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米アマゾン、大麻合法化に向け議会への働きかけ強化

猪瀬聖ジャーナリスト/翻訳家
(写真:ロイター/アフロ)

米ネット通販大手アマゾン・ドット・コムは、米国内での大麻の合法化を目指し、連邦議会に対し積極的なロビー活動を展開していくことを明らかにした。米国では各州が次々と大麻を合法化しており、大麻解禁の流れが加速している。連邦レベルでは依然、非合法だが、議会には合法化を容認する法案が提出済みで、アマゾンの動きが法案成立を後押しするか注目される。

法案への支持を表明

アマゾンは21日、公式サイトに、「アマゾンは国の大麻政策改革の努力を支持する」と題した文章を掲載した。筆者は、ベス・ギャレッティ人事担当上級副社長。それによると、同社は先日、連邦議会で審議中の大麻合法化法案(通称「モア・アクト」)への支持を表明し、法案成立に向けて「積極的なロビー活動を開始した」。同時に、最近、議会に提出された別の大麻合法化法案への支持も表明した。

法案への支持は6月にも一度、表明しているが、今回はさらにロビー活動を開始したと明かすなど、合法化に向けてギアを一段上げた格好だ。ロビー活動に関しては実際、9月1日付けで、上院民主党トップのチャック・シューマー院内総務ら宛てに、ブライアン・ヒューズマン公共政策担当バイスプレジデント名で書簡を送り、法案成立に向けた協力を申し出ている。

採用活動の妨げに

アマゾンは、連邦レベルでの大麻合法化を支持する理由として、従業員を雇用する際の問題を挙げている。アマゾンは6月、同社への就職希望者に対して実施している薬物審査の項目から、運輸省の規制対象とならない職種に関しては、大麻を除外する方針を打ち出した。同時に、以前、事前の薬物審査や抜き打ち検査で、大麻の使用を理由に不採用や契約打ち切りとなった人たちに対し、再応募を認める方針も明らかにした。州レベルでの合法化の流れを受けたものだ。

ところが、このアマゾンの新たな雇用方針は、州よって大麻の規制がバラバラであることから、公平に適用することが困難な状況という。また、採用の際の薬物審査に大麻を含めると、黒人など人種的マイノリティーが不採用となるケースが多く、望むような人材が確保できないとも主張している。

アマゾンに限らず、大麻を非合法とする現行法が、マイノリティーの雇用機会を奪うなどして、マイノリティー社会全体に著しく不利益を与えているという議論は以前からあり、米世論が合法化に大きく傾いている理由もここにある。特に問題となっているのが、白人も黒人も同じように大麻を吸っているのに、検挙されるのは黒人が圧倒的に多いという現実だ。米国では、白人警官による黒人への暴行事件が後を絶たないが、大麻の問題もこれと同じ構図だ。

68%が賛成

アマゾンが支持を表明しているモア・アクトは、薬物を規制する「規制物質法」のリストから大麻を削除した上で、アルコール飲料と同様、売買や使用に関する規制を各州に委ねるという内容で、実質的な合法化だ。また、大麻所持などに関する過去の有罪記録を抹消する内容も盛り込まれている。2019年に下院に提出され、司法委員会で可決されたが、その後、新型コロナウイルス問題などの影響で審議が中断していた。

米国では2012年、コロラド州とワシントン州で住民投票により娯楽用大麻の解禁が決まったのを皮切りに、合法化の波が急速に拡大。現在は全50州中、18州と首都ワシントンで合法化されている(サウスダコタ州は昨年の住民投票で合法化が決まったが、現在、州最高裁で審理中)。調査会社ギャロップが昨秋に実施した世論調査によると、米国の成人の68%が合法化に賛成だ。

(カテゴリー:米社会問題)

ジャーナリスト/翻訳家

米コロンビア大学大学院(ジャーナリズムスクール)修士課程修了。日本経済新聞生活情報部記者、同ロサンゼルス支局長などを経て、独立。食の安全、環境問題、マイノリティー、米国の社会問題、働き方を中心に幅広く取材。著書に『アメリカ人はなぜ肥るのか』(日経プレミアシリーズ、韓国語版も出版)、『仕事ができる人はなぜワインにはまるのか』(幻冬舎新書)など。

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