人工妊娠中絶の権利が憲法上、保障されなくなった米国で、著名企業が続々と、中絶の権利を擁護する姿勢を打ち出している。中絶反対派から抗議や訴訟を受けるリスクもあるが、女性の人権を尊重する姿勢を鮮明にすることで、企業価値を高めることができるとの判断があるとみられる。

クリニックまでの旅費を支給

メディア大手のウォルト・ディズニーは24日、中絶手術が必要な従業員に、手術を行うクリニックまでの旅費を支給する意向を明らかにした。

米国では、「中絶の権利は憲法上、保障されない」との24日の連邦最高裁の判断を受け、全体の約半数の州で、中絶が事実上禁止あるいは大幅に制限される見通しだ。中絶が禁止された州の住民が中絶手術を受けるためには、中絶を容認している州まで行かなければならず、旅費だけでも大きな負担を強いられることになる。

スポーツ用品小売りチェーンのディックス・スポーティング・グッズは、従業員やその配偶者、被扶養家族が中絶手術を受けることになった場合、最大4000ドル(約54万円)の旅費を補助する考えを、ローレン・ホバート最高経営責任者(CEO)がビジネス向けSNSのリンクトイン上で発表した。

米メディアによると他に、ソニーやネットフリックス、パラマウント、JPモルガン・チェース、ライドシェアサービス大手のリフトといった有名企業が、中絶手術のための旅費を補助する意向を表明している。

アウトドア用品メーカーのパタゴニアは、旅費に加え、従業員が中絶の権利を支持する平和的抗議デモに参加して逮捕された場合、保釈費用を支援する考えを明らかにした。

社会問題解決へのかかわりを求める声

米国では、国民にとって重要な社会問題や人権問題、環境問題などの解決のために、企業は積極的な役割を果たすべきだとの認識が投資家や消費者などステークホルダーの間で強まっており、そうした声にこたえる企業が急速に増えている。

最近では、2020年に黒人男性が白人警官から暴行を受けて死亡した事件をきっかけに全米に広がった「ブラック・ライブズ・マター(黒人の命も大切だ)」運動への支持表明や、ロシアによるウクライナへの軍事侵攻を受けたロシア市場からの撤退がそれにあたる。

ロシア市場からの撤退に関しては、ロシアに留まってビジネスを続けている企業より撤退した企業のほうが株式市場から好意的に受け止められていることが、エール大学のジェフリー・ソネンフェルド教授らの分析で明らかになっている。

今回の中絶の権利をめぐる問題でも、CNNテレビが直前に行った世論調査では、米国民の約3分の2が中絶の権利は憲法で保障されるべきだと答えている。こうした世論の支持も企業の判断に影響しているとみられる。