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「社会派」のゲームはどうやって探したらいいのか?

井上明人ゲーム研究者
Nicky Case『We Become What We Behold』2016

 いわゆる「社会派」のゲームの中で、良い作品をどのように探せばいいのか、という質問を受けることが最近少し増えてきた。

 実際、この10数年で社会的な論点を扱った作品でありながら、ゲームとしてもきちんと遊べるような作品が、年々増えてきており、売上的にも数百万本や数十万本を超すような作品が出てきている。そして、こうした作品の中にも「名作」の地位を築きつつあるものが出はじめている。

 その一方で、こういったゲームは、ゲーム好きの人であっても知らない人は意外とぜんぜん知らないところがあり、基本的な情報をこの記事では、簡単にまとめてみたいと思う。

1.ほとんどそういったゲームをやったことがないという人向け:まずは無料作品から

 まず、最初にいわゆる社会派のゲームをやったことが全くないという人向けの推薦だが、たぶん最初から、数時間もかかる重苦しいムードの作品をすすめられても、ちょっと厳しいだろうと思う。

 そこで最初に人におすすめしているのは、ニッキー・ケースの作品群である。無料かつ、10分程度でできる作品が多いので、最初に触ってみるにはいいだろう。

 簡単な英語が読める人なら、10分程度でできる『We Become What We Behold』をまずすすめたい(注:暴力の表現がある)。

 日本語訳があるものとしては、『coming out simulator』(注:LGBTQのカミングアウトについての強い感情を惹起する表現がある)も、20分程度でできる。

 上記2つは、強い表現があるので、TPOによってすすめにくいなどという場合は、ゲームの要素はやや弱いが『群衆の英知もしくは狂気 』などもいいだろう。

 ニッキー・ケースの作品をやってみて悪くないと思われた方には、もう少し長時間の作品をやってみてもらいたい。

 たとえば、戦下のウクライナで作られた2022年2月からのウクライナの紛争下の人々の状況を扱った『Ukraine War Stories』も、大きな注目を浴びた作品の一つだろう。これは1時間30分~3時間ぐらいで概ね遊べる。(当然だが、この作品も暴力や性に関する表現がある)

 また、研究倫理の教材として無料で提供されている『THE LAB』は「教材」と知らずにやっても、楽しめるものになっている。

2.もう少し知りたいと思った人へ:数時間から1日程度でできる有名作品

 次に、有料の有名作品も挙げていこう。

 『This War of Mine』は、最も有名な作品の一つだろう。これはユーゴスラビア紛争の銃後の世界を生き延びる作品である。

 第二次大戦後のノルウェーにおける複雑な差別の問題を扱った『My Child Lebensborn』も重要な作品だろう。ぜひ多くの人にやってもらいたい。

 ほか『HEAD LINER』『Papers, Please』『返校 -Detention』あたりも、こういった文脈ではよく挙げられる作品になる。

 ただ、これらの作品はやや話が込み入った悲劇的事態を書いた作品が多いため、小学生にもすすめやすい作品ではない。一つだけ小学生にもすすめやすい作品を挙げておくとすれば、『ギボン: ジャングルを超えて』あたりが良いだろうか。これは、テナガザルの置かれた困難な状況を描いた作品で、アクションゲームが苦手でなければ1時間ぐらいで本編は終えられる。

3.もっと様々な作品を知りたい人へ

 ここまで挙げたのは、ある程度鉄板と思える作品だが、よりゲームと社会的な論点について、深く知りたい人向けのリスト&ガイド本としては田中”hally”治久・今井晋監修の書籍『インディ・ゲーム新世紀ディープ・ガイド ゲームの沼』(2022、ele-king books)が日本語の情報としては、2023年現在だともっとも良いガイド本になっているので、この界隈の状況を知りたい人には、最近はこの本をすすめている。

 ほかにも、『インディ・ゲーム名作選』(2021、ele-king books)、『ゲーマーが本気で薦めるインディーゲーム200選』(2021、星海社新書)などにも、社会派の作品が数多く扱われており、インディーゲームのおすすめリストの中で、こういった社会派の作品がおすすめされているというのが、もっとも主要な作品紹介の経路になっているといっていいだろう。

 その意味では、インディーゲームを数多く扱うプラットフォームであるSteamItch.ioや良さそうな作品を探したり、任天堂のIndie Worldやインディーゲームをよく扱っているゲーム実況者やゲーム実況の企画(ゲームさんぽなど)で、探すのもいいだろう。

4. 最新の情報を知りたい人へ

 最後に、筆者自身がどういったところから情報を得ているのかを紹介しておきたい。

(1)ゲームの賞を探す

 教育的なテーマを扱ったゲームについての賞というのが、いくつかある。残念ながら、多くは海外の賞になってしまうが、代表的なものとしては、「Game for Change」を筆頭に、Serious Games Showcase & Challenge: SGS&CInternational Educational Games Competition at ECGBLなど、様々な賞がある。

 また、インディゲーム系の大きな賞を出すものとしては、Independent Games Festival (IGF) や、SXSW Indie Game of the Yearのほか、インディゲームの情報番組INDIE Live ExpoによるAwardsのほか、後述するが、各種のインディーゲームのイベントが開催された際にはだいたいの場合、何かしらの賞が出されている。

(2)ニュースサイトから情報を得る

 ゲームのニュースサイトは様々なサイトがあるが、特にゲームに関する社会的な論点をよく扱っているニュースサイトとしては、Automaton IGN Japanがある。

 ほかのゲーム関連のニュースサイトも、インディゲームについては様々な形でニュースを配信している。4gamer.netのインディーズゲームの小部屋は2007年から連載が開始され現時点で連載770回を超えているほか、GAMERS ZONEの小野憲史のインディゲームレビューも120回を超えている。ファミ通や、Game*Sparkでは、インディゲームのタグの付いた記事を一覧できるようにしているほかニュースサイトIndie games japanなどもある。

 また、余談だが、かつて電ファミ二コゲーマーの副編集長だった斉藤大地氏は『NEEDY GIRL OVERDOSE』の開発に関わっている

(3)国内のゲームイベント

 最新のインディーゲームが大量に見られるイベントが、この10年少しでだいぶ様々なものが登場してきた。国内では、だいぶ昔からある同人ゲームを扱ったイベントとしては、コミックマーケットが大きな役割を担っていたが最近は、本当に様々なイベントが国内でも行われている。

 筆者も関わっているBitSummit(京都)のほか、東京ゲームショウの際に実施されているSense of Wonder Night(SOWN)や、東京ゲームショウのインディーゲームコーナーTOKYO SANDBOXTOKYO INDIE GAMES SUMMITなどのイベントがある。

 また、社会派のゲームや教育に特に関係するイベントとしてシリアスゲームジャムや、シリアスボードゲームジャムのようなイベントがあるが、ここらへんはゲームを探すというよりは作りはじめる活動の支援なので、ゲームを探したいという人にはちょっと違うかもしれない。

 また、デジタルゲームではないが、アナログゲームの大規模イベントであるゲームマーケットに出展される作品には、社会的な問題をテーマにした作品がかなり多く含まれている。

(4)国内の関連学術活動

 最後に、ほぼ筆者自身が関わっている領域の話になってきてしまうが、ゲームに関係する学会には、社会とゲームに関わるトピックは、昔からかなり関心は強い。

 国内の学会としては、日本シミュレーション&ゲーミング学会(JASAG)、ゲーム学会(GAS)、日本デジタルゲーム学会(DiGRA Japan)などがある。

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 ということで、ざっくりと、いわゆる「社会派」なゲームの探し方について簡単に紹介してみたが、すでに述べてきたように基本的にはインディゲームについての情報流通経路がたくさん整備されてきているため、その中に混じっている作品を探すという流れになるだろう。

 上記ではカバーしきれなかった範囲の話はもちろん沢山ある。

 たとえば『シムシティ』『タクティクス・オウガ』のような80年代、90年代からあるような社会的テーマを扱った作品から、最近の該当作を含めてコンパクトにカバーしたガイドのようなものは、意外とパッと思い当たらない。

 また、3Dで華麗なグラフィックで動く開発予算のかかったタイプのゲームにも、社会的な論点を扱ったゲームはもちろんある。たとえば、『Detroit: Become Human』『ウィッチャー3 ワイルドハント』などは、こういった文脈ではしばしば取り上げられる。

 そして、さほど社会派的な装いを強調していない作品の中にも、実はいろいろな思いが込められた表現が見られることは少なくない。その意味では、こういったタイプのゲームに見られる志しそれ自体は、昔からさまざまな人がやろうと仕掛けてきたことの現代的な結実であるともいっていいだろう。

ゲーム研究者

1980年生。ゲーム研究者。立命館大学講師。現在、ゲームという経験が何なのかについて論じる『中心をもたない、現象としてのゲームについて』を連載中。著書に『ゲーミフィケーション』(NHK出版,2012)。ゲームの開発も行い、震災時にリリースした節電ゲーム『#denkimeter』でCEDEC AWARD ゲームデザイン部門優秀賞受賞。ほか『ビジュアルノベル版 Wikipedia 地方病(日本住血吸虫症)』など。

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