ドイツの化学大手バイエルが、同社が製造販売する除草剤とがんとの因果関係を認めた米控訴審判決を不服として上訴していた裁判で、米最高裁は21日、バイエルの上告を却下した。この除草剤をめぐっては、日本でも安全性を懸念する声が消費者の間で高まっており、最高裁の判断は日本国内の議論にも影響する可能性がある。

2500万ドルの支払い命令

問題の除草剤は米モンサント社が開発したグリホサートで、「ラウンドアップ」などの商品名で、日本を含む世界各国で販売されている。モンサントは2018年、バイエルに買収された。

裁判は、悪性リンパ腫の一種である非ホジキンリンパ腫を発症したのはラウンドアップを26年間使用し続けたのが原因だとして、カリフォルニア州在住の男性がモンサントを相手取って起こしたもので、一審、二審とも男性が勝訴。二審はラウンドアップをがん発症の「重要な要因」と認めると同時に、がんの警告表示をメーカーが怠ったとして、バイエルに2500万ドル(約34億円)の賠償金支払いを命じた。

これに対しバイエルは、米環境保護庁(EPA)が「グリホサートががんの原因となる可能性は低い」との判断を示していることなどを根拠に、最高裁に対し二審の判断の見直しを求めていた。

国に安全性評価の見直し命令も

ところがそのEPAは17日、連邦控訴裁判所から、2020年に出した「グリホサートは人にも環境にも重大なリスクとはならない」とする安全性評価を見直すよう命じられた。判決の中で裁判官は、トランプ前政権下でまとめられた評価は「エビデンスが十分ではない」と指摘し、EPAは環境への影響を評価する法的義務を怠ったと批判した。

EPAは、産業界寄りのトランプ前政権の下では環境規制を次々と緩和してきたが、バイデン現政権になってからは180度方針転換し、規制強化に乗り出している。このためグリホサートに関しても、裁判所の命令を機に公式評価を覆す可能性がある。

グリホサートをめぐっては、これまでに13万件以上の訴訟が米国内で起こされており、バイエルの株価を下押しする大きな原因となっている。2020年にはカリフォルニア州の別の男性に対し、2020万ドルを支払うよう命じる控訴審判決が下った。この時は、バイエルは勝ち目がないと見て上訴しなかった。

「人には安全」のはずが

グリホサートは、遺伝子組み換え作物は枯らさずにその周りの雑草だけを枯らすことができるため、遺伝子組み換え作物の作付けが増えるのに伴い市場を拡大してきた。また、「人には安全」との触れ込みから、ガーデニングや、学校、公園などの公共スペースでも多用され、日本でも売り上げを伸ばしてきた。

しかし、2015年、世界保健機関(WHO)の外部組織「国際がん研究機関」(IARC)が、グリホサートは「人に対しておそらく発がん性がある」と発表したことで、安全性論争に火がついた。発がん性の判断は評価機関によって分かれているものの、警告表示を義務付けているカリフォルニア州や、農家に対し使用しないよう求めているフランスの例のように、万が一に備えて予防措置をとる国や自治体が徐々に増えている。

また、パンやうどんなど小麦を原料とした食品や蜂蜜製品からグリホサートが検出されることも多く、日本でも消費者の間で不安が高まっている。

腸内細菌叢を乱す?

グリホサートの毒性に関する研究が進むにつれ、がん以外の影響を示唆する研究報告も相次いでいる。国立千葉大学・社会精神保健教育研究センターの研究チームは2020年、マウスを使った実験の結果、「妊娠中の農薬グリホサートの摂取が、子どもの自閉症スペクトラム障害(ASD)などの神経発達障害の病因に関係している可能性がある」と発表した。

グリホサートの毒性は植物が持つシキミ酸経路に作用するため、シキミ酸経路を持たない動物には害を及ぼさないとされてきた。しかし研究チームは、「ヒトの腸内細菌はシキミ酸経路を有することから、グリホサートはヒトの腸内細菌叢を乱す可能性がある。近年、ASD患者における腸内細菌叢の異常が数多く報告されている」と指摘した。