米国で、農家と直接契約し、有機農法などで育てた安全な野菜や果物を定期的に受け取るサブスクリプション(定額課金)サービスを利用する消費者が、急速に増えている。新型コロナウイルス危機をきっかけに健康的な食生活への関心が高まっているためだが、この「CSA」と呼ぶサブスクは、実は日本が発祥とされている。米政府も普及に力を入れており、持続可能な農業の新たな形として異国の地でさらに発展を遂げそうだ。

コロナ前後で売り上げが35倍に

カリフォルニア州サンディエゴ市郊外の家族農場「ヤスコウチ・ファミリー・ファームズ」は、これまで主に、サンディエゴやロサンゼルス各地で毎週開かれるファーマーズ・マーケットに出店し、生産物を販売してきた。だが昨春以降、新型コロナのため、人が密集するファーマーズ・マーケットは相次いで閉鎖。そこで近隣の農家と協力し、CSAを利用した販売に力を入れ始めた。

消費者は、最初に500ドル(約54000円)を払って契約すると、20週間にわたり、毎週、十数種類の新鮮な野菜や果物が入った「ボックス」(野菜セット)が届く。中身は毎週変わり、例えば5月最終週は、トマト、レタス、キュウリ、ピーマン、マッシュルーム、イチゴ、オレンジなどが届く予定だ。商品のほとんどは、農薬も化学肥料も使わない有機栽培で、分割払いや、単発での注文も可能だ。

発送するボックスの数は、新型コロナの感染拡大前は1週間あたり100個程度だったが、現在は1日あたり500個に増えたと、農場の代表者は今月初め、地元テレビの取材に答えた。単純計算すれば、販売量は35倍に増えたことになる。

「見たことのない野菜に出合える」

サンディエゴ在住の20代の日本人女性「ひー」さんも、今年2月からヤスコウチ・ファミリー・ファームズを利用している。20週間の契約ではなく単発での購入だが、2週間ごとに注文しているという。ひーさんは、届いた野菜や果物の「集合」写真をSNSに投稿しているが、見ると、もの凄い量だ。

筆者の取材に対し、ひーさんは、「もちろん、スーパーに行かなくて済むのも便利でいい点だが、無駄に包装などに使われるプラスチックを減らせることや、新鮮な野菜が届くのがうれしい」と利用の理由を説明。さらに、「届いた野菜で何を作るか考えればいいので、メニューを考えるのが楽になったし、見たことのない新しい野菜に挑戦できるのも楽しい」と話した。

CSA人気は全米規模だ。ニューヨーク・タイムズ紙は昨年5月、「ニューヨークの零細農家が、驚くほどのブームに沸いている」と、CSA人気の凄さを報じた。

1970年代に日本で始まる

CSAはCommunity Supported Agricultureの頭文字を並べたもので、直訳すれば「地域に支えられた農業」。起源は、米南部の黒人コミュニティーで始まったなど諸説あるが、有力なのは、日本の「産消提携」(提携)が起源という説。現在のCSA人気を報じる報道でも「CSAは日本が発祥」との記述が多く、また、提携はそのまま「TEIKEI」と英語にもなっている。

日本の提携は「生産者と消費者の提携」を意味し、公害や農薬による食品汚染の問題が広がった1970年代、安全な食べ物を求めて東京などの大都市に住む主婦らが始めた。地域の消費者グループが直接、近郊の農家と売買契約を結び、農家の作る農作物を毎年、作柄にかかわらず全量、共同購入するというもので、消費者は有機栽培の安全なコメや野菜を確実に手に入れることができ、農家は安定した収入が得られるという利点がある。提携設立の動きは1980年代に全国に拡大したが、その後、消費者グループ、農家双方の高齢化や活動の担い手である専業主婦の減少など様々な理由が重なり、徐々に下火となった。

一方、米国でCSAが誕生したのは1986年と言われている。北東部の2軒の農家が、CSAの手法で農産品の販売を始めた。この2軒の農家が直接の手本としたのは、当時ドイツで一部の農家が実践していた共同農場と、スイスで1970年代末に始まった農家と消費者の共同出資による協同組合農場だった。だが、この販売方法が拡大・発展していく過程で、日本の提携の理念や手法がかなり取り入れられたことが、日本起源説の根拠になっている。

90%弱が有機栽培

そのCSAが、新型コロナの感染拡大を機に人気急騰した理由の1つは、米国人の健康意識の高まりだ。米国では、新型コロナによる死者数が世界最悪の50万人超えとなったが、専門家は、肥満や高血圧など生活習慣病の罹(り)患率の高さを原因の1つに挙げている。このため、ふだんの食生活を見直す機運が高まり、健康的なイメージのCSAが注目されたとみられている。実際、農務省が2017年にまとめた調査によると、CSA農家の90%弱が有機農法で農作物を育てている。

もう1つの理由は、スーパーの店内で密になることを恐れた消費者が、感染リスクの低いCSAを選んだことだ。最近は宅配するCSAも増えているが、農家の庭先や近くの集荷場まで消費者が取りに行く従来の形態も健在で、農家と消費者の交流を深める役割を果たしている。

また米国では、新型コロナの感染爆発以降、一部の農産品の供給が不安定になり、スーパーが一時、品薄となった。大規模食品加工工場が、クラスター(集団感染)の発生で、相次いで操業停止に追い込まれたためだ。これも消費者が食品の購入方法を見直す契機となった。

小規模農家の役割見直す流れ

今はワクチン接種が進み、コロナ以前の生活が戻りつつあるが、現地メディアの報道や筆者の取材の感触では、CSA人気が一過性に終わるようには見えない。農務省はCSAに関する調査をしたり、千戸近いCSA農家のリストを作成してホームページ上で公開したりするなど、普及を積極的に後押ししている。地元メディアによる情報提供や非営利組織によるCSA農家と消費者のマッチング・サービスも活発だ。

米国ではこれまで、産業分野と同様、農業分野でも経営の集約化、大規模化が進んできたが、大規模農業は地球環境への負荷が大きいといった弊害や、今回クラスターが相次いで発生したようにシステムの脆弱性も目立っている。また、国連が2017年に「家族農業の10年」を決議し、持続可能な開発目標(SDGs)の達成のためには小規模農家の繁栄が不可欠との立場を打ち出すなど、小規模農家の役割を評価し直す動きが米国も含め、世界的に広がりつつある。家族経営がほとんどのCSA農家にとって追い風だ。

CSA人気は米国だけではない。フランスではAMAP(Association pour le Maintien de l’Agriculture Paysanne)と呼ばれ、やはり日本の提携がモデルと伝えられているという。オーストラリアのオンライン紙「ニュー・デイリー」は今月初め、ビクトリア州のCSAを取材した記事を掲載。その中で「CSAは1970年代に日本の有機野菜農家が始めたもので、互助の精神を含んだテイケイの理念に基づいている」と紹介している。

発祥の地である日本では、今のところ、提携復活の兆しは見えない。