本製品が流れないようにする方策が今の国際社会では求められている。その際に、通商政策と安全保障が一体運営できる日本版国家経済会議の存在が重要になる。

 いま、大きな話題になっている日本から韓国への半導体材料輸出の手続きの厳格化も、安全保障上の理由によるものだ。報道によると、日本から輸出されたもので、使途が分からないものもあるという。その材料の中には、核開発に用いられるウランの濃縮に使われる可能性のあるものも含まれていることから、安全保障上のリスクがあると政府が考えるのは当然だ。そのリスクを通商政策によって取り除こうというわけだ。

狙うは文大統領の失脚か

 加えて、日本と韓国の両国間には、日韓請求権協定を無視した元徴用工訴訟判決や、韓国海軍による自衛隊機へのレーダー照射問題があり、とても友好国とはいえる関係ない。だから手続きが簡略化できる優遇待遇を外すということである。事実上の輸出規制強化だ。

 日本政府は、韓国から猛反発を受けるリスクを覚悟して、事実上の輸出規制に踏み込んだわけだから、この経済制裁の効果を発揮させ、日韓関係が再び友好的になるように仕向けて行かなければならない。

 そして日本政府がこの制裁によって狙っているのは、文在寅・韓国大統領の失脚ではないか。日本から半導体材料が輸出できづらくなることによって、韓国の主力企業であるサムスン電子などは大きな打撃を受けるだろう。今の韓国経済は不調で失業率も高く、さらに落ち込むことが予想され、通貨危機再燃もあり得る状況だ。この制裁よって、韓国経済がさらに落ち込めば、文大統領と韓国財界の関係は冷え込み、ひいては国民の信頼を失うだろう。

日本外務省の「省益主義」

 ただ、筆者が危惧するのは日本の外務省の動向だ。今回の韓国への制裁は実務は通商政策を担う経済産業省が担っている。一方で外交は外務省が担当。韓国シンパの外交官もいる。「省益重視」と言われる、経産省と外務省が連携して、経済制裁を効果的に運用できるのだろうかと勘繰ってしまう。特に外務省は、経産省が外交に加わることを毛嫌いする傾向にあるため、両省の足並みがそろわないことも想定される。はっきり言って、外務省が裏切って韓国側に付くことだってありうるのではないか。

 だからこそ、こうしたケースでは官邸主導の下、国家戦略として一枚岩となって制裁を遂行するための日本版国家経済会議(NEC)が必要になるのだ。両省だけに限らず、防衛省、海産物や農産物の輸出入を所管して「食糧安全保障」にも関与している農林水産省など関係する省庁の横断的な対応も重要だ。

 筆者が「日本版」と言ったのは、国家経済会議(NEC)は、クリントン政権時代の米国で誕生したからだ。冷戦後の安全保障には、軍事力と経済力の両方が重要との考え方の下、設立された。非友好国や敵対国、無法国家などに対して、実際の軍事力を使って行動を起こすよりも、経済制裁で締め上げ、相手に同調を求めることに主眼が置かれている。

 

米国が日本に求める同調

 自国の安全保障に脅威を感じた際に、武器を使って軍事行動に出れば、自衛のケースでも実際には人間の血が流れる。効果的な経済制裁によって、軍事行動を取る力を削ぐことにもなる。もちろん安全保障に脅威を感じないような国際社会を作ることが理想だが、昨今のイラン情勢、北朝鮮情勢などを見れば、それは空想に近く、安全保障に脅威を感じないということの方が不自然だ。

 米国はこのNECの機能を強化し、インテリジェンス機関とも連携し、いかに効率的に経済制裁を行うかを綿密に研究している。中国に対する関税政策や、中国資本の対米投資の審査の厳格化もこうした流れから来ている。米国のNECを訪問した日本の関係者によると、米国側は同盟国の日本に対して、米国の動きと同調するためにも、日本版NEC創設は効果的だとの見解を示したという。

 

日本が経済制裁を受けるリスク

 また、米国は今後、日本企業などに対して、米国の知的財産を利用している技術や米国の研究機関や企業と共同で開発した技術などの中国への輸出や技術移転の禁止を求める計画で、違反すると制裁を科すことも視野に入っている。次の14の技術が輸出や移転禁止の対象となる。

(1)バイオテクノロジー(2)人工知能と機械学習(3)測位技術(4)マイクロプロセッサー(5)先端コンピューター(6)データ分析(7)量子情報・量子センシング(8)輸送技術(9)付加製造技術(3Dプリンターなど)(10)ロボット工学(11)脳コンピューター(12)飛行制御アルゴリズム(13)先端材料(14)先進監視技術

 この14分野がさらに47の技術に細分化されている。この14分野47技術は18年、米国防権限法が強化され、輸出管理改革法が新設された中で「新興技術」として位置づけられた。運用は19年8月から開始される予定だ。

 日本の自動車メーカーなど産業界にとっては他人ごとではない。米国に情報開示を求めて正確な動きを把握する局面にある。企業単独では無理で、日本政府が十分にヒアリングして十分に対応策を考える必要がある。そのためにも日本版NECの設立が求められるというわけだ。

「他の手段による戦争」とは

 米国側が中国に対して技術流出でナーバスになるのには訳がある。それは、中国は、「Economic Statecraft(ES=経済力を梃子にした外交施術)」に力を入れているからだ。外交といった生易しい言葉で表されるものではなく、「経済戦争」といった方が近いかもしれない。

 象徴的なものとしてこんなケースがある。太陽光パネルなどを手掛ける中国の三安光電が15年、ドイツの半導体製造装置メーカーのアイクストロンへの大量発注を突然キャンセル。このためにアイクストロンの株価が急落したが、その隙をついて中国政府系投資ファンドがアイクストロンへの買収をしかけた。翌年には買収合意に至ったが、米国子会社が地対空ミサイル「パトリオット」関連の仕事を引き受けていたため、米国が大統領令によって米国子会社の買収を阻止した。後の調査によって三安光電と政府系投資ファンドが結託した買収戦略だったことが分かった。

 こうした中国側のESに対抗するために、米国はNECの機能を強化し、米国もESを積極活用することになった。その一つが前述した輸出管理改革法の新設だ。米国では、こうした経済政策を「War by another mean(他の手段による戦争)」と呼ぶこともある。

 平和が大事であることは当然だし、誰もが血を流す戦争は避けたいし、避けるべきである。しかし、国際情勢は空想的平和主義が通じるほど甘くはない。これからも経済戦争は多発するだろう。日本は現実を直視する局面にある。